呼び出し
「僕は今冬眠中だよ。また目覚めた時にね」
「入りますね」
そう言って入ってきたエトーレと目が合った。
「ハンター協会の支部長がお呼びですよ」
そしてエトーレは何事も無かったかのように、そう言う。
「……冬眠中って伝えといて」
「乗り込んできますよ」
……はぁ。そうなんだよなぁ。昔、呼び出しを無視してたら、スキンヘッドの頭を赤いメロンみたいにして乗り込んできたことがあるんだよね。……あれは僕じゃなきゃチビってたよ。
まったく、引退してるとはいえ、あの人は元A2ハンターだ。その威圧を振りまいて来ないで欲しい。うちのクランの人達のランクの低いハンター達が怯えてたってあの日、エトーレから報告があったし。
「……ちなみになんの用なの?」
「そこまでは聞いていません。ただ来いとだけ」
嫌だなぁ……いや、でも今回は何もしてないと思うんだよ。最近は僕の幼馴染達だって王都から離れているし。
「僕忙しいってさっき言わなかった?」
「……理由を言ってくれるのなら、行かなくても大丈夫だと思いますが」
……理由なんてただ行きたくないだけだよ。まぁ、そんなのをバカ正直に言う訳にも行かない。
ただ、僕には魔法の言葉がある。魔力のない僕が唯一使える魔法と言ってもいい。
「秘密」
こう言えば大抵は呆れて許してくれるんだ。
「……理解はしてますが、よっぽどの事じゃない限り来いと仰っていましたよ」
……行きたくない。絶対に行きたくない。……でも、後でバレたらうるさいだろうなぁ。……はぁ、しょうがない。
「分かった。行くよ……明日」
「今日にしてください」
「……準備してから行くから」
「分かりました。私は他の仕事をしてきますね。……ちゃんと行ってくださいよ?」
「分かってるよ」
まったく、疑いすぎだよ。いくら僕でも、ここまで言われて行かないはずが……ないことも無い。
……まぁ、とにかく準備をしよう。
エトーレが出ていったところでウィフレが姿を現した。
「はぁ、聞いてたからわかると思うけど、ニコーラさんの所に行かなきゃならなくなった」
ニコーラ・ストゥフィ、それがニコーラ支部長の名前だ。
「はぁ」
何度目かもう分からなくなってきたため息を吐きながら、僕は魔道具を装備していく。
いくらウィフレがいるとはいえ、何が起こるかわからないから。……まぁ、ウィフレが僕のそばにいない状況なんてありえないだろうけどさ。……仮にウィフレで対処出来ない何かが現れれば、僕はもう大人しく諦めるさ。……ウィフレでもどうにもならないのに、魔道具を装備した程度の僕じゃあ手も足も出ないだろうし。……それでも魔道具を装備する理由は単純に魔道具が好きってのもあるし、少しでも魔道具で長生きすれば、ウィフレか誰かが助けに来てくれるかもしれないからね。割合的には9対1。もちろん趣味が9ね。……諦めてるんだから、当たり前でしょ。
そんなことを考えてる間に、僕は完全装備になった。
左右の手の指全てに何かしらの指輪を填め、右腕には透明の腕輪を填めている。そして十字架のネックレスを首から下げ、服の中に隠してある。
「うん。まぁ、今回はこれでいいかな」
魔道具が好きと言うだけあって、まだまだ魔道具はある。なんなら今装備している奴より、防御面で優れている魔道具だってあるけど、単純にそれは僕には装備できない。だって重すぎるから。……そう、僕には持てないんだ。多少の間ならもちろん持てるよ? でも、ずっと持ち歩くとなると、僕には無理だ。
ウィフレに持ってもらうって選択肢もあるけど、ウィフレに持って貰った結果、それがなかったら僕を守れたかもしれなかったのに! って事があるかもしれないから。ウィフレは魔道具より優秀なんだよ。
……ニコーラさんの所に行きたくないから、色々考えて時間稼ぎをしたけど、そろそろ限界だな。……本当に嫌だけど、行かないと。
僕は嫌な気持ちを押し殺し、才能の無い僕でも扱える魔道具はやっぱり最高だ! と考えながら、クランマスター室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます