ドン・ブレイザー遭難記 その1
私はよく遭難する人間だ。こんなこと書くと「そんなわけねぇだろ」とか言われそうだから白状すると、遭難と言っても単なる迷子だ。しかし、見知らぬ土地での迷子になるのは、ある意味遭難みたいなものなのだ。
私は大学に進学すると同時に一人暮らしを始めた。初めての一人暮らしは楽しい。最初のうちは大学と家を往復しているだけで楽しかった。私が通っていた大学の近くには、あまり大きくはないけどショッピングモール的なところがあり、そこに寄り道するだけでも田舎者の私は大満足だった。
何しろ地元ではその規模のショッピングモールに行くため、バスに1時間以上乗らなくてはならないし、そもそもバスもあまり出ていない。なのでショッピングモールに行くといっても気軽には行けず、「ショッピングモールに行く」ということが一種のイベントでありハレの日感がある出来事なのだ。こんな感覚わかってくれる人いるだろうか。いたら仲間だ友達になろう。
まあそれはそれとして、最初はそのショッピングモールだけでも満足だったのだが、人間の欲望には限りがない。だんだん近場のショッピングモールでは満足できず、もっと規模の大きいショッピングモールに行きたいという欲望が頭をもたげてきたのだ。私はイオンモールに行く決心をした。
ちなみになぜイオンモールかと言えば、多分家から近いと思ったからだ。なぜ「多分近いと思った」なんて曖昧なことを言うのかと言うと「イオンモールまで後〇〇キロ」という看板を家の近くで見たことがあったからだ。それ以外何も知らないのにイオンモールに行こうとしたのだ。
そこはまずネットとかで場所を調べてから行けよという話だが、当時の私は、いや今でもそうだが私は出かける際なんの下調べもせずにとりあえず行ってみるということをよくしている。前もって準備をした方が効率良く動けていいに決まっているのに、本当にバカだと思う。
まあ、そんなこんなである休みの日、私は自転車にまたがり、イオンモールを目指した。「イオンモールまで後〇〇キロ」という例の看板のところまでとりあえず行ってから、その看板の通りに進んでいった。
そのはずだったのだけど家を出て20分後、私はもう道に迷っていた。
「ここはどこだ?」
周りを見渡すが、周りは住宅ばかり。どうやらイオンモールを目指していたはずが、どこかの住宅地に迷い込んでしまったようだ。行けども行けども家ばかり。
わかる人にしかわからない表現で申し訳ないが、まるで三國志に出てくる「石兵八陣」にでも迷い込んだかのようだった。いわゆる孔明の罠だ。出口がまるでわからない。
人でもいれば道を聞けるのだけど、昼間の住宅地というのは、人がいないものなのだ。家の中にはいるのかもしれないが、道を尋ねるために知らない人の家のインターホンを押す勇気は私にはない。
30分ほど経って、やっと住宅地から脱出した私は謎の達成感を味わっていたが、何ひとつ前進していない。住宅地での遅れを取り戻すため、私は自転車のスピードを上げた。
そして、また道に迷った。仕方がないので近くのコンビニに入り、店員さんに道を聞いた。
「イオンモールってどこですか?」
「え? は? あの、すぐそこですよ?」
店員さんが教えてくれたイオンモールの場所は、本当にすぐそこであり「なんでそんなわかりきったことをわざわざ聞いてきたんだよコイツ」という顔をされたが、こちらは土地勘の無い田舎猿なのだから仕方ない、多めに見てくれ。
私はそのまま真っ直ぐイオンモール……には向かわずに途中で見かけたいい感じの古本屋に入り、格安で売られていた「めぞん一刻全巻セット」を購入してからイオンモールへ向かった。
イオンモールでは色々買い物をしたり、ゲーセンで遊んだりして楽しく過ごした。帰?帰る頃にはもうすっかり暗くなっていた。
「早く家に帰ろう」
そう思って私は自転車に乗ったが、ここで思わぬ敵が現れた。そう「めぞん一刻全巻セット」である。カバンに入らなかったので、私はそれを自転車の前カゴに入れていたのだが、これが重いの何の。今調べてみると単行本一冊の重さは200グラム程で、めぞん一刻は全15巻だから、全部で3キロの重さだ。しかも、単に重いだけでなく前カゴに入れているせいでハンドルが取られて運転しづらくて仕方なかった。
「どうして……どうしてこんなことになってしまったんだ……」
それはもちろん私が「めぞん一刻全巻セット」を買ったのが悪い。こんな重いものを無計画に買うべきではなかった。
考えてみれば、今回のこのイオンモールへの旅を一言で表すなら「無計画」というひと言に尽きると思う。何の計画も立てずに見切り発車で家を出て、道に迷って時間を無駄にし、無理に買わなくてもいい「3キロの重り」まで自転車に積み込んだ。何もかも無計画である。
「今度からはもっと計画を立ててから出かけよう」
私はその時はそう誓ったが、ここで今回のタイトルを思い出して欲しい。
ドン・ブレイザー遭難記 その1
そう、私の遭難記はまだまだ続く。それは私がまた「無計画」に旅に出たという事の証明でもある。私は反省はする、だけど活かせるかどうかはまた別問題。私はそういうダメな人間なのだ。それでもよかったら次回も付き合って欲しい。
ちなみに「めぞん一刻全巻セット」だが、家に帰った私はそれをすぐに読破し、すっかり「めぞん一刻」にハマってしまった。めぞん一刻、名作です。こんな素敵な作品を「3キロの重り」などと呼んだとんでもない馬鹿者がいるらしい。恥を知れ恥を。
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