第7話 美少女が勝手に俺のベッドに潜り込んでくる気がする!
はっ! 美少女が勝手に俺のベッドに潜り込んでくる気がする!
翌朝、そんな直感とともに目を覚ますと。
おれの目に獣の耳が大きく写り込んだ。その耳は白く透き通るようなきれいな髪の毛から生えていて、呼吸に合わせて時々ぴくっぴくっと動いている。
マシロが何故か俺のベッドに潜り込んでいた。
……昨日別のベッドで寝たよな?
うん、間違いない。
マシロの背中越しに、ありがとうの声を聞いたのを覚えている。
あれ? なんでこっちに来てんだ?
「おーい、マシロ」
「んん」
俺の声に反応してマシロが目を覚ます。
寝ぼけ眼を猫のように手でこすり、マシロはまだ眠そうにしている。
「何でこっちで寝てんだ?」
「……寒かったから」
マシロは俺から目をそらして、そう言った。
まぁ、そういうことにしておいてやろう……。
さて、早々に予感を回収したところで今日から本格的に冒険者活動を行おうと思う。
金がなければマシロに服も買ってやれないし、宿にも泊まれない。
そもそも食うこともできない。
命をつなぐためには、まず金が必要だ。
そんなわけで俺とマシロは昨日に続いて冒険者ギルドに来ていた。
「今日はちゃんと達成感のある依頼にしような」
「うん」
昨日はすでに持っている素材を渡すだけだったからな。楽なのはいいが、依頼をこなしたという感じはしなかった。
俺は掲示板の前に立って、張り出されている依頼書を見回す。
ゴブリン討伐、薬草採取、ホーンラビットの角納品などの依頼が並んでいる。
「ホーンラビットっていうのは、森では会わなかったな」
「ホーンラビットは草原の魔物」
「そうなのか。魔物退治のほうが冒険者っぽいし、これにするか」
「うん」
俺は依頼書を剥がしてギルドの受付へと向かう。
「いらっしゃいレイトさん、マシロちゃん」
対応してくれたのは昨日対応してくれた受付のお姉さんだった。
「名前、覚えてくれたんですね」
「えぇ、職業柄そういうことが得意になってしまって。特にマシロちゃんはかわいくて目立ちますし、忘れようと思っても忘れられませんね」
受付のお姉さんはマシロに向けてウインクをしながらそんなことを言った。
人を褒めるのが上手いなこの人。
「わたしがかわいいのは知ってる」
昨日服屋の店員にも褒められてたしな。
そんなの常識だとでも言わんばかりの態度だが、マシロのしっぽはゆらゆらと動き、耳もぴくぴく動いていて喜んでいるのがまるわかりだ。
俺と受付のお姉さんは互いに目を見合わせてくすりと笑った。
「それで、本日のご用件は、ホーンラビットの討伐ですね」
「はい、お願いします」
「かしこまりました。ホーンラビットはここから西に行ったところの草原に生息しています。低ランクの方でも倒せる小さい魔物ですが、魔物らしく好戦的で凶暴なので、油断しないでくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
「いってきます」
受付のお姉さんに見送られ俺とマシロはギルドを出た。
そのまま教えてもらった西の草原へと向かう。
街の外に出ると見渡す限りの大平原が広がっていて、遠くには山々が見える。
日本にいたころはこんな大自然は見たことがなかったな。
日本ではどこに行っても視界に人工物が入っていたが、今目の前に広がる景色には人が作ったものは一切目に写っていなかった。
思えばこんな景色を目にするのは人生初かもしれない。
まぁ、前の人生は終わったんだが。
「そういえばマシロって戦えるのか?」
前にちらっと見たステータスではHPなどは俺よりも高かったが、実際実力はどうなんだろう?
「うん、わたしつよい」
とは本人談だ。自信満々だった割に方向音痴だったりしたし、ちょっと怪しいかもしれない。
「む」
俺が訝しげに見ていたのが気に入らなかったのか、マシロが口を尖らせる。
「剣貸して」
マシロが俺に向けて手を伸ばして来たので、俺は持っていた剣をマシロに手渡した。
昨日馬車の護衛から拝借した使い古しの剣だ。
「刃こぼれ」
マシロは鞘から剣を抜くと、その刀身を見て呟いた。
「それは元々俺の剣じゃないんだ。金が貯まれば買い直す」
「ふーん」
マシロは俺に鞘だけ返すと、草原へと歩いて行く。
「いってくる」
『どこへ?』と俺が聞き返そうとした時には、マシロはすでにその場にはいなかった。
数瞬の間にマシロは遠くへ駆けていて手に持ったロングソードを素早く振り下ろし、何かを斬り裂く。
「ギィ!」
マシロに斬られたのは額から角が生えているウサギのような魔物だった。
「あれがホーンラビットか」
ホーンラビットはマシロに一太刀で両断され、絶命する。
マシロはそのまま草原を駆け、ホーンラビットを狩っていく。そして、その全てを一撃で仕留めてしまった。
「おわった」
言いながらマシロはぼーっと立ち尽くしていた俺の元へと戻ってくる。
息が切れた様子もない。マシロは本当に強かった。
「そんなに強いのに、なんで奴隷なんかに……」
「……」
俺の質問にマシロは答えなかった。まぁ、自分が奴隷になった原因など答えたくはないか。
俺がそう考えていると――。
「……こうみょうなワナにかかった」
背中越しにマシロがそう言ったのが聞こえた。そういえば前もそんなことを言ってたんだっけか。こんなに強いのにどんな罠にかかったのやら、気になるところだ。
マシロが狩ったホーンラビットから角を回収する。
依頼では5個だったが、見える範囲にいた奴らをマシロが狩り尽くしたので合計で13個手に入った。
ギルドに言えば、値は下がるだろうが依頼外の分も買い取ってもらえるだろう。
◆◆◆
「早かったですね……」
驚いた顔で俺たちを迎えたのは、依頼を受ける時に対応してくれた受付のお姉さんだった。
「えぇ、草原に結構な数がいたので」
「そうですか、ホーンラビットは結構俊敏で低ランクの方だと苦戦する人も多いんですけど」
マシロが目にも留まらぬ速さで駆け抜けてたからな……。
「これ、依頼の角です。多めに取れたのでその分も買い取ってもらえると」
「あぁ、はい。わかりました」
俺は受付のお姉さんが出してくれた底浅の箱に取ってきた角を置いていく。
お姉さんは箱を確認して一度奥へ引っ込むと、お金を載せたトレーを俺に差し出した。
「依頼の報酬分と個別の買い取り分を含めてこちらになります」
「ありがとうございます」
銀貨11枚か。スライムの魔石の方が単価は高めってところか?
報酬分と混合だから細かいところはわからんが。
「さて、一応今日の分の宿代などは問題なくなったわけだが……」
またしても、俺は何もせずに依頼が終わってしまった。
このままではただの素材の回収係となってしまうので、もう一つぐらい依頼をこなしたい。
「Gランクの依頼だと……」
そういえば、どうすればランクが上がるのかを聞いていなかったな。
あとで、聞いてみるか。ついでに受付のお姉さんの名前も聞いておこう。いつまでも『あの』とかで声を掛けるのも気が引けるしな。
「ヒカリゴケか……」
目についたのは洞窟でのヒカリゴケの採取という依頼だった。簡単そうな依頼のわりに報酬も悪くない。
「これ受けてもいいか?」
俺はマシロに聞く。
「ん」
マシロは小さくうなずいた。
「すみません」
俺は先ほど対応してくれた受付のお姉さんに声を掛ける。
「はい? あれ、レイトさんとマシロちゃん? もう1件受けるんですか?」
「えぇ、まだ時間があるので」
「熱心ですね。これならすぐにランクが上がりますよ」
「あぁ、そうだ。ランクってどうやったら上がるんですか?」
「依頼ごとにポイントが設定されていて、それが一定以上貯まるとランクアップしますよ。」
そういえば、ギルドカードに依頼の履歴が書かれてたな。
「ちなみに、GからFへは」
「Gは基本的に研修みたいなものなので、10ポイント獲得するとランクアップします。レイトさん達はすでにいくつか依頼をこなしてますので、えーっと……」
受付のお姉さんはなにやら手元の資料を見ている。
「あぁ、この依頼を達成すればちょうど上がりますね」
俺が持ってきた依頼書と資料を見て、彼女はそう言った。
依頼書にポイントのようなものは書かれていなかったので、彼女にそのことについて尋ねたところ、依頼書に書いてしまうとポイントが高い依頼に人気が偏ってしまうため、あえて公開していないのだそうだ。
なるほどな、と思った。
「あぁ、あとお姉さんのお名前教えてもらってもいいですか? 今後もお世話になりそうなので」
ナンパではないぞという雰囲気を出しつつ俺は彼女に名前を聞いた。
「あれ? 名乗っていませんでしたっけ? 私マルメって言います。改めてよろしくお願いしますね!」
下心などまるで疑っていないように笑顔で名前を教えてくれる彼女。
冒険者ってガラの悪いのもいそうだけど大丈夫なのか? あるいはもうあしらい慣れてるって感じか。
俺たちはそのままヒカリゴケの依頼の受付をしてもらい。街の外の洞窟へと向かった。
ゆっくり歩いてたら2時間ほどもかかった。そういえば、街からは遠くに山が見えていたからな、洞窟が遠いのも当然だ。
報酬が高めなのはこれのせいか……。
まぁ、時間がかかったのはマシロが変な方向に誘導したせいでもあるんだけど。
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