第10話 なんだかまた強い魔物と戦う気がする
はっ、またなんだか強い魔獣と戦うことになる気がする!
アイアンリザードを倒した翌日、俺たちは改めてヒカリゴケの採集に来ていた。
道中何度も道を確認し、ぶーたれるマシロとルーフェの意見をガン無視し、俺たちはなんとか目的の洞窟へとたどり着いた。
洞窟に入る前に、洞窟自体を鑑定したし今度は間違いないはずだ。
ギルドが管理している洞窟とルーフェが言っていたが、その言葉通りしっかり管理されている洞窟のようで、中には魔石による明かりが灯されている。
明かりと言っても道の目安になる程度で、洞窟の中は明かりがあってもそれなりに暗い。
ヒカリゴケの採取地になっているようだし、あまり明るくなりすぎないように配慮しているのかもしれない。
「ヒカリゴケってどれかわかるか?」
俺はルーフェに聞いてみる。ルーフェはパーティの支援担当で、しかもエルフという事もあって、かなり物知りだ。
正直、俺とマシロだけではこの世界の常識に対して不安があったので、ルーフェの存在は心強かった。
「はい、こちらですね」
ルーフェが指差す先には、苔のような植物が生えていた。
その苔は光に照らされてもいないのに暗闇の中で青く幻想的に光っている。
「なるほど、わかりやすいな」
俺は早速、ヒカリゴケを依頼分だけ採取し、アイテム袋へと入れる。
Gランクの依頼だけあって楽勝だったな。
「早く終わったし、のんびり散策でもしながら帰るか」
金に余裕もあるし、一日に何個も依頼をこなす必要もない。
余った時間でのんびり帰る提案をしてみる。
「いいですね」
「いいと思う」
マシロもルーフェも賛成のようだ。
せっかくなので、このふたりの方向音痴っぷりを確認するため、ふたりに好きな方へ行くように促してみた。
(このふたり、波長は合うみたいなんだよなぁ……)
ルーフェは前のパーティで、仲間たちとしょっちゅうはぐれていたらしいし、マシロは目的の場所からとんちんかんな場所へ向かってしまう。
しかし、しばらく後ろから観察していても、ふたりが別々の方へ向かうようなことはなかった。
(まぁ、普通仲間とはぐれるなんてことは、そうそうないと思うのだが……)
なんにせよ『俺が』ふたりから離れなければ、3人がバラバラになることはなさそうだ。
「こうやってのんびり歩くのもいいもんだよなぁ」
森に入ると、木々に遮られて日差しが柔らかくなり、涼しくて気持ちが良い。
俺の気分はすっかりピクニックモードになっていた。元の世界で言うマイナスイオンっていうのが出ているのか、すごくリラックスできている気がする。
マシロも森の中が好きなのかさっきから、耳と尻尾をぴこぴこ動かしながらうろちょろしていて、ルーフェはそれを微笑ましく見ていた。
「レイト」
「なんだ?」
「なんかいる」
む、このパターンは、なんかやばい魔獣が出たやつか?
アイアンリザードのときもこんなやり取りをしたぞ。
俺は警戒するが、マシロが指差す茂みから顔を出したのは、 ちいさいイノシシだった。
うり坊ってやつか? 愛くるしい見た目で、つぶらな瞳で俺を見つめている。
かわいいじゃないか。
俺が近寄っても逃げようとしないし、むしろすり寄ってくる。
「かわいいな、こいつ」
「あの、レイトさん。申し上げにくいんですが……」
俺が子イノシシを適当にあしらっていると、ルーフェがおずおずと話し掛けてきた。
どうしたんだろう。なんかまずかったかな? 俺は内心ビクビクしながらも、平静を装って聞き返す。
「それ、クラッシュボアです」
「クラッシュボア?」
俺の疑問にルーフェが答える。
なんでも、その小動物のような姿に騙されてはいけない魔獣で、愛くるしい姿の子供を囮にして油断したところを親が襲いかかってくるらしい。
「つまり、この状況は?」
「とてもまずいです」
ルーフェがそう言った瞬間、俺の足にまとわりついてたイノシシが牙を向いて足を狙ってきた。
「クラッシュボアはそうやって、まず足を狙って獲物を動けなくしようとします!」
その獲物って俺だよね!
「あっぶね!」
「レイト」
「なんだ!? マシロ」
「なんかきた」
そう言うマシロの視線をたどると、森の奥から『ドドドドド』という音が聞こえてくる。
これは……やばい!
「避けろ!」
俺がそう言うと同時に灰色の巨体が、木々をなぎ倒しながら俺の目の前を駆け抜けていった。
まじかよ……。
クラッシュボアが通り過ぎた後、俺は唖然として倒された木々を見つめていた。
迫りくるその巨体に、俺は死んだ時に目に焼き付いたトラックの姿を思い出し、心臓がキュッとなった。
なるほど、子供の愛くるしさに油断していると、あの親の巨体に轢き殺されるわけだ。いや、冷静に分析している場合じゃない。
俺はマシロとルーフェの無事を確認する。
無様に避けた俺と違い、ふたりはすでに体勢を整えていた。さすがだな、このふたりは本当に優秀だ。
「マシロ!」
俺はマシロに向かって剣を投げる。マシロにはまだ武器を買ってやってないからな。俺が持ってるよりも、戦い慣れているマシロが持っていたほうがいいだろう。
……戦うのが怖いからじゃないぞ。本当だぞ!
俺の投げた剣をマシロは軽々とキャッチし、クラッシュボアの突進を避けつつ、すれ違いざまに斬りつけた。
しかし、その一撃では致命傷にならないのか、振り向いたクラッシュボアは再びマシロに突っ込んでいった。
マシロは慌てることなく、猫のようにしなやかな動きでクラッシュボアの突進をさばく。
マシロが相手の攻撃を捌いている間に、ルーフェは魔法を準備していた。
「光の加護よ、彼の者に守護の盾を」
ルーフェの杖から発せられた光が、マシロを囲むように地面に突き刺さった。
次の瞬間、光の壁のようなものがマシロを取り囲み、クラッシュボアの攻撃を防いだ。
「おお」
自分の周囲に作られた光の壁をみて、マシロが感嘆の声を上げる。
(防御バフ、かな? 俺もなんかかっこよく言ってみたいぜ)
こう、炎の弾でばーん!みたいな感じのね。
俺はクラッシュボアに向けて手を伸ばし、なんとなくかっこいい詠唱を唱えてみる。
「汝その罪を嘆き、地獄の業火に焼かれん」
詠唱ってなると『汝』って使いたくなるよなぁ。
そんなことを考えていると、俺の手のひらに向かって赤い光が収束していくのが目に見えた。
え、なに?
収束した魔力が炎の球を作り出す。これはまずい……。
「マシロ! 避けろっ!」
収束した魔力が、巨大な炎の球を撃ち出す!
どん! という衝撃と共に、クラッシュボアの突進のように炎の弾が森を貫いた。
「わっ」
マシロはクラッシュボアの体を踏み台にして素早く離脱し、炎の弾が通り過ぎた後には真っ黒に焼け焦げたクラッシュボアの親子だったものだけが残っていた。
あっぶねー。危なくマシロを巻き込むところだったぞ。
焼け焦げた森の跡を見て俺は青ざめる。
「ごめん! マシロ、大丈夫だったか」
「……ちょっと熱かった」
マシロは耳を垂らしながら答えた。尻尾も垂れ下がっていて口調とは裏腹に、かなり怖がらせてしまったようだ。
俺はマシロのもとへと向かい、しっかりと謝りながらマシロの頭を撫でた。
「レイトさんは攻撃魔法が使えるんですねぇ」
唖然とした顔をしながらルーフェもこっちへと来る。
「あぁ、俺も初めて知った」
「えっ?」
「いや、なんでもない……」
ん? 別に隠す意味もないか? まぁ、いいや。
俺はクラッシュボアの魔石を回収して、黒焦げになったクラッシュボアと向き合う。
……正直、食欲をそそるいい匂いがする。これ、うまいんじゃね?
俺はマシロに剣を返してもらい、その剣で焦げたクラッシュボアの表面をそぎ取る。
すると、焦げた肉の下から、肉汁の滴る脂のよく乗った肉が現れた。ちょうどいい具合に火も入っている。
俺は肉の一部を切り取って口に入れる。鑑定で一応見たが問題なく食べれそうだ。
「うんまぁー!!」
俺はその肉の味に目を見開いた。その様子をマシロがよだれを垂らしかけて見ていたので、同じく一切れ切り取って、マシロの口にも入れてやる。
「おいし」
マシロも目をキラキラ輝かせてそう言った。先程まで垂れていた尻尾もすっかり元気を取り戻している。
いや、これは美味すぎるだろ……。
それから、三人で肉を取り分けながら貪るようにクラッシュボアの肉を食べた。
「いやー、でもレイトさんの詠唱初めて聞きましたけど、すごい威力の魔法ですね」
「そ、そうか?」
「えぇ、Bランク魔獣のクラッシュボアを一撃なんて、マジでヤバいです!」
クラッシュボアはBランクなのか……。まぁ、でかいしあの突進はマジ死人が出てもおかしくないからな。
ルーフェの質問をはぐらかしつつ俺たちは町へと戻った。
そして、ギルドにヒカリゴケを提出し、俺とマシロは無事Fランクへと上がった。
うん、順調、順調。
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