第46話
「ねえ、シオリ。そろそろ何を考えていたか教えてくれないかしら?」
レナエルの店を後にし、マリーは隣を歩く栞へと声をかける。
結局、レナエルの店の中で栞が口を開くことは一度としてなかった。店内に飾られた華やかなドレスも全く目に入らない様子の栞に、マリーはずっと声を掛けられずにいたのだ。
「ねえ、マリー……。今日この店に来た時、ドレスを買ったお客さんたち、みんな笑ってたよね」
その言葉にマリーはその通りだと頷いた。
店内に飾られていたあのドレスを買えた誰もが皆、心の底から嬉しそうに笑っていた。今からドレスを着るのが楽しみで仕方がない、そんな笑顔で溢れていたのだ。
かつてマリーも新しいドレスを着るときは、いつだって嬉しくて堪らなかった。
例え国中から浪費家と冷たい目を向けられても、重責に心がくじけてしまいそうなと時も、仕立てたばかりの新しい華やかなドレスを着ている時だけは笑うことが出来た。だからこそ、彼女たちの笑顔の理由もよくわかる。
大好きなドレス、というのはそれだけで人を笑顔にする力があるのだ。
「私も、初めて自分で買ったレナエルのドレスを着た時も……マリーと一緒にドレスを着て街を歩いた時も本当に楽しかった。だから、私……沢城君にも本当に心から笑える服を着て、本当になりたい自分になってほしい」
姉の陽菜として振る舞うのではない。沢城玲として自分が好きだと思えるドレスを着て笑ってほしいのだ。
「でも、私ひとりじゃ沢城君を助けてあげられない」
陽菜でもヒナとしてでもない。玲がどんな服を着たいと思っているのか、栞には見当がつかないのだ。
どうしたらよいか分からない、と項垂れる栞をマリーは覗き込む。
「あら、シオリ。貴方はひとりではないわ。今あなたの目の前には私がいるのよ」
マリーは微笑みながら、栞の手を握りしめた。
まるでここに自分がいるのは夢ではないのだ、とでもいうように。
「それに私だけではないわ。アサギリも、それにきっと昨日のお店の方たちも栞の助けになってくれるわ」
「マリー……」
「だから顔を上げて、あの子はシオリのことを助けてくれたもの。シオリがあの子を助けたいなら、私も手伝うわ」
「うん。もう一度、あのお店にいって、話を聞いてみたい」
昨日の玲の話で、彼はマスターに拾われるようにしてあの店で働き始めたといっていた。きっとあの人なら、玲について何か教えてくれるかもしれない。
「じゃあ、今から行きましょう!」
「……うん!」
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