第16話 金魚のフンに俺はなる!
マルメさんと話した次の日俺はマシロたちとともにギルドの掲示板の前で、依頼を見に来る冒険者たちの様子を見ていた。
マルメさんの授けてくれた作戦はこうだ。
新人が単独で高ランクの魔獣を倒すと目立つ。
ならば、倒せそうな人について行って、手伝った形にすればいい。
クレヴァンスのパーティとやった、メインとサポートとという役割分担だ。俺たちはサポートパーティとしてメインパーティのサポートを行い、高ランクの魔獣を倒すのを手伝いながら実績を積んでいく。
これなら、メインで戦うのはあくまでメインパーティなので、あまり目立たずに実績を積むことができ、ランクの上がりも早くなるだろうとのことだった。
名付けて『金魚のフン作戦』!
……この名前を考えたのは俺じゃないぞ。
そんなわけで、俺たちは高ランクの魔獣退治に行きそうなパーティを掲示板の前で探していた。
高ランクと言ってもAランクパーティはそもそも数が少ないらしいので、BランクやCランクを狙っていきたいところだ。
しばらく待っていると、ちょうど良さげな三人組のパーティを見つけた。
前衛一人に後衛二人、内一名は女性だ。彼らはCランクの掲示板を見ながら、次の依頼を探しているようだ。
「よし、マシロ。たのんだ」
俺がそう言うと、マシロはコクリと首を縦に振り、目的のパーティの女性のところへとてとてと向かった。
マシロは女性のところへ着くと、彼女の服の裾をくいくいと掴む。
「ん? あれ? あなた最近見かける白い子ね。どうしたの?」
「さぽーとぱーてぃほしくない?」
「サポートパーティ? あなた、ランクいくつなの?」
「えふ」
「Fランクかぁ。じゃあ、いいかなぁ。私達もそんなに余裕あるわけじゃないし……」
む、まずい。断られそうだ。マシロの可愛さでもダメか……。
というか冷静に考えれば、いくら可愛くても命がけの場所にいくのに、弱いやつ連れて行きたくないよな。
建前上の連れていくメリットが可愛いだけって、そりゃよっぽど余裕のあるパーティじゃないと連れてってくれないわ。
俺は自分のアホさを反省しつつ、マシロ達の下へと向かう。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか?」
「あなたは?」
「この子と同じパーティの者だ。改めてお願いする。俺たちも依頼に同行させてくれないか」
それから俺は、俺たちを連れて行くメリットを彼女たちのパーティに示した。
報酬は格安でいいこと。メンバーにAランクのルーフェがいること。そして俺たちの目的がランクを上げることだというのも正直に話した。
「どうする? リーダー」
「そうだな、今日の依頼は格上相手っていうわけでもないし、お試しということでいいんじゃないか?」
お、なかなか好感触。これは行けるか?
「ただし、あんたらに何かあったとしても責任は持たないぜ」
「あぁ、そうなったら置いていってもらって構わない」
「ならオーケーだ」
そうして、リーダーと呼ばれた男は俺たちの同行を許可してくれた。ちなみに、彼がリーダーのドランだ。浅黒の肌で背が高く体格もがっしりしている。
女性の方は弓使いのラミー。エルフではない普通の人間だが、髪色は金髪で、肩までの長さの髪を後ろで束ねている。
最後の一人は魔法使いのアル。大きな杖を持ち、ゆったりとしたローブのようなモノを着ている。
三人共に二十代前半くらいで、全員がこの町出身とのことだった。
それから、俺達は依頼を受け、目的地へと向かった。
俺たちが受けたのは、Cランクの依頼。内容は町から離れた山の中で目撃された、魔獣の討伐だ。
魔獣の名前はマーダーベア。この前マシロが一刀両断していたが、場所が全然違うので別の個体だろう。
っていうかCランクの魔獣だったんだな。
道中は、それぞれのパーティメンバーを紹介しつつ和やかに進んだ。もちろんマシロとルーフェがあらぬ方向にいかないように俺はちょいちょい彼女たちの軌道修正をしていた。本格的に犬に付けるリードのような紐が欲しくなるぜ。
絵面的によろしくないので、そこの改善策があればだが。
ラミーは前からマシロが気になっていたらしく、道中マシロの許可を取って耳などを触らせてもらっていた。
「何この手触り! めっちゃ気持ちいい!!」
「くすぐったい」
ルーフェも混ざって女三人できゃいきゃいしながら、じゃれ合っている。
ああいうことが気軽にできるから、女子同士はいいよな。俺も正直マシロの耳と尻尾は触ってみたい。
なんてやり取りをしているうちに、目的地へと到着した。
俺たちは、マーダーベアを探しながら森の中を進んでいく。先頭を行くのは、ドラン。彼は俺たちのことも気にかけてくれながら、周囲を慎重に警戒しながら進んでいった。
何かあれば俺達を置いていくと言ってたのに結構義理堅いんだな。あるいは道中のやり取りで多少の信頼関係を築けたと言うべきか。
俺たちは、彼の後に続く。
(結構進んできたし、そろそろ遭遇しそうだが……)
「レイト」
「あん?」
いつものか。
「なんかきた」
「マーダーベアが来るぞ! ルーフェ、先に防御!」
マシロのいつものセリフを聞いた瞬間、俺はルーフェに指示を出す。
「光の加護よ、彼らのもとに鋼の護りを」
さすがAランク冒険者だ。発動が早い。ルーフェの放った魔法が俺たちを包む。
それと同時に森の奥から、熊型の魔物が現れた。
全身が赤い体毛に覆われていて、顔つきは凶暴そのもの。赤いのは元々なのか、返り血によるものなのか。
マーダーベアは、鋭い爪をスパイクのようにつかいながら俺たちに向かって突進してくる。
さて、ここでマシロが攻撃してしまうと、おそらくすぐにマーダーベアが真っ二つになってしまう。
俺たちの目的は目立たずにランクを上げていくことであるため、マシロにはあらかじめ攻撃しないように言ってある。
俺もルーフェに指示を出した後、すぐにマシロとともに木の陰に身を隠した。
俺たちは、か弱いFランク冒険者だ。
「うおおおおおぉ!」
ドランは先陣に立つとマーダーベアの攻撃を受け止める。
ルーフェの魔法が効いているからか、マーダーベアの攻撃にも怯むことはない。そして、すかさずラミーの矢が放たれると、マーダーベアの腕に突き刺さる。
マーダーベアは痛みに声をあげ、腕を振り回すが、それもドランが大剣で受け止める。
マーダーベアの動きが止まったところにアルが魔法で追い打ちを掛ける。
「いい連携だな」
ルーフェのバフの効果もあり、ドランが崩れそうな気配もない。
三人はそのままマーダーベアに攻撃を続け、最後はドランの一振りで勝負が決まった。
「いやぁ、楽勝だったね」
ラミーが額の汗を拭きながら言った。
「今日のドラン、マーダーベアの攻撃を受けてもびくともしないんだもん。安心して弓に集中できたよ」
「えぇ、魔法もです。Cランク魔獣とはいえマーダーベアにはもう少し苦戦すると思いましたが、僕たちの実力も上がってきているようですね」
アルもそう言いながら、嬉しそうにしている。
「いや、それが……」
嬉しそうな二人とは裏腹にドランは少し戸惑ったような表情を見せていた。
「マーダーベアの攻撃が、すごく軽かったんだ」
「軽い? 言ってもCランクの魔獣だよ。そんなわけなくない?」
「でも実際、今日のドランはほとんど負傷していませんね。いつもだったらもう少し怪我をしていてもおかしくないです」
「あぁ、だから俺も変だなと……」
三人は不思議そうに話しているが、俺はなんとなく原因がわかっている。
「それはたぶん、ルーフェの魔法の効果ですね」
マーダーベアが姿を現した直後、俺がルーフェに指示したやつだ。
ルーフェの防御支援によって、三人とも防御力が向上していた。それにより、普段よりダメージを食らいにくくなっていたのだ。
俺が説明すると、三人は納得してくれたようだ。ルーフェがAランクだと伝えていたはずだが、その支援魔法がここまで効果があるとは思わなかったらしい。アルも攻撃専門のようだし、支援魔法自体あまり経験がなかったようだ。
「ありがとう。これほど簡単に依頼をこなせるとは思っていなかった」
マーダーベアを倒し終えた俺達はギルドへと戻ってきていた。ドラン達の心象も上々のようで当初の報酬よりも少し多めに俺達に配分してくれた。まぁ今回評価されたのはルーフェだけだろうけど、当初の予定通りなので、このまま続けていく形で問題なさそうだ。
「マシロちゃん、よかったらまた一緒しようね」
「うん」
ラミーもマシロのことを気に入ってくれたようだ。
マーダーベアの素材の配分も合わせて行い、その場は解散となった。
このまま続けていこう。そう思える初回の依頼だった。
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