第3話
裏街を後にしたセラがマイカに追いつくと、彼女はどうにか必要な買い物を済ませていた。元より自分の分の買い物を済ませていたセラは、店に預けていた荷物を受け取り、二人して帰路に就く。だが、すでに太陽は中点へと達しかけていた。
「やむを得ません。マイカ、奥の手を使いますよ」
「合点っ」
打てば響くように応じたマイカから荷物を一部受け取り、セラは屈んだマイカにおぶさる。
「セラちゃん、いけそう?」
「かなり無茶ですが荷物は死んでも離しません。マイカは可能な限り加速を―――この際遠慮はいりませんっ」
両手で可能な限りの荷物を握りしめながら、セラは全力でマイカにしがみつく。荷物は背中にも背負っているため、かなり無理な体制のはずだが、セラは自身をも一個の荷物とするべく筋肉を引き締めて全身の関節を固定した。対して、それらの重量を一手に引き受けて走らねばならないマイカはといえば、荷物とセラを背負って何事もなく立ち上がり、苦しそうな様子を一切見せずに駆けだした。
「くぅぅっ‼」
風圧と音圧に苛まれて、セラは苦し気な声を漏らす。
風詠みの能力はセラのさじ加減である程度調整できるが、ゼロにはできない。最低出力でも人より過剰に情報を拾ってしまうため、マイカの人の域を越えた走行速度にセラの三半規管は悲鳴を上げていた。
「ごめんっ、セラちゃん‼ もう少し我慢して。もうすぐお屋敷につくからっ」
「ぐむぅぅっ」
セラは激しいマイカ酔いに耐えながら空を仰ぐ。
太陽はまさに中点。
真上より燦然と輝く陽光が、春先の肌寒さを和らげてくれて大変結構なのだが、今のセラにはそれがもどかしくて仕方がなかった。
―――ここまでして間に合わなかったではシャレになりませんっ。
砂煙の尾を引きながら走り続け、セラを乗せたマイカはようやく領主屋敷を捉える。
「セラちゃんっ‼」
「貴女を信じますっ」
正門を開けるのももどかしいと、マイカは速度を緩めるどころか門に差し掛かる少し手前で大きく跳躍した。空へ向けて放たれた飛矢の如く放物線を描いて滞空し、マイカはほとんど速度を落とすことなく敷地内へ着地、駆けだす。
体当たりするように身体から玄関扉を開くと、屋敷のエントランスへ踏み入れた。
このエントランスこそ、領主ゴードン・リトリヒト辺境伯爵を迎える場所である。
すでに領主を迎えるべく、中央の階段を挟んで両サイドの廊下に整列していたメイドたちが、その場に闖入してきたセラとマイカへ一斉に視線を向ける。
「マイカっ⁉ それにセラもっ」
驚愕にざわつくメイドたちを代表して、メイド長のメルティが声を上げた。
茶色いストレートロングの髪形をした女性だ。眼鏡をかけた切れ長の瞳は気の強い印象を与えるが、落ち着いた雰囲気の美人である。
メルティの焦りを含んだ声で到着を悟ったセラが、マイカの背からずり落ちるようにして床に足をつく。流石に顔色が悪い。
「ま、間に合ったのですか……」
「わかんない。でもパット見、ご主人様はまだ来てなさそう?」
「もう間もなくよ。言いたい事はたくさんあるけど後にするわ。早く列に加わりなさい」
メルティに急かされて、二人は荷物を背に隠して列に並ぶ。
マイカに半ば引きずられるようにして位置についたのとほぼ同時のタイミングで、中央の階段の向かって右端にある部屋の扉が開く。ゴードンの私室だ。
「おはようございます。ご主人様」
メルティの声に続いて、他のメイドたちが一斉に「おはようございます」とお辞儀する。
セラとマイカもこれに遅れることなく頭を下げた。
「……うむ」
少ししゃがれた男の声が耳に届く。
階段上を盗み見ると、頭の中点まで禿げ上がった樽のような体形の中年男が、のっしのっしと歩きながら手すりに手をかけて階段を下ってくるのが見えた。ゴードン辺境伯その人である。
そして、寝間着にローブを羽織っただけの姿で降りてくるゴードンの後ろには、銀色の長髪をした官服姿の若い男が付き従っていた。
「アルフレット卿?」
思わず口から言葉がこぼれる。
ゴードンの後ろについているのは嫡子のアルフレットだったのだが、セラがこの屋敷に仕えてからの半年間で、起き抜けのゴードンの私室から彼が共に出てくる場面を見たのは初めての事だった。
「……ん」
不覚にもアルフレットと目が合ってしまい、慌てて逸らすが、彼は何故かこちらを見て微笑んだように見えた。
「……ご苦労」
エントランスに降りてきたゴードンがそう言ったのを合図に、メルティを先頭にして数名が駆け寄っていく。今日の予定の確認と、命令があれば伺うためだ。
ゴードンはいつも起床後すぐに食事を行うため、メルティたちも食堂に向かいながら話しを続ける。そうしてゴードンを中心とした小さな人だかりが食堂の方へ消えていくと、ようやくそれまでお辞儀を続けていた他のメイドたちが解放された。
「ぶはぁ~、何とか間に合ったよ~」
あからさまに息を吐いて安堵した様子のマイカに、メイドたちが集まっていく。皆口々に心配と事情を聴く言葉をかけていた。
「セラも間に合ってよかったね。これもアルフレット様のおかげかな」
「アルフレット様の、とはどういうこと?」
自分の周りにもやって来ていたメイド仲間たちの一人が、そんなことを言ったので詳しく尋ねてみると、どうやらセラとマイカの二人がなかなか戻ってこないと不安がるメイドたちを見かねて、ゴードンの足止めをしてくれていたらしい。
「お優しい方よね……ご主人様と違って、って余計なこと言っちゃった……セラも後でお礼を言っといたほうがいいよっ」
そう言うと、彼女はそそくさっと駆けて行った。自分の仕事に戻るのだろう。
「リトリヒト卿アルフレット……」
その背中を見送りながら、誰にも聞き取れないほど小さな声音で呟き、セラもまたマイカを連れて食堂へ向かう。
買ってきた食材を早く奥にある食糧庫へしまわなくてはならない。商売上手な八百屋から買ったトマトたちは特に。
「くそぅ、酒が足りん。早く次を持って来んかっ」
「は、はいっ」
ゴードンに怒鳴られた給仕のメイドが、酒蔵へ向かって走って行く。
起き抜けのゴードンは機嫌が悪いことで有名だが、今日はいつにも増して癇癪が酷い。
「まったくもって不愉快だ。お前が朝っぱらから何かと頭を使わせるからだぞ。アルフレットよ」
「申し訳ありません、閣下」
行儀悪く食事を手掴みでかっ食らいながら、アルフレットをぎろりと睨みつける。メイドたちは自分が睨まれたわけでもないのにそれだけで背筋を凍らせたが、当のアルフレットの反応は乏しく、反応は淡白だ。
「私のような小心者は、閣下のご裁可をいただかなければならない重要な件が少しでも溜まると落ち着かなくなってしまうもので。閣下の穏やかな目覚めを乱したこと、心より陳謝いたします」
「……フンッ」
つらつらとまるで人形のように感情のこもらぬ声音で、アルフレットは丁寧に詫びた。
メイドたちがこんな対応をとればすぐに罵声が飛び出しそうなものだが、そこは親子故か、ゴードンは特に何も言わなかった。今は昼過ぎの朝食を胃の中へ突っ込んで、ただでさえ突き出ている腹回りをさらに成長させるのに忙しい様子だ。
それから親子の間に会話らしい会話はなかったが、静かにこちらは昼食をとるアルフレットに対し、ゴードンはかなり騒々しい。
食べ方の乱雑さがまき散らす騒音もそうだが、やれ飯が水っぽいだの、食器は銀製の物を使えだの、酒に合った献立を用意しろだのと、文句やダメ出しが止まることがない。おかげでゴードンの食事が終わるまで、メイドたちは一人残らず右往左往と走り回る羽目になる。ようやくゴードンが静かになってきた頃には、テーブルに並んだ皿のほとんどが片付いていた。
「―――もうよいっ、満腹だ。下げよ」
食いかけの料理がまだ乗っている皿を勢いよくテーブルへ投げ出し、給仕のメイドへ片付けの催促をする。
それに応じて恐る恐る近寄って来たのはマイカだった。
少し離れたところから見ていたセラからも、マイカの手が緊張と恐怖で小刻みに震えているのがわかる。
いかに腕っぷしの強いマイカとて、相手が貴族で権力者ともなれば、慎重にならざるを得ない。加えて、マイカには年配の男性に対する強い苦手意識があった。
「貴様……」
「っ、な、なんでしょうかご主人様っ、アタシが何か粗相を……?」
じっとマイカを見つめていたゴードンが、おもむろに口を開き、マイカを呼び止めた。
あからさまに驚いたマイカは、少し早口になりながら伺いを立てるが、ゴードンはすぐに返事をせず、じろじろとマイカの身体を観察するように眺めている。張り詰めた沈黙が食堂を支配する中、ゴードンはゆっくりと伸ばした腕でもって、マイカの肩を勢いよく抱き寄せた。
「わしの部屋に来い。今日は貴様をかわいがってやる」
「っ⁉」
始まった、とその場にいた誰もが、その言葉を胸に抱いた。
リトリヒト辺境伯は無類の女好きで、屋敷にいる使用人はすべて女性しか許されず、自分以外の男は嫡男であるアルフレット以外出入りを許されない徹底ぶりだ。
「―――ご主人様。私共の仕事に支障をきたしますので、メイドには何卒お手を付けられませぬよう……前任のグリーナからもお願い申し上げていたはずです」
すかさずメイド長のメルティがゴードンに掛け合う。
しかし、ゴードンはそちらの方を見ようともしない。
「グリーナか……貴様は何かある度にあ奴の名前を出すな」
「―――っ、それは……」
「いない奴の顔色をうかがう必要がどこにある。そも、ここはわしの屋敷わしの城も同然の場所だ。グリーナならいざ知らず、貴様のような後釜に座っただけの小娘に指図される謂れはないわっ‼」
罵声を浴び去られ、メルティは唇を噛んで黙り込む。
その間もゴードンの魔の手は、マイカの引き締まった肢体を撫でまわす。特に腰回りから尻にかけて、執拗に掌を這わせていた。
「っ―――ぃやっ」
恐怖に濡れたマイカの瞳から雫が流れ落ちた―――その時、
ガシャァンッ
「っ⁉」
「っ、な、なんじゃっ」
食堂に耳をつんざく甲高い音が鳴り響いた。
唐突な破砕音に室内にいたすべての人間の手が止まり、音のした方へ注目が集まる。
そこに立っていたのはセラだった。
「あら、これは大変失礼いたしました」
あっけらかんと言うセラの足元には、見事なまでに粉々になった皿の破片が飛散していた。一枚や二枚ではない、何枚もの皿を重ねて持ち運んでいたところを落下させてしまったのだ。
静まり返る室内で、セラは淡々と続ける。
「メイド長、申し訳ありませんが、片付けに何人か助力をお願いしたいのですが?」
あえてメルティに水を向けたセラは、意味ありげに彼女の目を見つめて行動を促す。
「っ! あ、た、大変っ、わかったわ。私も手伝いましょう。マイカ、悪いけど箒とちり取りをとってきてちょうだい」
セラの意図を素早く察したメルティの言葉で、マイカも弾かれるように動いた。
「っ‼ は、はいっ、ただいま~‼」
「あっ、おい貴様っ」
音に驚いて力が緩んでいたゴードンの手を逃れ、マイカは脱兎の如く食堂から走り去っていく。気持ちはよくわかるが、あの勢いでいったいどこまで掃除用具を取りに行くつもりなのだろう。
少々強引だったが、無事ゴードンの魔手から逃れたマイカの背を見送りながら、セラは割れてしまった皿の破片を丁寧に拾い集める。
「さあご主人様。万が一破片でお怪我などされては大変ですから、どうぞご退出なさってください」
「メイド長、貴様わざとだなっ? 主に逆らうとは何事だっ!」
激昂したゴードンは腕を振り上げ、メルティの頬をはろうと振り下ろそうとした。しかし、衝撃に備えて身を竦ませていたメルティに、その手が振り下ろされることはなかった。
いつの間にかゴードンの背後へ回っていたアルフレットが、振り上げられたゴードンの手を事も無げに掴んでいる。
「閣下。恐れ入りますが、あまり時間がありません。今日ばかりは流石に閣下にも会議へご出席いただかないと」
「アルフレットっ⁉ お前までわしの邪魔をするかっ」
「邪魔? ご冗談を。私が閣下のなさりように口を出すなどありえませぬ。しかしながら、本日の会議はとても重要なものなので出ていただかなければなりません。会議にさえ出ていただければ、あとはご随意に。女が抱きたいのであれば、一山いくらの使用人などではなく、閣下自らご出資なさった娼館へなど寄って行かれてはいかがでしょう」
滔々と言葉を述べるアルフレットに、ゴードンはうなり声をあげることしかできずにいた。政務の一切を嫡男に押し付けている以上、撥ね退けづらい面があるようだ。
「ふんっ……着替えるぞ」
勢いよくアルフレットの手を振り払い、ゴードンはのしのしと肩を怒らせて食堂を後にする。慌ててその後を数人のメイドたちが追いかけて行った。
「……困ったお方だ」
「あ、あのアルフレット様……」
やれやれと去って行ったゴードンの背中が消えていった扉を見ながら、アルフレットが独り言ちていると、メルティがおずおずと近寄って行った。気の強い彼女にしては珍しく及び腰だ。
「ああ、気にしないでくれたまえ。特に君を気づかっての行動ではない。僕も暇ではないのでね、いつまでも閣下の我が侭に付き合って差し上げるわけにはいかないのだよ」
そっけなくそう言い捨てて、アルフレットもまた食堂を出て行ってしまった。
何か言おうとしていたメルティは、しばらく処無さげに立ち竦んでいたが、心なしか肩を落としてセラの方へ歩み寄ってくる。先ほどの言葉通り、一応片づけを手伝ってくれるらしい。
「いいのですか? 何か言おうとしていたように見えましたが」
「……貴女には関係のない事よ」
どこか表情の暗いメルティを気づかって聞いてみたが、ぴしゃりと切り捨てられてしまった。そう言われてはセラから言える事は何もない。
「……」
「……」
二人で黙々と床に散らばった皿の破片を拾い集める。
思わぬタイミングで二人きりになってしまったが、セラはこのメイド長とは未だにあまり会話をした事がない。
この機会に少し話しておこうと言葉を探していると「少しいいかしら」と、メルティの方から話しかけてくれた。
「確か貴女は前任のメイド長、グリーナ様の遠縁なのよね。その伝手でこの屋敷で働きたいとやってきた」
「はい、私はグリーナの姪に当たります」
「嘘ね」
思わず目を丸くする。
メルティはあまりもきっぱりと、セラの言葉を切って捨てた。
「……何故、そんな事をおっしゃるのです?」
あくまで自然に困惑している風を装いながら、セラはメルティへ問いかける。
「グリーナ様とは親しかったの。あの方が天涯孤独の身だということはよく知っているわ」
「グリーナと貴女が共に働いていた期間はたった数カ月程度だったと伺っていますが……」
「それで? 親交を深めるのに時間なんて些細な問題だわ。それは屋敷で働き始めてからたった半年程度でシュタット中の人々と良好な関係を築いた貴女にもわかっているはずよ……まるでグリーナ様のようね」
キッと切れ長の瞳がセラを射すくめる。
美しい顔立ちをしている故か、メルティのそんな視線には不思議な迫力が宿っていた。
「貴女がグリーナ様の親族というのはあり得ない。でも無関係というには、貴女の言動、振る舞いからはグリーナ様と同じような色を感じる」
「……」
「セラ。貴女はいったい何者なのかしら?」
メルティが真剣な表情で詰め寄ってくる。その瞳にはセラに対する猜疑心が満ちていたが、どこか真摯な感情が宿っているようにも見えた。まるでセラの答えに何かを期待しているかのような、疑いだけではない複雑さを醸し出している。
そのように感じたセラは、あえて問い返した。
「そういう貴女は、何故そんなにも私を否定されるのでしょう」
「質問に質問で返さないでちょうだい」
「何者と言われても私にとってグリーナが叔母であり、自分がその姪である事はただの事実ですので、他に答えようがありません。それよりもメイド長がそんなにも自信をもって私の素性を否定なさる根拠の方が気になります」
「それは、だからグリーナ様から直接っ」
「仮にグリーナから肉親はいないと聞いていたとしても、それだけで先ほどの貴女のようにバッサリと私の言葉を否定する程の理由になりえるとは思えません」
「っ……」
何度も沈黙で返していたセラに対し、今度はメルティが口を閉ざす。
辛そうに何か言おうとしても言葉にならない様子は痛々しく、彼女の心の葛藤が見て取れた。
「貴女の言葉からはグリーナへの強い想いを感じます。話していただけませんか? 貴女とグリーナの間に何があったのかを」
「それは……」
気づけば立場は逆転し、引き気味のメルティにセラが身を乗り出して答えを待っていた。
彼女は何か自分の知らない情報を握っている。そう直感したセラは思わず手に力がこもった。メルティの知る何かは、無理を押してグリーナを追って来たセラの目的を成就に近づける、そんな予感がしてやまなかったのだ。
「それは、私が……」
数秒の沈黙を挟んで、根負けしたメルティがようやく声を出したその時、二人きりの空間だった食堂の扉がバタンッと音を立てて開かれた。
「セラちゃ~んっ、ごわがったよぉ~っ―――」
「っ⁉」
「ま、マイカ? ぐふっ―――」
全力で突撃してきたマイカを受け止めて、セラは後方へ大きく吹っ飛ぶ。
唖然とするメルティをそっちのけにして、マイカはセラの胸に顔を擦りつけた。
「うっく、ひっく、ご主人様に、つ、掴まれた時、身体が強張って、動けなくって、もうダメかと思っだよぉ~」
「あ、貴女、今日は厄日ですね」
どうにか受け身を取ったものの、壁に叩きつけられたセラは痛みをこらえながら弱々しくマイカの頭を撫でた。日ごろからマイカのタックルを受け止め慣れているセラだからこそできる芸当だ。かなりギリギリではあったが、一応無傷である。
背が相変わらず痛みを訴えてはいるが、しくしくと涙を流すマイカを見れば、仕方がないと思えた。本当に怖かったのだろう。
圧倒的ともいえる武力を持つマイカだって、まだ二十歳になったばかりの女の子だ。
立場も年齢もずっと上の男に突然体を触られたら恐怖で身が竦んでしまうだろうし、傷ついてしまうのも当然だろう。と、若干十七歳のセラはしみじみと思った。
「……ごめんなさい。そろそろ次の仕事に行かなきゃいけないから、ここの片づけは任せるわ」
そう言って、メルティはそそくさと食堂を出て行ってしまった。
ちらっと見えた陰鬱な表情が気にかかるが、仕方がない。
「逃げられましたか」
「ほぇ?」
こちらの話です、と首を振って見せて、セラはマイカに言った。
「私たちも次の仕事があります、早く片付けてしまいましょう。マイカ、箒はどこですか?」
「? 箒って、なんのこと?」
無邪気にコテンと首を傾げるマイカはとても愛らしく、セラは思わずその頭を再び撫でながら深いため息を吐いた。
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