第11話 すごい剣を手に入れる気がする!(マシロが)

 はっ! なんだかすごい剣を手に入れる気がする!


 そんな予感が脳裏に走ったのはマシロたちと町を歩いていた時だった。

 今日はマシロの服と武器を買う予定だ。あり余るというほどではないが、ほどほどのお金はある。

 間に合わせとして買ったこの前の服よりもいいものを買ってあげようと思う。


「服はこの前買ったところでいいよな」

「うん」


 俺が言ったのはマシロが今着ている服を買った店だ。前回は手持ちが少なかったこともあって結構サービスしてもらったからな。

 恩返しということで今回はよりいい服を買えば、マシロも店も喜んでくれるだろう。

 何よりあの店員さんはマシロのことを気に入ってたしな、歓迎してくれるのは間違いない。


「こんにちは」

「いらっしゃ……マシロちゃん!」


 服屋の店員さんはマシロを視界に入れるなり瞬時に距離を詰め、マシロの手を握りしめた。

 まぁ、マシロはかわいいからな。いいけど、挨拶ぐらいちゃんとして欲しい……いいけど。


「はっ! すみません、つい!」


 マシロ以外の俺とルーフェの存在に気づいた店員さんが正気に戻る。


「こんにちは」

「はい、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で」

「えっと、たぶん店員さんの想像通り……、マシロの服を買いに」

「本当に来てくれたんですね!」


 店員さんが目を輝かせる。まぁ、ああいうやり取りは大抵社交辞令だしな。


「あぁ、そんなわけでマシロに普段着と、あと寝間着も」

「えぇ、前回よりも良いものを用意しておきましたよ。ってパジャマもですか!?」

「はい、いいのがあれば」


 なんでそんなに狼狽するんだと思ったが、服の方は用意していたけど、寝間着は想定外だったということか。

 ってか、マシロ専用に服を作ってくれたのか?


「と、とりあえず、準備していた服からご用意しますね」


 そう言って店員さんは一度店の奥へと引っ込み、戻ってくるなりマシロを連れて試着室へと向かった。


 数分後、カーテンが開くとそこには着替えたマシロが立っていた。

 袖のないトップスに、スカッツっていうのか? スカートがついているレギンスのような感じのボトムス。

 色合いはマシロ自体の白っぽさに合うように、パステル系の淡い色でまとめられている。


「ど、どうでしょうか?」


 店員さんが緊張した面持ちで、マシロの感想を待っていた。

 マシロは体を動かしながら、服が邪魔にならないかを確認している。

 マシロの嗜好はデザインよりも実用性って感じだな。それでも、尻尾をふりふりして喜んではいるようだ。

 うん、かわいいかわいい。


「ん、大丈夫」

「じゃあ、決まりだな。俺も可愛いと思うぞ」

「えぇ、マシロちゃんさらにかわいくなりましたね」


 マシロ本人と俺、そしてルーフェの感想を聞いて店員さんは肩を揺らして感激していた。

 そして、影でグッとガッツポーズを取ったのを俺は見逃さなかった。

 マシロ狂いというか、なんというか結構おもしろいな、この人。


「それで、寝間着なんですけど」


 俺はマシロが試着室に入っている間に選んだ自分の寝間着と、マシロの寝間着を店員さんに渡す。

 俺のは普通の柔らかめの素材のやつ。流石に現代日本の寝間着ほどの品質ではないが、手触りは結構なめらかだった。

 で、マシロのやつも同じような素材で、獣の耳が付いたフード付きのモノを選んだ。

 ルーフェに聞いたら獣人用のやつらしい。だが、これを選んだのは完全に俺の趣味だ。お前を可愛くせねばならない俺を許せ、マシロ。


 一式を店員さんに渡し、お会計をしてもらう。

 合計で銀貨45枚か。一応俺とマシロの金両方から出す予定だったが、これならここは俺の金貨1枚だけで事足りる。

 こうして、マシロは新しい服に着替え。俺たちは寝間着も手に入れた。


 帰り際、店員さんに『絶対また来てくださいね!』と念を押され、ついでに名前も教えてもらった。

 アティレさん、ね。

 マシロを連れてくれば安くしてくれそうだし、衣服関係はこのままこの店をメインに使うことにしよう。


 ◆◆◆


 さて、服を買ったら今度は武器だ。

 いつまでも、人様から拝借した武器を使うわけにもいかないし、そもそも俺とマシロ二人分の武器がない。

 まとまった金があるうちに武器を整えておきたいところだ。


 ということで、俺たちは町の武器屋を訪れていた。

 剣、槍、斧、弓、杖などなど。さまざまな種類のものが並んでいる。


「マシロはどんなのがいいんだ?」


 今まではありものの武器を使っていたわけだが、ちゃんと買うなら本人が使いやすいものがいいだろう。


「ほそい剣」


 細い剣、ね。レイピアとかショートソードとかそんな感じのやつか。

 俺たちは店内を回り、それらしい武器があるところへ向かう。そこには、色々な小ぶりな剣が並んでいた。

 しかし、思ったよりも品揃えが少なく見えた。


「いらっしゃい」


 声をかけてきたのは、店のカウンターにいた中年の男性だった。

 店主だろうか? ひげを蓄え、その腕は剣を鍛えて太くなったのだろう、マシロの腰ぐらいありそうな太さだ。


「この子に合う細身の剣を探しているんだが……」

「ふむ」


 店主はマシロを見定めるように見ている。

 強面の店主に見つめられて居心地が悪くなったのか、尻尾を下げたマシロは店主から隠れるように俺の後ろへと回った。


「細剣は数が少なくてな」

「何かあったんですか?」

「いや、単純に使い手が少ないからってだけだ」


 まぁ、普通の剣に比べたら、品数が少なくなるのは当然か。


「気に入ったのがなきゃ、打ってやることもできるが……」


 その目がそこそこ値が張るぞと言っている。


「ちなみにお値段は……」

「注文の内容によるが、金貨1枚からだな」


 ほう、マシロにも出してもらうことになるが、払えない額じゃないな。

 せっかくだし、造ってもらうか。


「じゃあ、打ってもらえますか?」

「あいよ」


 店主はそう言うと、棚に置いてある細剣を一本手に取ってマシロに手渡す。

 それを基準にして、もっと細くとか、重さなどマシロの希望を引き出していった。

 最初は店主を警戒していたマシロだが、徐々に慣れたのか垂れ下がっていた尻尾もいつの間にか元に戻っていた。


(この店主も強面だが、優しい人だな)


 見た目に似合わず、店主もマシロにかなり気を使っているのが伺えた。

 店主は口数の少ないマシロが答えやすいように質問を工夫して回答を引き出している。

 そして、マシロがわからなそうなことはルーフェがフォローして内容を詰めていった。


「あとは、魔石があればよかったんだが、あんまり数がなくてな」


 剣を鍛える時に魔石を合わせて作ると、剣に付加効果のようなモノをつけられるのだという。


「魔石は何でもいいんですか?」

「何でもいいが、当然強い魔獣のものの方がいいな。あとは武器によっては向き不向きというか相性がある」


 例えば弓だったら、ワイバーンのような飛竜や鳥系の魔獣の魔石がいいし、ハンマーだったらこの前戦ったクラッシュボアが向いているらしい。


「剣だったらアイアンリザードが使えればいいんだが、あれも結構希少でな」


 今店に在庫はないと……。


「魔石って、こっちから提供してもいいんですかね?」

「そりゃ、こっちとしては素材を持ってきてもらえるのはありがたいが……」

「これ、使えます?」


 俺はアイテム袋から以前倒したアイアンリザードの魔石を取り出した。


「お? おぉ! こりゃいいぜ! なかなか質がいいし、しかもデケェ!」


 店主は魔石を受け取ると奥へと戻ろうとする。


「あ! ちょ、ちょっとお代は?」

「あ、あぁ……、そうだったな金貨1枚置いといてくれ」


 置いとけって、不用心だな。

 っとそれに俺の剣も買わないと。


「あと、俺の剣も欲しいんだが、俺のは普通のでいい」

「なら店の樽に突っ込んであるやつ一本適当に持っていきな」

「金は?」

「この魔石で相殺ってことでいいぜ」


 金貨一枚+魔石一個=マシロの剣+おまけの俺の剣ってことか。

 それから、さっさと剣を打ちたくて仕方がない店主を引き止めつつ、三日後に剣の引き渡しを約束して店を後にした。

 俺は樽に入れてあった剣の中から手に馴染んだもの一本選んだ。鑑定で見てもどれも普通の剣だった。

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