ドン・ブレイザー古本屋放浪記

 私の趣味の一つとして「古本屋巡り」がある。古本屋は店ごとに品揃えが全く違う。色々な古本屋を訪れて様々な本と出会うの本当に楽しい。といっても主な目当ては漫画本。実は「漫画本収集」も私の趣味の一つなのだ。


 古本屋巡りをする時は目的を持って店に行くとより楽しむことができる。例えば「この作者の作品が欲しい」とか「このシリーズの漫画が欲しい」とかだ。目的の本がないことも多いが、その分欲しい本が見つかった時の喜びは大きい。今なら「通販サイトやフリマサイトとかで探せばいいのでは?」と思うかもしれないが、ネットでの購入方法をよく知らなかった学生の頃、私はそうやって本を探していたし、今でもあえてネット通販に頼らず実店舗で欲しい本を探すことが多い。


 と、ここまでかなり長い前置きを書いた。そう、ここまでの話は今から書く話の前置きだったのだ。話は今から十数年前まで遡る。




 高校生の頃、私はある漫画を探していた。それは「ワッハマン」というタイトルの漫画だ。たぶん知らない人がほとんどだと思う。古いマンガだし、アニメ化もドラマ化もしたことがない。ジャンルも少年マンガとかではなくマニア向けの内容だ。


 この漫画を探し始めたきっかけは、当時作者である「あさりよしとお」という漫画家が好きだったからである。たぶんこの漫画家のことも知らない人がほとんどだと思う。彼の書く漫画のほとんどがマニア向けで、一般的に知名度が高いとは言えない。


 この漫画と漫画家についても詳しく語りたいが、長くなりそうなので別の機会にする。とりあえず当時の私は「あさりよしとお」という漫画家が好きだったので、彼の作品である「ワッハマン」という漫画を読みたいと思って探していたというわけだ。


 私はこの「ワッハマン」をずっと探していたが、なかなか見つからなかった。住んでいる町の古本屋を全て巡ったが、全く見つからなかった。田舎の古本屋は数が少ない上に古本が循環しない。買う人も売る人も少ないのでラインナップが全然変わらないのだ。つまり、無かったら今後目にする可能性はかなり低い。こういう時、田舎者は辛いのである。


 仕方ないので「普通の本屋」に行って注文しようとしたが、できなかった。なぜなら「ワッハマン」は当時としても発行から既に10年以上経っており、全巻絶版となっていたからだ。


 こうなったら私にできるのは、古本屋に通い続け「ワッハマン」が入荷されるのを待つことだけだ。学校帰りに古本屋に行き、本棚を確認してため息をつく。そんな日々が続いた。


 そんな時、私に奇跡が起きた。ある日、ある店で「ワッハマン」を発見したのだ。その店はたぶん一部の人しかわからないと思うが「カメレオンクラブ」という名前のゲーム屋兼古本屋のようなところだった。


 しかし、目的の漫画を見つけたはいいものの、私は買うのをためらった。なぜならそこで発見したのは全11巻ある「ワッハマン」の「第5巻」ただ1冊だったからだ。この漫画は一応ストーリー漫画であるため、途中から読んでも内容がよくわからない。せっかく見つけた「ワッハマン」だったが、一旦買うをやめにした。しばらく置いておいても、私以外で買う人もそうはおるまいと思ったからだ。


 そして、しばらくしてまた奇跡が起こった。きっと読んでいる人は「こう度々起こることを気安く奇跡とか言うな」とか思ったかもしれないが、それはそれとして別の古本屋でまた「ワッハマン」の単行本を発見したのだ。しかも、今度は1巻から4巻までの4冊が「2冊で105円」のワゴンセールで売られていた。ずっと探していた漫画がこんな風に安売りされていて微妙な気持ちにもなったが、貧乏な高校生であった私には安いのはありがたい。210円を払い私は「ワッハマン」の1巻から4巻までを購入した。


 もちろん、その帰り道に「カメレオンクラブ」にも寄り「5巻」を買うことも忘れなかった。最初は「なんで5巻しかないんだよ」とか思っていたが、これで5巻までが丁度よく揃った。私はパズルのピースがピッタリとハマっていくような快感を覚えていた。


 その後、無事に「第6巻」も発見。順調に「ワッハマン」が揃っていくように思えた。


 しかし、私の快進撃はここまでだった。6巻以降、さっぱり「ワッハマン」が見つからなくなったのだ。悲しいが、これが田舎の古本屋の限界だったのかもしれない。


 だが、しばらくして私に好機が訪れた。家族との外出で、地元を離れて遠方の町のBOOKOFFに行く機会があったのである。私は「ワッハマン」の発見を祈りながら本棚を物色すると、あっさりと7巻から10巻を発見。これで残すは最終巻の11巻を残すのみとなった。


 しかし、その後いくら探しても最終巻だけが見つからなかった。地元の古本屋だけでなく、たまに遠出した先でも全く見つからない。本当に11巻がこの世に本当に存在するのか疑わしいほどである。本当は全10巻なのではないのだろうか。少なくとも私の住んでいた県には、11巻は存在していないようだった。


 結局、高校在学中に私は「ワッハマン」を全巻揃えることはできなかった。不完全燃焼ではあったが、これ以上はどうしようもない。


 その後、私は高校を卒業し、県外の大学に進学し一人暮らしを始めた。孤独ながらも大学生活は楽しく「ワッハマン」のことなどすっかり忘れていた頃、私は偶然にも「ワッハマン」の第11巻を発見することになった。場所はとある古本屋。以前書いたエッセイ「ドン・ブレイザー遭難記 その1」で「めぞん一刻全巻セット」を購入したあの店だ。


 これで全巻揃ってめでたしめでたしとなれば良かったが、そうはいかない。その「ワッハマン第11巻」にはプレミア価格がついていたからだ。確か1000円くらいだったと思う。別に買えない値段では無かったが「定価の倍」と考えると少し躊躇してしまった。しかも、長年探し求めてきた「ワッハマン」とは言え、その頃には熱も完全に冷めていた。


 散々考えた末、結局私はそれを購入した。どこかでもっと安く売っている可能性はあるが、もう2度と手に入らない可能性だってある。それに、高校時代からの心残りに、ここで決着をつけたかったという気持ちもあった。


 こうして、私は「ワッハマン」を全巻揃えることができた。色々あったが無事に終わった。めでたしめでたしだ。




 と、その時は思っていたが、そんな気持ちに水を差すような出来事が数年後に起こった。


 私は大学卒業後、地元に帰って就職した。休日、車で近所の別の町に遊びに行った時、たまたま見かけた「エロビデオ屋」に入店したのだった。その店はエロビデオだけでなく、普通の中古漫画も売っていたので、エロビデオと中古漫画の両方に興味を持つ私にとっては丁度いい店だった。


 そこで見つけてしまったのだ。かつて探し求めていた「ワッハマン」を。しかも全巻セットで値段は1100円と格安であった。


 一体なんの因果であろうか。まさか地元からそう遠くない場所にあるエロビデオ屋に「ワッハマン全巻セット」があるとは思わなかった。


「通りで見つからないはずだ」


 私は高校時代、結構な数の古本屋を訪れたが、エロビデオ屋とは盲点だった。流石にそんな所に行こうとは思わなかったし、それ以前に行けなかっただろう。


 高校時代、私は散々苦労して「ワッハマン」を集めた。しかし、冷静に考えてみると、高校時代あんなことをせずに「まあ、いつか機会があったら買おう」ぐらいに思っていれば、いずれこのエロビデオ屋の「ワッハマン全巻セット」に出会い全巻揃えることができたわけだ。つまり、今までの苦労は全部無駄だったと言える。


 ゲームとかで例えると「シナリオ進行する上で、こまめにイベントをこなさないと集まらないと思っていたアイテムが、終盤に救済として簡単に全種類揃うように設定されていた」みたいなもんだ。あの時の苦労は一体なんだったんだ。


「プレミア価格1000円は痛かったな……トホホ」


 私はそう思いながら、ただ嘆くしかないのだった。


 


 最後に一応言っておくが、今回のエッセイを書くにあたり久しぶりに「ワッハマン」を全巻読み返してみたが、やはり面白かった。最初はギャグ漫画と思いきや、所々に伏線が張られ、シリアスな終盤の展開に繋がっていく。改めて名作だと思い直した。興味を持った方はぜひ読んでほしい。なかなか手に入らないことだけが難点だが、今調べたら「駿河屋」で全巻セットが2200円で販売中だし、なんなら電子書籍版もAmazonで簡単に買える。本当に私の苦労はなんだったんだ。バカヤロウが。

 

 


 




 


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がっかり日記 ドン・ブレイザー @dbg102

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