第21話
狭い部屋の中に、狼狽した声が響き渡る。
「ど、どどどうしよう」
「あら、どうしたのシオリ?そんなに慌てて」
ロリータ服を脱ぎ、私服に戻った栞は自室の中でふと我に返った。先ほどまで夢心地になっていたが、冷静に考えればずいぶんと大それたことをしてしまった。
「……学校から連絡きたらどうしよう」
不登校の自分が学校に行ったと思ったら、あんな大騒ぎを起こしてしまったのだ。
生徒の誰かが教師に告げ口をすれば、親に文句の連絡を入ったとしても決して不思議ではない。
もし母親が栞がロリータ服を着ていることを知ったら何というだろうか。いや、そもそも今寝台に寝そべって不思議な表情で封筒に入ったお札を眺めているマリーの事をなんと説明したら良いだろうか。
「ねえ、シオリ。私自分でお金を稼いだのって初めてだわ!」
封筒の中に入っているのは先日モデル代として朝霧から渡されたお金だ。マリーはとにかく、自分は何もしていない栞は首を横に振ったが、半ば無理矢理押し付けられるように渡されてしまい断り切れなかったのだ。
言い訳が頭の中をぐるぐる回り続ける中、部屋の中にインターホンの音が響き渡る。
「……っひゃ、い」
インターホンを鳴らした、ということは母親が帰ってわけではなさそうだ。もしかすると、あの騒ぎを起こした自分をとがめるために学校の教師が自分に停学処分を言い渡しに来たのではないだろうか。
「……っ、はい」
だが、もう逃げないと決めたのだ。
意を決して来訪者の姿を画面に映せば、其処に映っていたのは栞の全く想定していない人物だった。
長い金の髪に、黒いヘッドドレスを付けた長身の女の子。このアパートには不似合いなゴシック調のドレスに身を包んだ少女が一人、じっとこちらを見つめていた。
(……あれ、この子)
見覚えのあるその姿に、気づけば栞は家の扉を開けていた。
扉の前に立っていたのは栞の記憶にある通り、一度だけ出会ったことのある少女だった。昨日、マリーと共に歩いた街の中でぶつかってしまった女の子。
すらりとした手足に、黒いドレスと金髪が印象的だったその姿を忘れるはずがない。
だが、どうしてその少女がここにいるというのだろう。
「あ、あの?」
自分を見つけまま黙ったままの少女に、栞はおそるおそる声をかけた。
「……これ、返さなきゃと思って。楡井栞さん」
「え、なんで私の名前」
何故名前を知っているのか、いやそもそもなぜ家の場所を知っているのか。そう問おうとした栞は思わず扉の前で固まってしまう。
美しい少女の口から洩れた声、それは間違いなく女性ではなく男性の声だったからだ。
「……え、え?えっと」
「ごめん、急に家に来て驚かせたよね。同じクラスの沢城玲。名前くらいは覚えててくれたかな」
フリルのついた袖から覗く白い手に渡されたのは、確かに昨日無くしたと思っていた栞のハンカチだった。
それに、沢城玲という名前を知らないはずがない。クラスの中でも変わり者の男の子。だが、學校の中で見る彼は変わり者ではあったが女性ではなく男性だったはずだ。
「え、ええええ…えええ?????」
「シオリ、何があったの??」
思わず響き渡る叫び声に、マリーが部屋から飛び出してくる。
マリーの目に映ったのは口を開けたまま固まる栞と、その隣に佇む金髪の女性の姿だった。
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