第14話 激闘(見た目だけ)の末の達成報告

「い、依頼達成の報告を……」

「げ、激闘だったんですね。そんなにボロボロになられて……」


 ギルドのカウンターではクレヴァンスがオルトロス討伐の報告を行っていた。

 ギルド職員が若干引くぐらいクレヴァンスはボロボロのボコボコになっている。


 というのも、あの後――。


「うわぁああああ!」

「やめてくれぇえええ!」


 クレヴァンス達の悲鳴が山々に木霊する。オルトロスを討伐したのにキレイな姿のままなのは不自然だと言うことで、ルーフェの提案でクレヴァンス達を簀巻きにし、急斜面の上から転がり落としていた。


(不自然さを隠すためというよりも、普通にクレヴァンス達への罰だよな、これ……)


 こいつらは相当罪を重ねていたようだし、ルーフェさんはかなりお怒りのようだ。

 ルーフェが上から蹴り転がし、俺とマシロが回収して上まで持っていく。そんなことを何度か繰り返し、クレヴァンス達はオルトロスとの激闘を表現できるほどの身なりになった。


 ……激闘というよりも、全滅しかけでは? という気がしなくもないが黙っておく。


 それから二度とこいつらが悪さしないようにルーフェがエルフ直伝の呪いをかけた。

 今後悪意を持って罪を犯せば、末恐ろしいことが起こる呪いらしい。

 怖いので内容は聞かなかったが、まぁ、こんな目にあった上で更に罪を重ねようなどという者は流石にいないと思いたい。


 そんなわけでクレヴァンスは俺たち(主にルーフェ)に逆らうことはできない状態になっていた。


 そして、町へ戻るにあたって、クレヴァンス達に色々と命令させてもらった。


 一つ、オルトロスはクレヴァンス達が倒したことにすること。

 二つ、報酬は俺たちが九、クレヴァンスたちが一とすること。

 三つ、オルトロスの素材はすべて俺たちがもらうこと。

 そして、四つ、俺たちの実力を口外しないこと。


『約束を破ったらわかっているよな……』と、ルーフェを隣に立たせて脅しておいた。


 そんなわけで、今クレヴァンスが依頼達成の報酬を受け取っているわけだ。


「ど、どうぞ。お納めください」


 クレヴァンスが報酬を俺に渡す。

 ふむ、金貨10枚か。さすがAランクの依頼ともなると報酬も破格だな。

 俺は金貨を1枚取り出すと、クレヴァンスに渡す。これが今回の彼らの取り分だ。


「もう行っていいよ」

「えっ!?」


 報酬を受け取った時点でクレヴァンス達は用済みだ。


「あ、一応言っておくが悪さしないほうがいいぞ、マジで……」


 俺は最後に超真剣な顔をして、呪いのことを強調しておく。

 これだけ釘をさしておけば大丈夫だろ。


「は、はい! 失礼します!!」


 クレヴァンス達は青い顔をしながら、気力を振り絞って敬礼し、ギルドから出ていった。


「善行に励めよ~」


 俺は手をひらひらさせて、彼らを見送った。

 あんだけ釘を刺したんだ。これで彼らが更に悪行を行い、それで彼らに何があっても俺の責任ではないだろう。


 俺は他の女冒険者達とワイワイしていたマシロとルーフェと合流する。

 マシロが帰還の報告をしていたようで、女冒険者に頭を撫でられて満更でもない顔をしていた。


「お、リーダーさんのご帰還だね。オルトロス退治したんだって? すごいね」

「まぁ、俺たちは見てただけですけどね」

「そうなの?」

「俺とマシロはFランクですよ。今回はBランクのクレヴァンス達についていっただけです」

「ふーん……。ま、そういうことにしておいてあげる」


 女冒険者はニヤニヤしながら言った。


「じゃ、マシロちゃんまたね。ルーフェも」

「うん」「えぇ」


 彼女がそう言うとその場は解散となり、話に混ざっていたギルド職員達も持ち場に戻る。

 冒険者だけじゃなくギルド職員も混ざってたのかよ……仕事せいや。


「友達増えてきたみたいだな」

「友達?」

「仲良くなったんだろ?」

「うん」

「じゃあ、友達だろ」

「そうなの?」


 マシロはルーフェに振り向き確認する。


「そうですね。エルストさんと友達なんてちょっと恐れ多いですが、お友達と言ってもいいと思いますよ」

「ともだち……」


 マシロは友達という言葉を噛み締めているようだった。


「レイトとルーフェも、ともだち?」

「そうだな、俺たちは友達だし仲間だな」

「はい」

「そっか……」


 それだけ言うとマシロは黙ってしまった。


「もしかして……嫌だった?」


 俺は恐る恐るマシロに聞いてみる。ひょっとして一人が好きだから友達はいらない……とか?


「ううん、うれしい」


 少しはにかんだようなマシロの笑顔は、胸がきゅんとするほど可愛らしかった。


「ところで、さっきのエルストさんってのは有名人なのか?」

「レイトさん知らないんですか!?」


 ルーフェが驚いた声を上げる。そんなに有名なのかね。


「わたしもしらない」

「えぇ、そんなマシロちゃん!」


 さっき友達って言ってたのに……。まぁ、言ったのはルーフェか。


「エルストさんは有名人ですよ。いま最もSランクに近いと言われているAランク冒険者です」

「ルーフェだってAランクじゃん」

「いえいえ、私なんて後方支援しかできませんから。運良くすごいパーティにいさせてもらっただけ、で……」


 あ、やばい……。ルーフェの声と表情が落ち込んでいく。


「そ、それでエルストさんってのは何がすごいんだ?」

「はい! エルストさんは女性なんですけど、ほとんどソロで活動していて、それでいて討伐依頼をガンガンこなしていくんです。赫剣(かくけん)のエルストなんていう二つ名もあるぐらいなんですから!」


 出た、二つ名! かっこいい! でも自分がつけられたらと思うとちょっと恥ずかしい!

 それにしても赫剣ね、たしかに赤い剣背負ってたな。あれで魔獣を一刀両断するんだろう。ちょっと戦っているところを見てみたいものだ。


「へー、そりゃすごいな。でも、そんな人がなんでこの町にいるんだ?」

「それはわかりませんが、エルストさんはここを拠点にしているらしいですよ」

「ふーん……」


 俺たちのランクが上がれば、そのうち一緒に魔獣討伐に向かうこともあるかもしれないな。

 まぁ、俺とマシロはまだFランクに上がったばかりだ。そんなことになるのは当分先だろう。


 こうして俺はフラグを立ててしまった――。

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