第12話 マシロは剣を手に入れた!

 武器屋へ行った後、俺たちはギルドの依頼をこなしつつ剣が出来上がるのを待った。

 Fランクに上がったことで、受けられる依頼の幅が少し広がった。

 Gランクでは討伐系の依頼はほとんどなかったが、ウルフやボアなど普通の動物と変わらないような魔獣退治などはFランクの依頼に並んでいた。


 俺たちはといえば、ヒカリゴケの依頼のような採取依頼をこなしつつ、簡単な討伐依頼もこなして日銭を稼いだ。

 簡単な討伐依頼だと思っていたのに、マーダーベアとかに遭遇しちゃうのはなんでなんだろうな。

 マシロがまた一刀両断してたけど……新しい剣、いるかな?


 そうしているうちに三日が経過し、武器屋の主人と約束した剣の受け取りの日になった。


「おう、来たな!」


 店に入ると、店主の方から声をかけてくれた。

 カウンターの奥から出てきた店主は大きな木箱を抱えており、それをカウンターの上に置いた。

 その中身を見て、思わず目を見開く。

 中に入っていたのは、見事な装飾が施された細身の片手直剣だった。

 素人目にもわかるほど上等なものだということが伺える。


「とっていい?」


 マシロの声に店主と俺が頷いて答える。

 マシロは剣を手に取ると、ゆっくりと鞘から引き抜いた。


「きれい」

「本当ですね」


 マシロもルーフェも宝石でも見るようにその剣を見ていた。

 確かに綺麗だ、その刀身は空のように薄い青を纏っていた。


「材料は普通の鉄なんですよね?」


 まさか、ミスリル銀を使っていると言われても、そんな高価なものを買える金はない。この世界での価値は分からないが……。

 そもそも先払いしたし、大丈夫なはずだが。


「あぁ、あの色は魔石によるものだ」


 確かにアイアンリザードの魔石は青かったな。使う魔石によって刀身の色が変わるのか。


「試し斬りしてみるか?」

「うん」


 俺たちは店の中庭のような場所に移動する。


「いくぞ」


 そう言って店主が薪をマシロに向かって放り投げた。マシロは剣を構えると、そのまま数回振りぬく。

 シュッ! っと風を切る音が聞こえたかと思うと、一瞬にしてマシロの目の前にあったはずの薪が音もなくいくつもの破片に切り裂かれていた。

 俺も店主も呆気に取られて言葉が出なかった。


「うん、いい」


 簡潔な褒め言葉をマシロ様からいただき、俺たちは正気に戻る。

 これにルーフェの魔法支援が加わったりするんだろ? マシロさん強すぎるんじゃないか?


 俺たちは店主に礼を言い、店を後にした。

 店主のガンズ(名前を教えてもらった)は『いつでもこいよ!』と言ってくれた。

 どうやら結構気に入ってもらえたようだ。


 武器屋を後にした俺たちは冒険者ギルドへと来ていた。

 新調したマシロの武器を試すには、やはり討伐依頼をこなすのがいい。今はその依頼を見繕っている。


 少し薄暗い冒険者ギルドの建物内だが、マシロは薄っすら光るように存在感を放っている。


(洞窟での様子を見ると本当にうっすら光っているんだろうけど……)


 その上、今日からは上等な剣も身に着け、より目立つようになっていた。

 だが、最近マシロはその愛くるしい見た目から女性冒険者に気に入られ、声をかけられることも多くなっている。

 その女性冒険者が所属するパーティメンバーにも目をかけられているようだし、前のように絡まれることはもうないだろう。


 俺と二人だけだとマシロに声をかけづらいかもしれないが、今はルーフェもいるからな。

 人当たりのいいルーフェが仲介役になっていることも多いみたいだ。


 俺は女性冒険者達で話し込んでいるのをよそに、Fランクの依頼掲示板から手頃そうなものを探す。


(マシロの剣の切れ味を試すためには少し歯ごたえがありそうな依頼がいいが、Fランクの依頼でそんなものはないか……)


 そう思っていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには四人の冒険者が立っていた。

 そのうちの一人、先頭にいる男はクレヴァンスと名乗った。


「俺たちはBランクのパーティなんだが、今度の依頼に一緒に参加してくれるパーティを探していてね。よかったら一緒に組んでくれないか?」


 クレヴァンスは白い歯を見せながら、爽やかに俺たちをメンバーに誘った。


「俺たちFランクですけど、いいんですか?」

「あぁ、必要なのは後方支援でね。基本的に前線には俺たちが立つ。君たちには荷運びや警戒を手伝ってもらいたい」


 それなら俺たちにもできるか……。


「依頼内容と報酬は?」

「Aランク魔獣オルトロスの討伐。報酬は一人当たり金貨1枚でどうだろう?」

「Bランクのあなた達がAランクの依頼を受けられるんですか?」

「君はまだFランクだから知らないんだろうが、Cランク以上から少し自由度が上がってね。一つ上の依頼まで受けることができるのさ」


 ランクが上になるほどに人数が少なくなるため、担当者確保のためにそう言った措置が取られているらしい。そういえば、ギルドで最初の説明を受けたときにマルメさんがそんなことを言っていた気がする。


 早く上に上がりたいものはより早く上がれるということもあり、ギルドにとっても冒険者にとってもwin-winの制度だとクレヴァンスに説明された。


「オルトロスには勝てるんですか?」

「僕たちはすでにAランクの討伐依頼をいくつかこなしている。オルトロスも問題はないさ」


 ふーむ、自信はありそうだな。


「返事は他の仲間にも確認してからでいいですか?」

「あぁ、色好い返事を期待しているよ」


 そう言って、クレヴァンスは歯を光らせながら爽やかに去っていった。


 彼らの背中を見送った後、俺はマルメさんに話を聞きに行く。ルーフェはともかく、俺とマシロはFランクな訳だがそもそも依頼を受けられるのかなどいくつか確認しておきたい事がある。


「えぇ、サポートとして同行するのは問題ありませんよ」


 上位ランクの依頼ではメインパーティとサポートパーティと言う制度があり、メインパーティが責任を持つ形でサポートパーティを参加させることができる。

 その際サポートパーティのランクは問われない。依頼を達成すればサポートパーティにもポイントが加算され、ランクアップの助けになる。

 しかし、もしサポートパーティに被害があれば、メインパーティにはペナルティが課せられる。

 それで、高ランク依頼に同行するサポートパーティを保護しているということらしい。


「ちなみに、そのペナルティっていうのは?」

「被害の程度にもよりますが、ギルドポイントが相当数減点されます。場合によっては降格もありますね」


 むぅ、ペナルティはそれだけか……。


 俺はそれから、マルメさんにクレヴァンスのパーティの評判などを聞いた。

 そして、マシロとルーフェに説明をして、クレヴァンスにサポートパーティとしての参加を了承する返事をした。


 まぁ、いろいろと丁度いいだろう。

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