第3話 謎の世界と謎の美女

 「取り敢えず着替えをなさりませぬか?」

 「……ですね。すみません、お願いします」

 

 ▽ ▽ ▽


 結局オレはさっきのオッサンの提案を飲み、服を仕立てて貰う事にした。

 流石にあんなぶかぶかの作業着のままでは動きづらいし面倒なので仕方がない。


 そしてオレはオッサンの案内で服屋かと思うぐらいに沢山の洋服が所狭しと並べられた部屋へと連れて来られていた。


 「どうでございましょうか、勇者様」

 

 メイド服を着た女性が大きな姿見をオレの前に持ってきて尋ねる。

 このやり取りはこれでもう三回目だった。

 

 「アッ、ハイあとオレ勇者じゃないです」

 「……?」

 

 いや、そんな何言ってるか分からないみたいな顔されましても……。


 「あの?聞こえてます?」

 「えっ!ええそうですが……どう見ても貴方様は伝承通りの勇者様ですよ?」

 「は~……そうですか」  


 こいつ、何度訂正してもこの態度だ。


 話を服の仕立てに戻そうか。

 このメイドはガチで仕立てのセンスが絶望的なんだよ。

 

 例えば一着目に着せられたのは……鎧だぞ。

 まばゆい光彩を放つ銀白色のフルプレートメイル(軽すぎるし段ボールとアルミホイルで作ったんじゃないか?)

 なんだこれは?コスプレか?


 ……二着目。

 どこかの国の王族の様にバチクソ派手な衣装と豪華絢爛な宝飾品で着飾られた服。

 パリピじゃあるまいし、いくら何でも悪目立ちし過ぎるのでやめてくれと抗議した。


 そして現在の三着目に至る訳だ。  


 「それでこのお召し物はお気に召したでしょうか?」

 「ま、まぁ、これなら」


 黒の羽織とそれに合わせたシルバーアクセサリーに、これまた中二病感のあるデザインの黒い衣装。

 前者の様なロクでもない服を着させられる位なら、これは千歩譲って多少痛い奴のファッションの範疇だし……しゃあない、これで妥協する事にしよう。

 

 ……というかファッション云々の前にそもそもこの場所、あるいはこの空間自体が色々とおかしな点が多い。

 そうオレの第六感が囁く……訳じゃなくて。

 

 まず一つ、姿見を見せられた時や着替えで脱衣させられた時に気が付いた事がある。

 オレの背はただ縮んだ訳でなく若返っていたと言った方が正しい。

 具体的に言えばアソコの毛が生える直前位にまでだ。

 顔自体もちんちん相応の社会の厳しさをまだ知らない純粋無垢な美少年だった頃に完全に戻っていた。

 

 若返りなんてオレの知っている普通の世界じゃ絶対あり得ない事だ。


 そして特におかしかった点はコレ。

 例えば目の前に立つメイドに視線と意識を集中させると……。

 

 名前:メイドA

性別:女

 年齢:?

 胸 :普

 種族:人間

 装備:?

 武器:?

 特殊スキル:無

 レベル:5

 HP :?

 MP :?

 攻撃:?

 防御:?

 速度:?

 魔力:?

 賢さ:?

 運 :?


 おほん、とまぁこんな感じにオレの視界に入っている対象に意識を向けるとまるでゲームの様にステータスが印字された物が視界に直接映り込む。

 これは一体どういう未来技術だよ。


 「……勇者様、私の顔に何か?」

 「あ、あぁ~いや、別に」


 おっと、流石にジロジロ見過ぎたか。

 急いでメイドから目を逸らす。

 昨今じゃジロジロ女の子を見るだけでセクハラになりかねんからな、気を付けよう。


 「失礼しますぞ。おお、勇者様お似合いですなぁ……おっとそれよりも、ささっ、急がれよ王がお待ちですぞ」

 

 着替えを終えたオレに部屋の外から声を掛けたのは先程の聖職者風の男だった。


 「……王?」

 

 オレの疑問は解消されぬままオッサンはオレを衣裳部屋から連れ出して屋敷?を散策する事数分。

 オレはオッサンに広間の様な所に案内され、その中でも一際目立つバチクソでかい扉の前まで連れてこられた。

 

 オッサンは徐にその扉をノックし「ザリオです、勇者様をお連れ致しました」と告げた。


 すると中から「入れ」という低く太い声が聞こえ、直後扉がゆっくりと音を立てながら開いていく。


 ザリオと名乗った聖職者風のオッサンが連れてきた部屋にはオレ達の通り道を作るように鎧を着た騎士が隊列を組んで並んでいた。


 「ささっ勇者様前へ」

 「はぇ~ゲームとかアニメの謁見ってやつみたいだな」

 「みたいじゃなく謁見ですぞ勇者様」

 「……ふ~ん」


 謁見という言葉に相応しく騎士で出来た道の先には生活習慣病に苦しみそうな小太りの体型と長い髭、そして宝石のあしらわれた冠に豪華な装束、まさにザ・王様って感じの人物が座していた。


 「王よ、こちらが勇者様です」


 ザリオは跪き、目の前の椅子に腰かけた王にオレを紹介した。


 「うむ……ワシはリント王国50代目国王リント・バルト・グラモンだ、まずは勇者殿、汝の名が聞きたい」

 「まずは自己紹介ね、オレの名は増……」


 待て待て!こんな中世風の世界で増田です!なんて名乗るのは全国の増田さんには大変申し訳ないけど世界観が違う気がしてちょっと恥ずかしいな。

 それに一応、個人情報に配慮して偽名を使うべきだろう。

 

 ここは……そうだな。


 「……勇者殿どうかなされたか?」

 「いや何でもない。オレの名はマズダだ」

 

 オーケー、濁点付けただけでもそれっぽい名前にはなっただろ。


 「ふむ、それではマズダ殿、まず始めに誠に勝手ながら汝をこの世界に呼び出した事について謝罪させて頂こう」

 「……呼び出した。ねぇ」

 

 オレの言葉を待たずにグラモン王は椅子から立ち上がると騎士達と共にオレの方へ向けて頭を下げた。

 そして謝罪を終えた王が再び席へ着く。

 

 謝罪と申されましてもな。

 正直今、特に怒ってる訳でも無いし頭下げられようが知ったこっちゃないが……。

 

 それよりも呼び出された?

 中世風の世界観と言いなんだか異世界転移っぽいような……いやいやあるかいそんな事、とも言い切れないのが癪だな。

 

 ただあまりの急展開過ぎて実感がなさ過ぎる。

 ……だって今日、玄関のドア開けただけだぞ、オレ。

 

 それとそこにいる王よりも気になった人物が一人いる。

 

 王の隣にフラフラ~と立つ女だ。

 確かあいつはここに来て最初に見かけたエロ姉ちゃんだよな?

 ……相変わらずぺぇがデカくてイイ! 


 「あらマズダ様私に何か?」

 「えっ」

 

 やべ!本日二度目の視姦バレだ。

 オレは慌てて彼女から視線を逸らす。

 さっきも言ったがセクハラ被害を訴えられてはたまったもんじゃない!


 「ヘルミリシア様どうなされたか?」

 「いいえグラモン、貴方には関係の無い事ですわ」

 「……左様でございますか」


 ん?待て、どうなってる?

 グラモン王があの女に対して敬語を使った?

 王を名乗るあいつよりあの女の方が立場が上って事なのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る