第12眠 別れ

「かっ....た」


急に足の力が失われて前に倒れそうになると、誰かに抱き止められた。


「悪い、遅くなっちまった」


ライトさんだった。


「よく頑張ったな。今はメイとレイとガモンが残党狩りをしてる」


「ゴブリンキングは?」


僕が息も絶え絶えに聞くと、


「少し苦戦したが、なんとかなったよ。言っただろ?俺たちはそこそこ強いんだ」


そう笑って答えた。ガモンさんたちもゴブリンたちを倒し終わったようで、駆け寄ってきた。メイさんはソフィアに回復魔法をかけている。僕は、ライトさんからもらっていた回復ポーションをのんでいた。


「トム、すまなかったな。全部引き寄せられなくて」


「いや、僕が残りを倒す手はずになっていたので、こちらこそ行けなくてすみません」


ガモンさんは、やれやれといった顔をしてから


「よくやってくれた!」


といいながら背中をどんとたたいた。痛かったが、うれしかった。


「それにしても、ゴブリンメイジの動きは異常だったな。ゴブリンより知能が高いとはいえ、ゴブリン数体を率いる程度のはずなのに、あいつは30体ほどに命令を出していた。そのうえ魔法が脅威だと分かった瞬間、ソフィアを攻撃に来たんだからな」


ガモンさんが不思議そうに言った。


「ゴブリンメイジに対する見解を変えなければならなそうだね。ギルドにも報告しなきゃな」


とライトさん。


「まあひとまず勝利ってことで村に帰ろう!」


その後、僕はガモンさんに担がれ、ソフィアはレイさんにおぶられて村へと戻った。村へ戻ると、ライトさんは村長へ報告した。その後、僕とソフィアのうちへも来て謝罪しに来ていた。アレックスさんもソフィアのお父さんもすごく心配していたと思うが、無事に帰ってきてくれてよかったとライトさんたちを怒ることはしなかった。ライトさんはものすごく申し訳なさそうな顔をしていたが。


 次の日、目覚めるとレベルが上がっていた。なんと、レベル10になっていたのだ。家の布団で寝られたというのもあって、経験値獲得倍率は×2。危機察知スキルのレベルは3に上がり、剣術スキルのレベルは2に上がっていて、身体強化のスキルもレベル2に上がっていた。しかし、新たに獲得できるスキルは何もなかった。あの目を閉じたときの情景はスキルによるものだったのだろうか。危機察知スキルが近いような効果を持っていそうだが、何か違う。考えても答えは出なかったので、ライトさんたちに聞いてみようと思い、会いに行く準備をした。


 ライトさんたちを探して村の中心まで行くと、人だかりができていた。ライトさんたちの姿が見える。


「もう帰っちまうのかい?」


村長が言う。


「ええ。しばらく脅威となるものもいなくなりましたし、ギルドにも報告しなければなりません」


「そうか、残念だが仕方ないな」


「では、また何かあったらギルドの方によろしくお願いしますね」


そういって4人は立ち去ろうとした。


「ライトさん!」


ぼくは、大声で呼び止める。


「トムじゃないか。けがはもういいのかい?」


「おかげさまでなんとか....じゃなくて、もう帰っちゃうの?」


「そうなんだ。Aランク冒険者は忙しいんだよ」


とおどけたように言う。


「ぼくはライトさんたちみたいな冒険者になりたいんだ。それに、まだライトさんたちにたくさん教えてもらいたいことがあるんだ。だから、まだいかないでよ。」


「おれは、そんなに大したものじゃないよ。君たちを危険にさらしてしまったし」


「ぼくは自分から行きたいって言ったんだ。それに、僕の心はもう冒険者だって言ってくれたじゃないか。冒険者に危険はつきものだ。そうでしょう?」


しばらくの沈黙の後にガモンさんが


「がっはっはっはっは。これはトムに一本取られたなライト」


といって、バシバシとライトさんの背中をたたいた。


「そうだな。俺の考えすぎだったか」


「こいつはな?トム。お前らに怖い思いさせちまったから責任感じてお前らに合わせる顔がねえって朝早くに帰ろうとしてたんだぜ」


ガモンさんが言うとライトさんは顔を真っ赤にしてすねた。


「まあ、その気持ちもわかるけどね」


とメイさん。


「ライトは優しいっすね」


今度はレイさんだ。


「ああもう!うるせえ。帰るったら帰るんだよ」


「まったくもう。こどもなんだから」


メイさんはあきれている。


「わかったよ。トムちょっと来い」


そういってライトさんは僕を道のわきに連れていく。そして、カバンから紙を取り出すと何かを書いてぼくに渡す。


「お前が本気で冒険者になりたいんだったら王都のここの住所にこい。俺たちのパーティハウスがあるんだ。きっちり鍛えてやるからな」


そういってまたあの笑顔を見せてくれた。


「はい!絶対行きます」


「よし、待ってるからな」


そういって三人の元へと戻っていった。ライトさんは三人に小突かれながら王都への道を帰っていく。僕はその姿が見えなくなるまで手を振り続けた。もらった紙を握りしめて。



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