3 決戦のステージ
決戦の当日、俺は対決時間より1時間ばかり早く東京ドー〇シティホールへやって来た。渋谷天狗と、簡単な打ち合わせぐらいしておかなければならないだろうと考えたからだ。
奴の狙いを確かめる必要がある。
俺がスタッフに名を告げると、事もなく渋谷天狗の控室へ通された。
「やあどうも」
そんなフレンドリーに迎えられても調子狂うな。こいつもう仮面を被っているし。
「今日はよく来てくださいましたね。てっきり恐れをなして、WEBの世界からも逃亡するかと思っていたのに」
「今日の段取りを確認したい」俺は奴の挑発を無視して言った。「それと、何が目的なのかも承りたいな」
「お気を悪くされたのなら、謝罪します」
奴はしかし、言葉だけで頭は下げなかった。
「ざっくばらんに言うと、利用させてもらいたかったんですよ、あなたたちの評判がとても良かったものですから。そこで私が、あなたたちと同等の力を持っていることを多くの方々に知ってもらうために、このイベントを企画したんです」
「人をイカサマ呼ばわりしておいて、利用したいってのは虫が良すぎるんじゃねえか?」
「イカサマとは言ってませんよ、ニセモノとは言いましたがね。そこはそれ、ホンモノだと証明してみせればいいだけのことじゃないですか」
「『自作自演っぽい』って言ってたぞ。イカサマって言ってるのと同じじゃねえか」
「それはどうも、口が過ぎました。謝罪します」
だから、少しは頭ぐらい下げろってんだ。
「でも貴方の方こそ、私をイカサマ呼ばわりしてたんじゃありませんか?」
俺は言葉に詰まった。こいつ、うちに盗聴器でも仕掛けてるんじゃないだろうな?
「まあ、クライアントを3人ばかり呼んでいるんで、一緒に悪霊退治といきましょう」
「クライアント1人ずつに、俺たち2人で同時にダイブするのか?」
「ダイブ・・・クライアントの意識化に入ることを、そう呼んでいるのですか。勿論そういうことです。どちらが先に悪霊を退治できるか、競うとしましょう」
こいつが言うとおりなら、対応策はプランBだ。だが桜子の言うように、それは見せかけに過ぎないかもしれない。
自分用の控室へ案内された俺は、ニット帽を被り、サングラスをした上にさらにマスクをつけて待機した。
どこからどう見ても変質者っぽいだろうが、こんな副業をやっていることを会社に知られたくないので、致し方ない。
やがてスタッフが俺を呼びに来て、ステージに案内された。
ステージの反対側には、クライアントと思われる3人が座っている。
場内には渋谷天狗のチャンネルで使っているテーマ曲が既に流れていた。
ライティングのきついステージからは、アリーナ席やバルコニー席がよく見えない。
ステージの向こう側から、渋谷天狗が出てきた。場内から歓声が上がる。ライトに目が慣れてきて、うっすらとアリーナ席が見えてきたが、結構人が入っているどころか、ほとんど満席の状態だった。
「皆さんようこそ!」渋谷天狗がインカムマイクを通して観客に呼びかける。「今日はあの有名な除霊師、
だがあまりにも怪しい俺の出で立ちゆえに、場内の反応は薄い。それに「有名な」とは言ってくれたが、こんなに観客を集めたお前の方が有名じゃねえか。
待てよ、こいつの財力なら、みんなサクラってこともあり得るな。こいつのチャンネル登録者数、何人だっけ?
「飛島さんはこれから、私と一緒にクライアントの除霊を行います! 皆さん応援よろしくお願いします!」
渋谷天狗は早速クライアントの前で人差し指を立て、それを凝視するように言うと、指を動かしながら語り続け、あっという間にクライアントを眠らせてしまった。
嘘みたいに早いんだが、これやっぱり催眠術じゃなくてイカサマなんじゃないか?
「さあ、これから私たちはクライアントの心の中にダイブします!その心象風景は大型スクリーンに投影しますので、皆様そちらをご覧ください」
そうして俺は、クライアントの斜め前に用意された椅子に座らされた。渋谷天狗は反対側の斜め前に座り、つまり俺たちはクライアントを頂点に置く正三角形の形を成して座った。
クライアントと渋谷天狗との距離は、ともに約3メートル。この距離が何を意味するのか・・・。
「さあ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます