第18話 俺 vs マシロ ルーフェを添えて
「よし、それじゃ、ルーフェ頼む」
「ほ、本当にやるんですか?」
「あぁ」
装備を整えた翌日、俺達は町から遠く離れた草原へとやってきていた。
街道からも離れた人目につかない場所を選んだつもりだ。
俺の目の前には剣を持ったマシロがいる。ここでマシロとの模擬戦を行うつもりだ。
模擬戦と言っても、なるべく本気の勝負にするため、ルーフェには俺とマシロにありったけの防御力強化と、攻撃力の弱体化を行ってもらう。
こうしておけば、大きな怪我は回避できるはずだ。それに加えて念のため回復薬もルーフェには買い込んでもらっている。
「もぅ、ケガしちゃダメですからね!」
ルーフェは説得は諦めて呪文の詠唱に入った。
発動した魔法が俺とマシロに掛けられる。強化や弱体化の魔法の実感はないがルーフェの支援魔法は一級品だ。効果についての心配はいらないだろう。
「マシロも準備いいか?」
「うん」
「じゃあ、勝負だ」
俺は剣を構えてマシロに向き合った。マシロも両手で持った剣を構える。
静かになった草原に風が流れていった。俺はゆっくりと呼吸をして、緊張していた身体の力を抜く。
集中力を高めていくと、マシロが先に動いた。
一瞬で間合いを詰めると、剣を振り下ろしてくる。
速い。
今まで見てきたマシロの斬撃よりも速く鋭い斬撃だった。
だが、マシロが動いた瞬間、戦闘に入ったことで俺のスキルが発動しマシロの動きはスローモーションのように見える。
(でも、それでも速い!)
マシロの一撃をなんとかかわし、俺は横薙ぎに斬りつける。マシロも後ろに下がってかわす。
マシロの表情に変化はない。そう思ったところで虚を突くように再びマシロが突っ込んできた。
マシロの連撃は止まらず、凄まじい速度で打ち込まれる。
しかし、スキルで強化された俺の目が、体が、マシロの攻撃を見切り、導かれるように剣を動かす。
「むぅ」
怒涛の連撃をすべてを受け止めた俺に、マシロは不満顔だ。
でも今のやりとりでわかった。
マシロも俺も超強くない?
普通の人だったらこれたぶん目で追いきれてないよね? その証拠に横で見ているルーフェがぽかんとしている。
サポートとはいえ、いろんなパーティと共に行動し、そこそこ強い魔獣と戦ったことで俺とマシロのレベルも上がっている。
スキル頼りだった前と比べて、地力が上がっているのが自分でもわかった。
しかし、俺の強さはスキルのせいだとして、マシロの強さは何なんだ?
今の攻撃もなんとかしのげてはいるが、油断すればすぐにやられてしまいそうだ。マシロは獣人だから戦闘能力が高いのかもしれないが、強さの源はそれだけではない気がする。
そんなことを考えていると、また、マシロが突っ込んでくる。俺とマシロの激しい打ち合いが続く。
速さはマシロ。力はわずかに俺の方が上回っている。だが、剣術は互角。
(剣術がダメなら……)
俺はマシロに向けて剣を振り下ろす。マシロはそれを剣で受け止めるが、かまわずに俺は力で押し込んだ。
マシロが体勢を崩したところで、力を抜き油断を誘う。そして、マシロがよろめいたところで、俺は剣ではなく足を振り抜いた。
(体術だ!)
俺が突然放った蹴りをマシロは避けきれずにモロに喰らう。吹っ飛んだマシロはそのまま地面に叩きつけ……られず、空中で体勢を立て直してキレイに着地した。……猫みたいだな。
「いた……くない?」
着地したマシロが首を傾げる。思いっきり喰らったのにダメージがないのが不思議なんだろう。
「ルーフェの魔法のおかげだな。このぐらいにしておこう」
「むぅ、かちにげ」
「俺、勝ったか?」
勝負の終了を告げる俺に、マシロが口を尖らせる。
どっちが押していたとかもなかったし、ほとんど引き分けだったと思うんだが……。
ルーフェの魔法のおかげで怪我はなかったが、結構激しく動いたから汗をかいた。
服に付いた土埃を払いながら、俺は『じゃあ、また今度な』と再試合の約束をした。
「ふたりとも怪我はないですか?」
勝負が終わったのを見て、ルーフェが駆け寄ってきた。ルーフェの問い掛けに、俺とマシロは同時にうなずく。
ルーフェの言う通り、ふたりとも怪我はなかった。ルーフェの魔法がなかったら、危なかったかもだけどな。
今回みたいな模擬戦をやる時にはルーフェの魔法は必須になりそうだ。
それから、エルストとの約束の三日後まで俺達は強めの魔獣を退治して金を稼いだり(マルメさんに報告したよ!)、食料や回復薬を買い込んだりなど、ワイバーンとの戦いに備えて準備を進めた。
そして、約束の三日後が来た――。
「来たね」
俺達がギルドに入ると、エルストが既に待っていた。
「装備、変えたんだね。慣れたものじゃなくて大丈夫?」
「あぁ、準備の間に使い慣らした」
「そう、じゃあ行こう」
エルストはギルドの受付に一声掛けると、先導してギルドを出た。
ひと声かけたのはこれから討伐にいくという報告だ。元の世界でいう登山届に近いと思う。難度の高い依頼に挑む時にはギルドに報告を行い、俺達が帰らなければ、一応捜索隊が出されたりするらしい。
だが、そうなってしまった場合には探している対象は死んでしまっていることがほとんどだそうだ。
その話を聞いて、俺の緊張感は高まった。スキルがあるとはいえ、絶対の安全ではない。殺されれば死ぬ。
きっと二度目の転生はないだろう。
そんな、俺の緊張をよそに、マシロはいつものようにあくびをしていた。
その姿を見て自分が緊張しすぎていることに気づいた。俺は『ふぅ』と息を吐くと、意識して体の力を抜いた。
エルストを加えた俺達四人は、馬車に乗ってワイバーンの住むという場所へと向かう。
ただ、直接そこまで馬車で乗り込める訳では無い。ワイバーンは人が近寄らない険しい山に住んでいる。馬車が行けるのは山の麓まで。
そこからは、自らの足を使うことになる。
馬を休ませながら馬車で丸一日かけて山の麓までたどり着く。そこで一泊してワイバーンの住処へ向かう。
山頂付近で更に一泊し、体力を回復してワイバーンに挑む。これが今回の討伐計画だ。
道中は順調に進み、俺達はワイバーンの住処の手前までやってきた。
山というからには草木が生えているのかと思ったが、俺の想像と異なりワイバーンのすむ山はいわゆるハゲ山だった。
これだとワイバーン自体身を隠す場所がないと思うが、Sランクに指定される魔獣はおそらく食物連鎖の頂点だ。天敵などいないということだろう。
ワイバーンという天敵がいる俺達は山頂付近の岩陰に陣取り、明日に備えた野営の準備をする。
ワイバーンに気づかれないようにするため、火は使わず、そのまま食べることができる保存食を中心に腹を満たした。
「この先にいるんだよな?」
「えぇ、そのはず……」
エルストはそういうが、ワイバーンの気配のようなものはまるで感じない。
生き物の気配のない岩山だから仕方ないのかもしれないが、その様子を俺は不気味に感じていた。
「後で一度偵察に行ってくる」
「俺も行こうか?」
「いえ、気づかれる可能性が上がるから一人のほうがいいの。君たちは待っていて」
「そうか」
そして、エルストは食事を終えると、先の様子を見にいった。
「ワイバーンってやっぱ強いんだよな? ルーフェは戦ったことはあるのか?」
「いえ、私も竜種と戦うのは今回が初めてです」
魔獣の中でも特別な存在がルーフェの言う竜種だ。竜種の中でもその強さはピンキリであるが、その中で一番弱いと位置づけられているのがワイバーンだ。しかし、ワイバーンでもギルドの指定はSランク魔獣。つまり竜種の魔獣はすべてがSランクに位置付けられているということだ。
竜種は賢く、あまり好戦的な種ではないため通常は討伐対象とならないが、人に危害を及ぼす可能性がある時にはギルドに依頼書が張り出される。
そしてそれは、必ずSランク依頼だ。
緊急の場合には世界に散っているSランク冒険者に緊急招集がかかることもあるらしい。
ギルドもそれほど特別視している種族なのだと、ルーフェが教えてくれた。
「おまたせ」
そんな話をしていると、エルストが偵察から戻ってきた。
「どうだった」
「いたわ、この先の火口跡に。眠っているのか全く動かなかった」
「それなら、寝てるうちに攻撃するか?」
「いえ、予定通り体を休めて明朝に攻撃をしかけましょう。暗い中ではこちらも不利だもの」
俺とマシロは暗闇でも平気だが、ルーフェやエルストは違う。
俺達はエルストの提案に従い、翌朝を待つことにした。
翌日、日が昇り始め、朝焼けが岩山の赤土を燃えるような赤に染める。
舞台は整った。
――さぁ、ワイバーンの討伐だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます