第4話 ヒロインは無愛想だった!
「眠ってる、のか?」
呼吸に合わせて体が動いているのがわかる。死んではいないようだ。
白い長い髪に、頭から生えた獣の耳、尻には長い尻尾もある。
「獣人ってやつか?」
生で見る獣耳少女に、俺はにわかに昂ぶる。
檻には鍵がかかっていたが、俺は数多のスキルの中から見つけたアバ○ム的な鍵を開ける魔法で檻を開く。
抱えた少女はとても軽かった。見た目よりも軽い。栄養状態が悪いのか露出している腕や足は無駄な肉どころか、あるべき肉すら少ないようであまりよくない扱いを受けていたことがわかる。
「そもそも、首輪もついているしな」
みすぼらしい服に首輪、奴隷のような扱い、というかおそらく奴隷なのだろう。
俺が読んだ作品のなかでは、奴隷が丁重に扱われている作品もあったが、この世界はそうではないらしい。
とりあえず、すべての奴隷を助けるなどという夢は語らずに目の前の少女を助けることにする。
「おーい」
鑑定で体に傷や、毒などがないことを確認して、俺は少女に声をかける。
年の割にHPは低くない。というか俺よりも全然高い。これが獣人の特徴なのかもしれない。こんなにガリガリなのにね。
体重などの細かい情報からは目を反らした。プライバシーは守る紳士な男ですよ俺は。
ちなみに名前は『???』になっていて、見ることができなかった。
猫っぽい外見だけに名前がまだないのか、俺に見えないように何かの力が働いているのかまではわからない。
「おーい」
俺は少女の肩を揺らしながら声をかける。
「ん、んん?」
「起きたか?」
眠っていた少女が目を覚まし、俺のことを赤い瞳で見つめる。宝石のような赤い目はまるで俺を見定めるようで、その体に似つかわしくない威圧感があった。
「あなたが私をかった、ひと?」
「買った? いや、違うが」
「じゃあ……だれ?」
俺は少女に今の状況を説明した。俺が襲われていた馬車を助け、檻で寝ていた少女を檻からだして、起こした。
俺が知っていることはそれだけだ。
「そぅ、お金持ちに買われるならそれもいいかと思っていたけど、自由になれるならそれも別にいいか……」
俺から状況を聞いて、少女は一人つぶやく。
十歳に満たないような外見のくせに全然動じないな、この子。なんなら買われるのもやぶさかではなかった感じだ。
まぁ、俺も働かずに暮らしていいよと貴族に言われたらついていってしまうかもしれない。気持ちはわかる。
「じゃあ、自分の意志で奴隷になったわけじゃないんだな」
俺は一応本人の確認を取る。首輪はきっと奴隷の証のようなものだろう。寝ている間に外すことも考えたが、一応本人の確認を取ってからと思っていたのだ。自ら奴隷を望むやつはいないと思っていたが、さっきの反応をみるに、確認して正解だったかもしれない。
「奴隷になりたい人、いる?」
「いや、『お金持ちに買われるならそれもいいか』って言ってたから一応確認を」
『あぁ』と少女はぽんと手をたたく。
「自分の意志じゃなかったら、どうなる……?」
「その首輪を外せば自由になれるんだろ?」
「これは『隷属の首輪』。つけた本人にしか外せない」
それは知っている。鑑定で見たからな。隷属の首輪をつけられたものは首輪の鍵をかけた主人の命令に逆らえなくなる。
首輪の錠とそれを開ける鍵は一セットで、錠に対応した鍵でしか開けられない。だからつけた本人にしか外せないことになっている。
だが、俺はさっき檻を開くのに使ったなんでも鍵を開ける魔法を持っている。この魔法なら開けられるはずだ……たぶん。
「まぁ、ものは試しだ」
「痛いのはいや」
少女の言葉に俺は頷く。
「堅固なる厳衛の錠よ、その封を解し解き放たん」
詠唱に合わせて、俺は鍵を開ける魔法を放った。
すると、かしゃんと音を立てて、首輪に付いていた錠が外れる。
「おぉー」
小さな拍手とともに感情のこもっていない驚嘆の声を少女があげる。なんか他人事みたいだな。
俺はそのまま首輪を外してやるとその首輪をアイテムぶくろへと突っ込んだ。
「聞いたことのない詠唱……」
『俺が今考えたからな』とは俺は言わなかった。
「そりゃ、君が知ってたら自分で外せるだろ」
「……それもそう」
誤魔化せたということはそれっぽい詠唱になっていたということか? どうすればそれっぽいのかを知るためにも他の人が魔法を放つところを早く見てみたいものだ。
少女は首輪の外れた首をさすり、首輪が外れたことを確認している。首輪をつけられてから長い期間経っているのか、若干ソワソワしているようにも見える。
俺もミサンガを昔付けていたことがあるが、しばらくすると付けていることに慣れて、いざ切れてなくなると若干落ち着かなかったものだ。
「じゆうは久しぶり」
「そうかい」
自由を実感したらしい少女に俺は微笑んでみせた。
「それで、自由になった君はこれからどうするんだ? 帰る家とかあるのか?」
少女は俺の問いに首を振って答えた。なんでも昔はおじいさんと住んでいたらしいが、おじいさんが死んでからは天涯孤独の身で町をさまよっていたところその目立つ見た目から奴隷商に運悪く捕まってしまったらしい。『こうみょうな罠にかけられた』とは本人の談だ。
「おじさんはどうする?」
「お、おじさん?」
あれ? 俺十五歳ぐらいの見た目のはずだけど、そんな老け顔なの? 鏡がないから確認ができない。
「俺十五歳なんだけど、そんなに老けて見える?」
「あれ? そう言われれば、何でだろ……匂い?」
すんすんと鼻を俺に向けながら少女が首を傾げる。若い見た目で加齢臭がしているのもやだなぁ。
少女曰く、うまく言葉に表せないが匂いとか雰囲気とかそんな感じらしい。中身がおっさんだと外見が少年でも老けて見えるのだろうか?
論文でも書けそうな題材ですよこれは。
「話を戻すと、俺はこれから町にいくつもりだ」
「町?」
「あぁ、これから俺は冒険者になって、いつか魔王を倒すんだ!!」
「ふーん」
『ふーん』って、もうちょっと感心するとか馬鹿にするとかリアクションというものが欲しいな。
まぁ、生前の俺もこんな感じだったから人のことは言えんが……。
俺は宣言した時に握りしめた拳を力なく下ろす。
「それじゃ」
「えっ!?」
「……何?」
立ち去ろうとした少女が、俺の声に振り返る。
あれ? こういうときって『私も一緒に行っていい?』とか少女の方から聞いてくるものじゃないの?
え? ここでお別れ? テンプレは?
どうやら俺もアドリブには弱いらしい、あの旅行代理店のお姉さん(女神)のことを笑えないじゃないか。
「何?」
少女が改めて聞いてくる。
「あ、あの?」
「何?」
「一緒に付いてきてくれたりは……」
「なんで?」
「なんでって……」
このパターンは想定していなかった。まさか全く頼られないとは……。このみすぼらしい格好のままこの子を放り出すのは心苦しいし、そもそも奴隷として捕まっていた子だ。また捕まらないとも限らない。
「えーっと、俺この国に来たばっかりで、この辺のことよく知らないんだ」
「で?」
「よかったら付いてきてくれない?」
「……人さらい?」
「何でだよ!?」
それは、お前に首輪をつけたやつだろ。
「冗談。ついてく、いいよ」
「ほんとか!?」
「うん。じゃあ、行こ」
少女はこくりと、頷いた。
あれ? なんか、主導権この子に握られてない?
「あ、おい!」
『ちょっ、待てよ!』と言いながら俺は少女のあとについていった。
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