夏だ! 海だ! 合宿だ!

第25話 平凡な日々

シリウス区防衛作戦が終わり、気がつけば七月。

セミの声が鳴り響き始めていた。


「暑いね〜にっちゃん」


 下敷きをパタパタを振る。今年は猛暑を記録するらしい……。


 シリウス区防衛作戦が終わり私たちは三日間の休養を得て、再び学園生活を再開した。辛いことが起きたけど、それよりも……


「暑すぎて、私もキツイかも」


 暑い……本当に。


『ミーンミーンミン』


ーーーー


『キーンコーンカーンコーン』


 お昼休み。私とにっちゃんは外に出て木陰に座る。


「あら、今日はそっちが早かったわね」


 美羽と氷華ちゃんがやってきた。最近は四人でお昼ご飯を食べている。


「氷華ちゃん暑いよ〜。氷魔法だしてぇ」


「ちょっと!氷華をなんだと思ってるの!」


 他愛もない会話が続く。この日常が好きだ。


「そ、空ちゃんだ、大丈夫?お水買ってこようか?」


「ダメだよ氷華ちゃん。なっちゃんを甘やかしたら」


 にっちゃんは相変わらずしっかりもの。本当にあの時は助けられた……。


「大丈夫! 私自分で買ってくるよ!」


 ゆっくりと立ち上がり、自販機へ向かおうとする。


「ウチも麦茶ねー」


「なんでよ!?」


 なんで私が奢らなきゃ……。まぁ麦茶くらいいっか。


 自販機のボタンをポチッと押す。こうして今幸せに過ごしているのは大天使が助けてくれたから……。自分が憎む相手に助けられるなんて情けないや。


「はぁ……」


「何ため息ついてんのよ」


「ぎゃあ!!」


 突然真後ろで話しかけられてびっくりする。振り返ると。


「美羽! ちょっと! びっくりしたじゃん!」


 心臓飛び出たかと思った……。


「ボケーってしてる空が悪いんでしょ!」


 私たちは目を合わせいがみ合う。この光景も変わらない。


「それより、麦茶ありがとね〜」


 私の手にあった麦茶を奪い取る。


「ちょっと! まだ奢るなんて!」


「奢ってくれないの?」


 私は一つため息を吐く。


「どうぞ」


「やったー!」


 美羽は喜んでキャップを開け、ゴクゴクと麦茶を飲む。


「ぷはー! やっぱり夏は麦茶にかぎるわね」


 全くこの子は……。


「ほら戻るよ。」


 二人でゆっくりと木陰に戻る。


「空……。改めてありがとう。あんなに必死に私を助けてくれて」


 危うくキスしそうだったけど……今こうして隣で元気にしてくれてるから気にしてないや。


「そんなことないよ。大切な『親友』だもん」


 美羽は私の言葉にクスッと笑い背中を叩く。


「…っ!痛!」


「全くこんな風になるなんて」


 美羽は木陰にいる氷華ちゃんとにっちゃんを見つめる。


 「私は天使様を崇まない貴女が嫌い……だった。だけど、そんなの関係なしに私は貴女のこと『親友』だと思ってるわ。考え違えどね」


 確かに……思い返してみれば私たち最初は睨み合いばっかりして、仲良くなるって感じじゃなかったのになぁ……。


「何を今更!私だって美羽が大切な親友なんだから!これからも一緒にいなさいよ!」


 美羽の背中をバシッと叩く。美羽はイタッ!って叫ぶも。


「当たり前よ! それより空は、ニエといい加減関係進めなさいよ!」


 その言葉に顔が真っ赤になる。思わずにっちゃんの方を見ると、氷華ちゃんと楽しく話しているのが見えた。


「ま、ま、ま、まだかなぁ」


「ふーん?」


 美羽は私を見て嘲笑う。全く……こういうところは本当に……まぁいっか。


「ほら戻るよ!」


 私は美羽の顔をみず、木陰へ帰っていく。


「何話してたの?」


 戻ってすぐにっちゃんが話しかけてくる。


「あー。空がね……」


「うるさい! バカ!」


「はぁ!? どっちがバカよ! バカ!」


「あ、相変わらず、な、仲良しだね」


「あはは……」


 にっちゃんの苦笑いをする。でもいつかきっと……。


ーーーー


 放課後。私は荷物を整理してゆっくりと立ち上がる。


「なっちゃん帰ろう〜」


 今日もにっちゃんと帰ってそれから家に帰ってご飯食べ……。


「ごめん! 今日用事があるんだ!」


 て……って!? えぇ!!


「そ、そっかぁ。それはしょうがないや」


「ごめんね! なっちゃんまたね!」


 とほほ…と落ち込みながら教室を出ると美羽とすれ違う。


「美羽! 一緒に帰ろ!」


「なんでよ! 今日は無理!」


 美羽は廊下を走って帰っていく。立て続けに断られるの悲しい。しかし靴箱に居たのは。


「氷華ちゃん! 一緒にか〜えろ!」


「ご、ご、ごめんね! き、今日用事があって」


 氷華ちゃんはおどおどしながら帰って行った……。


 ぶーぶー。なんだよみんな。私は靴を履き、ゆっくりと帰る。


「私たちの住む隣街には魔界軍がいるのかぁ」


 実感できない……。ベテル区が落とされてるけど、こうして平和に学校生活が送れていることに……。大人の人たちが頑張っているのかな。


 最近ずっと誰かと帰っていたから帰り道が遠く感じる……。


「夏……かぁ」


 色々濃ゆかった一学期。この後は合宿が待ってるんだもんね。


「……もっと強くならなきゃ!」


 魔物にも、大天使にも勝てない私じゃダメだ!せめて魔物には勝てるように合宿頑張らなきゃ!


 私は頬を叩き、気合を入れ直す。


 気づけば家の目の前。夏になるとまだ明るいから変な感じするなぁ。


「ただいまー」


 私は玄関の扉をガチャリと開けた。

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