第51話

栞達に「最高の助っ人がいるから何も聞かずに一緒にきてほしい」そういわれ二人の後ろをついてきた玲だが、流石に慌てて目の前を歩く二人を呼び止めた。


「二人とも、ここって」


二人に連れられて辿り着いた場所、それは玲にとっても見覚えのある場所――レナエル本店だったのだ。当然玲がこの店を知らないはずがない。

レナエルのドレスは、姉である陽菜が大好きだったブランドのドレスだ。最近は玲がそのドレスに袖を通すことはなくなってしまったが、それでも陽菜の部屋のクローゼットの中には、彼女が宝物のように大切にしていたレナエルのドレスたちが眠っている。

当然、姉に連れられて店を訪れたことも何度もある。

確かにドレスを見るには最適の場所だか、二人は此処に「最高の助っ人がいる」と話してはいなかっただろうか。

戸惑う玲を他所に、栞は近くにいる女性へと近づいていく。どうやら既に二人は店員の女性と顔なじみらしい。二人の来訪に気付いた女性店員はにこやかに頷くと、小走りで店の奥へと去って行ってしまった。


「……楡井さん、一体だれを」


呼ぶつもりなの?

その問いが終わる前に、先ほどの女性と共に一人の男性が店の中へと姿を現した。長い髪を一つに結んだ、穏やかな表情を浮かべた中性的な男性。

レナエルのドレスは勿論だが、玲がその人を知らないはずがない。

レナエルのドレスデザイナー、朝霧純。

玲が言葉を失うのも無理はなかった。朝霧は、玲にとって憧れの人物であるその人だったからだ。


「急に連絡が入ったから驚いたよ、もしかしてこの間の答えを貰えるのかな」

「……まだ、答えられません。でも、はいと言えるためにどうか力を貸してほしんです」


栞の決意のこもったその言葉に、朝霧は息を飲む。毅然とした表情でこちらを見上げてくる少女が、出会った時のあの気弱な少女と同一人物にはとても思えなかったからだ。まるで、マリーのような気高さと強さを感じるその姿に、朝霧はそっと笑みを零す。

この二人の少女たちに出会ってから、驚かされることばかりだ。


「そういわれると、力を貸さないわけにはいかないな。それで、今度は何を手伝えば良いんだい、お姫様たち?」

「ドレス作りを手伝って欲しいんです」


栞の口から零れたその頼みに、流石の朝霧も驚いたのだろう。目を開けたまま固まるその姿に、焦りを滲ませたのは玲だった。確かに自分のためのドレスを作る決意はした。だが、その手伝いを頼む相手が、まさか憧れどころか雲の上の相手であるデザイナーの朝霧純だとは思わなかったのだ。

「楡井さん、あの……」

自分の為に流石に朝霧の手を煩わせるわけにはいかないと、玲が慌てて声を上げた瞬間だった。突然目の前の朝霧がおかしくて堪らないとでもいうように笑いだしたのだ。

「この間は御者役を任されたと思ったら、今度は魔法使いに抜擢とは光栄だ。それで、一体誰のドレスを仕立てる手伝いをすれば良いんだい?見たところ、今回舞踏会へのドレスが必要なのは君たちではないみたいだけど」


朝霧の言葉に、栞とマリーはタイミングを合わせたように後ろを振り返る。自分に向けられた3対の視線に、玲はそっと息を飲んだ。


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