臆病者
救われようと思って、なけなしの金で鈍行を乗り継いで、東京へ行って、私は、酷く臆病者ですから、東京タワーを見ることもなく、映画館へ駆け込んで、そうしてそこで映画を見て、ご存知でしょうか、あそこはこの日本という国できっと、一番優しい場所なのですよ、ええ、ええそれで、その一番優しい場所に小一時間、いえ、二時間ほどお邪魔になって、それからもう行く宛がないものですから、ふらふらと、ただふらふらとして、途中見知らぬ御方に誘われもしましたが、すんでのところでダメになって、ああ、とにかく、私は臆病者なのです、救われる勇気すらないのです、あなたにはきっとお分かりにならないかもしれないが、とにかく全てが恐ろしく、人の愛情で死に至る生き物なのです、そう、だから、ええ、本当は、あなたのことだって恐ろしくって、逃げ回ったりして、だけどどうして、いえ、それはあなたがあなただからと言うほか理由はなく、私はただ、その手を振り解いて逃げるしかなかった。
いいんです、いいんです、これでいいんです、これしか方法がないように思われるから、ここまでやって来て、失望して、映画館に逃げ込んで、行く宛などなくなって、また失望して、飽きずにやってきているんです。ええ、はい、そうなのです、私は、臆病者なのです。
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