第23話 Sランク冒険者
はっ! ラスボスが現れる気がする!
そんな直感が走ったのは、ギルドでマルメさんを交えて、マシロとルーフェと雑談している時だった。
「ふんっ、小さいギルドだな」
あまり大きくはないのに、よく通るその声に、ギルドにいた者たちが振り向く。
ギルドの入り口に立っていたのは、豪奢な鎧や、高そうなローブを身に着けた、六名からなるパーティの一団だった。
「お、おい、あれ……」
彼らの姿を見た冒険者たちがざわめき出す。
「Sランクの『銀翼の天使』だ……」
「え? マジかよ! こんな田舎町に何で?」
「Sランクパーティなんて初めて見たわ」
有名なのか、ギルド内の冒険者が口々に驚きの声を上げている。
「マルメさんあれって……」
「王都で活動しているSランクパーティの『銀翼の天使』ですね。地方には滅多に出向かないと聞いたのですが、どうしたんでしょう?」
彼らが来た目的はギルド内でも知らされていないようで、マルメさんも首を傾けている。
「おいっ! このギルドは出迎えもないのか!?」
先頭に立っていた『銀翼の天使』のリーダーと思しき男が、ギルド職員に聞こえるように大声を上げる。
ほー、Sランクともなるとギルド職員の出迎えがあるのか、それはそれでギルドの入り口で待ってなきゃいけなくなるから面倒くさそうだな。
「ちょっと行ってきますね」
マルメさんは席を立つと、『銀翼の天使』の下へと向かった。
そしてリーダーらしき男と一言二言交わすと、彼らをギルドの奥へと連れて行く。『銀翼の天使』のパーティメンバーは男が四人に女が二人、みんな高そうな装備をつけている。
元の世界で言うとブランド品で身を固めたような印象といったところだろうか。
あの男の態度に一人くらい恐縮してそうなメンバーがいても良さそうだが、全員がそれを当たり前と思っているように平然とした態度だった。
「ふぅ……」
しばらくするとマルメさんがため息をつきながら、俺達の席へと戻ってきた。
「早かったですね。何かもてなさなきゃいけないんじゃないんですか?」
「えぇ、王都のギルドではそうされていたようなのですが、私はそんなルール全く知らなくて……。とりあえず飲み物だけ出して、後はギルドマスターに任せてきました」
マルメさんは笑顔でそう言った。
「そ、そうですか……」
俺は何も言えなくなる。ここのギルドマスターには会ったことはないが、少しだけ可哀想に思ってしまった。
マルメさんによるとあの不遜な態度のリーダーの男はゼストといって、一年ほど前にSランク冒険者になったらしい。
この国の中でSランク冒険者は十人にも満たない。『銀翼の天使』もパーティメンバー全員がSランクというわけではなく、ゼストともう一人男のメンバーがSランクなのだそうだ。
そんなゼストだが、短期間でSランクに上がったものの、あの態度を見れば分かる通り、あまり評判はよろしくなく、悪い噂もちらほら聞くらしい。
マルメさんは警告も踏まえてそんな風に教えてくれた。
それから俺達はいつものように、依頼に連れて行ってくれそうなパーティを探しつつ雑談を続けた。
マルメさんは仕事に戻り、途中でマシロとルーフェが顔見知りに女冒険者とワイワイ話したりして、『銀翼の天使』が来たことなど忘れそうになっていた時だった――。
「全く話にならない!」
ギルドの奥の扉から現れたのは、なにやら怒っているゼストだった。ギルド内の視線が一斉に彼へと注がれる。
ゼストは依頼が貼られた掲示板の前までいくと、Sランクの欄に貼られた一枚の依頼書を睨みつけた。
「この依頼はもう数ヶ月も前に張り出されていたはずだ! なぜ情報が一つもないなんていうことになるんだ!!」
そういいながらゼストは依頼書を掲示板から引っ剥がす。
「このギルドの冒険者達は、どいつもこいつも無能なのか!?」
ゼストは挑発するようにしてギルドを見回し、そしてギルド内の冒険者たちの敵を見るような視線を一身に受けた。
そんな様子を俺達三人は遠巻きに眺めていた。
いや、見ているのは俺だけで、ルーフェとマシロは別のことを話している……。どう育ったらこんなに図太い神経の人間に育つのか、俺にはゼストよりもその方が気になった。
集めた視線を意に介さず、ゼストはギルドを見回す。そして、その視線がマシロを捕らえたときに動きが止まった。
「なんだ、ここにいるじゃないか……」
ゼストはつかつかと俺達のテーブルの方へと歩いてくる。座っている俺達を物理的に見下ろしている訳だが、それに加えて精神的にも見下されているように感じる嫌な視線だ。
俺は敵意を込めてゼストを睨む。
だが、ゼストが俺の視線を気にすることはなかった。
あれっ!? モブじゃないよ。俺主人公だよ!!
「おい、おまえ」
ゼストはマシロに向かって声を掛ける。もはやマシロ以外は視界に入っていない、そんな感じだ。
俺が手を振ってみても、変顔をしてみても、ゼストは全く気にする様子がない。
えっ!? ひょっとして、俺透明人間になってる!?
いや、隣りにいるルーフェが俺と距離を取ろうとしていることから、少なくともルーフェには見えているようだ。
よかった、もしかして俺が気づかないうちにまた死んでいたのかと焦ったぜ。
「おい! そんなでかい耳をしていて聞こえないのか!!」
ゼストの腕がマシロに伸びる。俺はその手がマシロに触れる前に、ゼストの腕をつかんだ。
よしっ、掴めた。俺幽霊じゃない。
腕をつかんだ俺をゼストが睨む。
「さっきから何なんだお前!」
なんだよ、ちゃんと見えてたのかよ反応しろよ。変顔とかしちゃったじゃないか……。
「その手配書をよく見ろ」
俺はゼストに手配書を見るように言う。
「見ろ、手配書の獣人は首輪をしてるだろ。マシロには首輪がない。別人だ」
ゼストは手配書の絵とマシロを見比べる。
「それとも、Sランク冒険者の目は節穴なのかな?」
マシロは『隷属の首輪』はつけた本人しか外せないと言っていたし、これで納得してくれればいいんだが……。
「貴様ッ!!」
ゼストの手が腰の剣に伸びる。しかし、ゼストが剣を抜く前に、ゼストの首筋に赤い剣が添えられた。それはいつの間にかゼストの背後に立っていたエルストの赫剣だった。
「ここで事を起こすの? 相手になるよ」
エルストは殺気をむき出しにしながら、低い声で言った。
見ればギルド内にいた他の冒険者達もいつの間にか俺達を取り囲むようにしていて、ゼストに敵意むき出しの目を向けている。
周りを確認したゼストはゆっくりと剣から手を話すと、忌々しげに舌打ちをした。
「おい、お前達、暇なら僕達に付き合え。Dランク以下の奴らは来る必要はないぞ」
この雰囲気でよくこんなこと言えるよな。胆力だけは間違いなくすごい。
ゼストの言葉にざわつくギルド内。
そして、ゼストは俺達に背を向けると、パーティメンバーを連れてそのままギルドから出て行ったのだった。
ちなみに、ゼスト達についていく者は誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます