第5話 そのスキルの名は【ラアル】

 「けっ、馬鹿馬鹿しい……ん?あの煙は……そうか、あそこは喫煙所だな」


 見るとそこにはしけた面した騎士どもが中庭に設置された水の汲まれた壷の前で屯し一服していた。

 こういう光景はどの世界でも変わらんのな。


 「おい!」

 「おぉ勇者様ですか、なにかご入用で?」

 「おうよ、煙草一本くれよ」

 「……それはいけませんぞ勇者様、あなたはまだ喫煙できる歳ではございませんから」


 うるせーよ!オレはもう30だぞ!

 ……と言いたかったがこの見た目じゃ流石に信じてもらえないか。


 「……それにこれが最後の煙草だったのです」


 騎士の一人が物憂げな表情で壷の中に落とした煙草を見ながらそう告げる。


 「どういう事だ?」

 「もう昨年の事になります、我が国の煙草産業は廃業となったのです。王国の人手不足と食料生産優先政策によってですね……このご時世故、仕方のない事ですが」

 

 煙草が無いってマジかよ?

 あれ、でも待て。

 体が幼くなった影響なのか前みたいに煙草見たらすぐに吸いたくなる禁断症状が出てないぞ。

 これはある意味ラッキーなのか?


 「……まぁ人口の七割も引きこもりじゃそうなるか」

 「それだけじゃありませんわ」

 「うおっ!びっくりした!」

 「ヘ、ヘルミリシア様!」


 いつの間にやらオレ達の背後にはヘルが立っており、スルッと会話に割り込んできた。

 随分と神出鬼没だな、神だけに。


 「……で?それだけじゃない?どういう事だ?」

 「簡単な事ですわ滅びゆくこの世界に娯楽はもう殆ど残されておりません、煙草は廃止、お酒は減産、賭博は中止、娼館も廃止。そして使える人員の殆どが食料生産へと回されておりますの」

 

 酒、煙草、ギャンブル、女という漢の嗜みが殆ど残されていないだと?

 それは由々しき事態過ぎないか?

 

 「うええ、なんだそのつまらん世界は」

 「この世界ですわ。だから例え、お金を沢山持っていたとしても何もする事がありません……今の所はですけどね」


 敢えて含みのある言い方しやがったな。

 逃げた先に娯楽も何も無いってんなら金を持ってのとんずらプランに意味は無い。

 ようはオレの考えていた事に釘を刺してきたという事だ。


 「チッ、呪いとやらを解けば引きこもり共が再び働き出してそれらの娯楽も復活するって言いたいんだろ?」

 「流石、マズダ様はご聡明ですね」 

 「誰でも分かる事だろう」

 「全てを決めるのはマズダ様次第ですわ」


 この野郎、何がオレ次第だ。

 全ては女神とやらのアンタの手のひらで踊らされてるだけだろ。


 「一応言っとくがこっちはまだ完全に呪いを解くと決めた訳じゃねえぞ!……ヘル、あっちで詳しく話を聞かせろ」

 「はい、マズダ様ねっとり、しっぽり、ずっぽり、お教えしますわ」

 

 …………ずっぽり?


 ▽ ▽ ▽

 

 オレとヘルは騎士達のいた喫煙所を離れ、人気の無い広間のベンチに腰掛ける。


 「それでヘル、手早く簡単に呪いを解く方法を教えてくれ」

 「方法は別に難しくありませんわ。呪いを発動させた張本人天魔ソリトゥスとそのしもべ達を倒す事ですし」

 「……あーやっぱりそういうのなんだ」


 呪いの解除方法は至ってシンプルで単純明快なものだった。

 ……しかし、裏を返せばそのシンプルで単純明快な事を現状誰も達成出来ていないという事なんだがな。


 「呪いの件はこれ位にして、まずはマズダ様のステータスを確かめましょうか。今後の動きを考える上で必要になりますわ」

 「お、確かに……自分のステータス確認か。すっかり抜け落ちてた、早速見てみるか」


 まずは今のオレの実力をか。

 よく考えたらそうだよな、他人のステータスが見れたなら自分のステータスも見れる筈だ。

 勇者っていう位だし、さぞとんでもないステータスなのだろう。

 意識を自分自身に集中してみる……よし、うまくいった。

 

 視界に直接、オレのステータスが表示されていく。

 

 名前:マズダ(笑)

 性別:男

 種族:人間(のクズ)

 装備:黒影の装束

 武器:無

 レベル:1

 HP :12

 MP :10

 攻撃:1

 防御:3+15

 速度:8+22

 魔力:1

 賢さ:1

 運 :15

 特殊スキル:【ラアル】


 よっっっわッ!!!

 てか名前欄の(笑)はなんだよ!

 確実に誰かの意思が介在してるじゃねぇか!

 

 ……プラスってのは装備で盛っているのか?

 それにしてもこれが本当に勇者の、しかも異世界の勇者っていうスーパーハイパーギフテッドのステータスか?


 「どうかなさいましたか?マズダ様?」

 「ヘル、それがな『えっ、私のステータス低すぎっ』みたいな……ん?なんだこれ?特殊スキル欄のラアル?」

 

 ラアルというスキル名がオレの口から告げられた瞬間、終始お淑やかで微笑を浮かべていたヘルの表情が突如、鳩が豆鉄砲を食ったような顔へと変化を見せた。

 

 「ラアル……なんてことなの、そんな!まさか!?」


 なに?なんだ?

 一体どういう事だってばよ!?

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