第9話 俺たち(主にマシロ)の実力は隠しておこう
アイアンリザードがいた洞窟を後にした俺たちは、町へ向かって歩いていた。
「ギルドには何と言ったもんかなぁ」
道すがら、俺はアイアンリザードを倒したことをギルドにどう言って報告するかを考えていた。
正直に報告したら絶対目立つよなぁ。
そして、俺の直感が言っている。目立つと面倒なことに巻き込まれると。
そもそも、正直に言ったところで信じてもらえるかも怪しい。俺とマシロはGランクなのだ。
ルーフェはAランクらしいが、彼女は支援魔法の使い手で、彼女自身が強いわけではない。
そう、傍目に見れば、こんな3人でAランクの魔獣を倒すなどありえないのだ。
だから、アイアンリザートを倒したという事実を隠すのは全く問題ない。
「でも、金は欲しいんだよなぁ」
アイアンリザードはAランクの魔獣だ。その素材もきっと高く売れるだろう。
だが、アイアンリザードを倒した事実を隠すとすると、その素材はどこで手に入れたんだという話になる。
もちろん答えられないし、怪しさ満点になってしまう。うーん。
「ルーフェってこの町に来て長いのか?」
「いえ、来たばかりですよ?」
「ということは、ギルドに知り合いはいない?」
「そうですね。以前にも何度か訪れたことがあるので顔見知りのギルド職員の方はいますが、親しいという程ではないですね」
なるほど、ということはマルメさんともそんなに親しくはないわけだな。
ルーフェについて詳しく知る人がいないなら好都合だ。
「よしっ、アイアンリザードの素材はルーフェに売ってもらうことにしよう」
「それだと結局私達が倒したことになりませんか? マシロちゃんが強いことを隠したいんですよね?」
「あぁ、だからアイアンリザードの素材はルーフェが『過去』に退治したアイアンリザードのものを『たまたま』持っていたことにする」
先程離脱したとはいえ、ルーフェは元々Aランクパーティのメンバーだ。アイアンリザードのような強力な魔獣を過去にも倒していただろうし、その素材を彼女が持っていて、手持ちの金が少なくなったから買い取ってほしいと切り出せば、不自然ではないだろう。
「なるほど、それなら確かに私達でアイアンリザードを倒したとは思われませんね」
我ながら名案である。これで行こう。
「じゃあそれで決まりだな。そうなると、ギルドに行く前に素材を取っておかないといけないな」
俺はアイテム袋からアイアンリザードの死体を取り出す。
「私そういうの得意です!」
ルーフェがそう言って立候補すると、彼女は荷物からナイフを取り出し、アイアンリザード死体へとナイフを入れていく。
皮、鱗、爪、牙などを手際よく剥ぎ取り、肉を切り分けていく。さすがはAランク冒険者といったところか。
支援が得意っていうのは戦闘だけじゃないってことだな。
っていうか、方向音痴以外マジで有能なんだけどこの人。
ルーフェはテキパキと作業をこなし、あっという間に解体を終えた。
「今回売るのはこの辺だけにしておくか」
俺は解体された素材の一角を示す。
とりあえず当面の金が工面できればいいし、規模の大きいパーティメンバーの一人だったルーフェが一人で大量の素材を持っているのもおかしいからな。
俺はルーフェが解体した素材をアイテム袋にしまうと、ルーフェとマシロと共に町の冒険者ギルドへと向かった。
◆◆◆
「マルメさん、こんにちは」
「あらレイトさん、こんにちは。マシロちゃんも」
マシロは無言でこくりと頷いて返事をする。
「それと、そちらは……」
いつもふたりで行動していた俺たちの横に、見慣れぬ三人目の姿を見て、マルメさんは首を傾げる。
「えっと、こちらはルーフェさんと言いまして、出かけた先でたまたま知り合ったんです」
「ルーフェと申します。よろしくお願いしますね」
ルーフェは微笑みを浮かべる。
「はぁ、そうですか……。でも、ルーフェさん、どこかで見たような……」
む、まずい、Aランク冒険者となるとかなり知名度が高いのか?
というか、アイアンリザードの依頼はこのギルドで受けたのでは? ルーフェの顔をバッチリ知ってる人に見つからないように、さっさと用件を済ませたほうが良さそうだ。
「そんなことよりマルメさん。ルーフェさんの素材を買い取ってもらえますか?」
俺は強引に話題を変える。
「それは構いませんが……」
アイアンリザードの素材は打ち合わせ通りルーフェが過去に倒したということにして、素材を買い取ってもらった。
予定通りあまり多くの素材を売った訳では無いが、締めて金貨4枚(=銀貨400枚分)。けっこうな金額になった。さすがAランクの魔獣である。
換金した金貨は俺とマシロが1枚ずつ、ルーフェが2枚ということにした。
俺たちはそんなに金を使わないし、ルーフェに嘘を付いて素材を売ってもらったからな。
ルーフェは最後まで遠慮していたが、俺が無理やり押し付ける形で金貨2枚を受け取らせた。
これで宿代にはしばらく困らないし、マシロの服ももう少しいいのが買える。
寝間着なんかも買って生活を整えて行きたいところだ。
「ルーフェはこれからどうするんだ?」
ギルドを出たところで俺はルーフェに声を掛ける。
「あのぅ、それなんですけど……」
「よかったら、俺たちとパーティを組まないか?」
「ふぇっ!?」
先手を打った俺の言葉にルーフェが変な声を上げる。
「マシロも構わないだろ?」
「うん」
マシロは考えるまもなく返事を返す。
わりとルーフェのことを気に入っていたようだからな。予想通りだ。
「それで、ルーフェはどうだろうか?」
「わ、私でよければ……ぜひ」
「よし決まりだ」
こうして、ルーフェが仲間に加わった。
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