第10話 What is name
「特別に認定試合をしてやろう。闘技場にいくぞ」
「「は?」」
声が重なった。ただし声色は多少違う。俺のは「認定試合」に対する純粋な疑問符であって、もう一人の声は驚きと疑問の他に非難のような響きもあった。
「貴様、『認定試合』を知らなそうだな。まあ、昇級試験に近いが、この世界には今までずっと開拓者登録してこなかった手練れもいる。そいつらを他の
言いつつ立ち上がり、受付カウンターからセントロさんが出てくる。割と大きい。俺も日本人平均身長より10㎝近く高いが、セントロさんは180を超えているだろう。
「専門の試験官と判定員が合格と判断すれば、クラス2から開拓者を開始できる措置ということだ」
なるほど、と頷きつつ、歩き始めたセントロさんについていく。しかし一度振り返って、棒立ちになっていた8名グループの方を見やった。
「
「!」
この言葉にリーダーは反駁した。
「なんでだ! いや、なんでですか! そいつは門番に紹介されただけの田舎者でしょう!?」
「だよな!?」と同意を求めるように仲間を振り返る。それに応えて「そうだ」「おかしくない?」という声がちらほらと聞こえたが、セントロさんは毛ほども揺らがない。
「お前らは大して記憶にも残らない
「なっ……」
絶句する若者に向かって、「はっきり言っておこう」と目を見据える。自然と彼の足が半歩後ろに下がった。
「紹介者の顔を立てて今日は面倒を見てやるが、明日からは別の受付に行くことを勧める。そもそも俺は一日の内
「な、んでだよ!」
白髪の開拓者はため息を一つ。
「最近多くてうんざりしている。名前も覚えていない奴らに限って、大して見込みの無いガキを紹介してくることにな。俺に紹介する伝手があることで見栄を張る愚か者からは、同じく大したことの無い奴しか紹介されなかった」
じゃあ行くぞ、と切り離すようにまた歩き出した。
遅れないよう付いていきながら、俺はちらりと振り返る。若い男は紅潮した顔でセントロさんと俺を睨みつけていた。
面倒くさいことになった。とそれだけ思った。
******
半地下の闘技場も広くて立派だ。下は土だがその方が良いという判断なんだろう。そこらで訓練を受けたり模擬戦が行われており、ついつい俺は目を奪われる。ある程度周囲から離れた場所で立ち止まったが、セントロさんが来たというだけで余計に耳目を集めていた。
「ではまずは―」「俺からだ!」
喰ってかかるように叫んだリーダー格の彼に、再びセントロさんはため息を吐く。しかし断ることは無いようで「そこから数歩後ろに下がれ」とだけ伝えた。
「ルールは特にない。いつでも好きに撃ちこめ。あー、名前はなんだったか」
構えた彼が、途端に憤怒の表情に変わる。
「なめるなぁ……! ―リドルだ!」
言うや否や、贈装を右手に顕現を開始した。
(遅いな)
「遅い」
セントロさんは小さな声でそう呟いたが、打ち込むでもなく贈装を装備するでもなくじっと待っていた。十数秒ほど待って光の粒子が収束した後、リドルの右手には片手直剣が握られていた。大振りのブロンズの剣という感じだった。柄部分の鍔と握りが赤い。中学二年生が好きそうだな、という感想が最初に浮かぶ。
「らぁ!」
しかしリドルが気合の入った声を出してセントロさんに突っ込んだスピードは、素人目には充分速く見えた。
(意外に速いなリドルくん!)
と思ったが、セントロさんは振り下ろされた剣身を側面から
「これまでの全てが遅いぞリドル。口数を増やすより手数を増やす努力をすべきだ。でなければ」
ようよう立ち上がったリドルに向かってセントロさんが踏み込む。
(速い!)
慌てたリドルは振り払うように横薙ぎに剣を振るったが、距離を詰めたセントロさんの金属の手甲に容易に弾かれる。正面ががら空きになったと同時に、つま先がリドルのみぞおちを抉った。
剣を取り落とさないまでも、その場で苦悶の声を上げたまま崩れ落ちたリドルに向かってセントロさんは喋りかける。
「リドル、お前は本気で考えたことがなかったろう?」
―自分が殺される可能性を。
立てないリドルに聞こえているのかは不明だが、それでもセントロさんは続けた。
「だから遅いのだ。贈装を顕現するまでのコンマ1秒が、降り下ろす剣速が、躱すための体重移動が、お前の寿命に直結していると何故理解しない。 ……それでも開拓者として生きるつもりなら今ここで刻んでおけ。命の取り合いの無い今の内に」
顔を上げたリドルに向かって、セントロさんは「まだやるか」と言った。リドルは返事も頷きもしなかったが、なんとか立ち上がったと同時に突きかかった。
裂帛の気合もなく、最短で殺すための一撃を、セントロさんは知っていたような軽いステップワークのみで体を開いて躱すと返す刀で掌底を顔面に打ちつけた。
合わせただけの軽い打撃だが、リドルは後ろに弾かれてたたらを踏んだ。口の端から血が垂れている。しかしそれを拭おうともせず、初撃よりもずっと速い剣速と踏み込みで薙ぎの一閃を振るう。セントロさんはそれさえ難なく回避して、流れのまま再び掌底を顎に叩き込む。意識を刈り取られたのか、そこでリドルは膝から崩れて墜ちた。
鼻から一息吐いて、セントロさんはうつ伏せの若者を見下ろす。
「最後のは悪くなかったな、リドル。良く知りもしないのにお前と、お前の師を
意識の無い眼下のリドルに向かってそう言い、今度は俺を見た。
「さてオズ。認定試合をやるか」
うーん、やたら期待されている気がするが、大丈夫だろうか。
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