第24話 帰還と布告

雨はだいぶ落ち着いてきた。傘も壊れた私たちは濡れながら帰る。


「……っ!夏風さん!ニエベスさん!」


 紅葉学園に着くと野々原先生と校長先生が駆け寄ってきた。


「良かった……! みんな無事で」


 私となっちゃんだけではなく、氷華ちゃんと美羽にも抱きつく。


「先生……苦しい!」


 ボロボロの私たちは保健室へ連れて行かれた。


「それにしても、こんなにも残酷な結末とは……」


 服を着替え、手当してもらってる間に校長先生と月城さんが話していた。


「えぇ……やはり魔界はナイトメアを……」


 ナイトメア……宮里さんが言ってた。魔界にある微量の粒子……一体なんなんだ。


「おい。由衣は最近の魔界知らないのか?」


 月城さんは私たちに付き添ってる野々原先生を見て話す。


「最近は先生に集中してたし……」


 ……って、え?


「お知り合いなんですか?」


 下の名前で呼び合ってるし、なんで?


「そっかこいつはメディアにはでなかったっけ。野々原由衣。俺たちと同じ英雄の一人だよ」


 その言葉に目ん玉が飛び出そうになる! え? 私たちの担任って英雄だったの!?


「先生……なんで隠してたの?」


「いや……あんまり英雄呼ばわりされるの好きじゃないから」


 先生は髪をくるくるといじりながら話す。そういう人もいるんだなぁ。


「風馬。六大都市は守れたの?」


 ここに英雄が二人も……。すごい光景だ。


「おそらく、雪と由未がなんとかしただろうが……」


 月城さんは声を詰まらせながら話す。


「だが、おそらく今回の襲撃でどこかの街は落ちた可能性が高い……。そこを拠点に徐々に攻められる可能性も高い。」


 それって魔界軍が地界に再び侵攻してきたってこと!?


「て、テレビをつけてくれ!」


 誰かと電話していた先生は青ざめた顔をし焦りながら言う。野々原先生がテレビをつけるとそこには……。


『はじめまして。地界の諸君。いや。はじめましてじゃない人もいるな。』


 黒いフードを被り顔が見えない……。だが声を聞いてる限り女の人だ。


『今回我々魔界軍が全ての大都市。また一部、区を襲撃させてもらった』


 魔界軍……。やはりこいつらの仕業か!


『そして今回大都市はやはり落とせなかったが、しゅうのマタル区。とうのベテル区を制圧した』


 嘘……。ベテル区ってシリウス区から近い都市だ……。


「やっぱり、秋冬しゅうとうは落ちてしまったか。」


 月城さんは拳を強く握りしめながらテレビを見つめる。


『すぐに他の都市へ侵攻したいが、我々も万全ではない。』


 万全ではない……ってなぜ言う必要があるんだ。


『……覚えておくが良い地界の人々よ。我々は天界に味方するお前たちを許さない。そして我々を追い出したことを許さない。元は同じ仲間だったはずなのに。必ず復讐されると思いながら生きることだな』


 そしてテレビは砂嵐に変わった。


「……困ったことになったな」


 校長先生が険しい顔で話す。


「ええ。奴らも大都市にはまだ侵攻できる力がないとは言え、二つの区が落とされた。我々地界はこの二つの区を奪還しないといけませんね」


 月城さんと校長先生は今後について話し合う。私たち子供にはついていけない。


「が、学校はどうなるんですか」


 氷華ちゃんが顔真っ青で話す。


「続けるとも。シリウス区は天界に守られている。それにここで何もかも止めたら魔界にビビっていることにもなる。」


 校長先生は氷華ちゃんをみて優しい顔をする。氷華ちゃんを怖がらせないために校長先生も必死なんだ。


「ウチは……武器を失いました」


 美羽が俯いたままポツリと呟く。


「……そうだな」


 月城さんは腕を組み何か考えているようだった。


「夏休み! 合宿しよう! いいね?」


 笑顔で月城が私たちに問いかける。


「トップ四強化合宿だ! 由衣もこい!」


「……わかったわよ」


 クスッと野々原先生が笑う。私たちを、落ち込ませないために元気よく言ってくれてるのが伝わる。


「わかりました……」


 美羽はやっぱり元気がない……。そうだよね大切な武器を無くしたんだから。


「さぁ君たちは今日はもう帰るんだ。」


 治療も終わり、私たちの体力は回復した。体内プリズマは言わば体力そのもの。身体中に力が再び湧いてくるのを感じる。


 四人だ立ち上がり、保健室の扉を開けたその時!


「夏風さん! ニエベスさん!」


「美羽ちゃん! 氷華ちゃん!」


 私たちのクラスメイトが抱きついてきた! みんな心配してくれたんだ。


「ありがとう私たちは無事だよ」


 そう伝えるもみんなには聞こえてない。でも無事生き残ったこの瞬間を大切にしなきゃ。


「……この四人には辛い運命を背負わせてしまったかもしれない」


「それが大天使が決めたことなのでしょう。きっと」


「……咲……貴女はこの世界を、今も守ろうとしてくれているの?」


 雨が止み、雲が晴れていく中、大人たちが私たちの後ろで話す。私たちはクラスメイトに泣きつかれていて聞こえていなかった。


ーーーー


「ただいまー」


 あの後みんなと解散し家に帰ってきた。


「……空!」


 お母さんが私の声に気づき、急いで玄関まで走ってくると。


『ガバ!』


 ものすごい勢いで抱きつかれた。


「おかえり……おかえり」


 お母さんが泣いてるのが分かる。あー。辛い一日だったな。


「お母さん……ぐす……私頑張ったよ」


 お母さんの温もりで思わず涙が溢れる。


「よしよし……空……貴女はよく頑張ったわ。今日はゆっくり休みましょう」


 お母さんに頭を撫でられ私はさらに大泣きする。

生きて帰れたことに安慮し涙が止まらなかった。


ーーーー


「これからどうしますか?」


 四人が見つめる先には一人の少女が座っていた。


「とりあえず春までに準備を終わらせ、一番手薄な秋冬しゅうとうを落とす!」


 少女は立ち上がり四人を見つめる。


「お前たちならやれる。その時まで準備を怠らずにな」


『ハッ!』


 少しずつ異変が起き始めた世界。この先三つの世界はどうなるのか、空の運命は……。


 各々が色々な気持ちを持つ中、暑い夏がやってこようとしていた。


           To be continued

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