第23話 英雄

「なんだ、来てたの」


 宮里さんは男性に向かって話す……。見たことある…貴方は。


「『英雄』の…月城風馬」


 知らないはずがない。私のとって、いや、私たちにとっての憧れだ。


「初めまして。そう、俺が月城風馬だ。よろしく」


 月城さんは私たちを見て一つお辞儀をする。目の前にあの英雄がいる……。嬉しいはずなのに、喜んでる暇がない。


「ゲホッ! ゲホッ!」


 熱で氷華ちゃんを覆っていた氷は溶け、少し水を飲んだようだった。


「氷華ちゃん! 大丈夫!」


 私は急いで駆け寄り、氷華ちゃんの手を握りしめる。少しでも私のプリズマを!!


「雪。子供相手にムキになるなよ」


 月城さんは宮里さんと話していた。知り合い……なのか。……なんで?


「この二人のコンビネーションがウザかったの! 別にいいじゃん!」


「あんまりムキになると怒られるぞ」


 さっきからなんでこの二人は仲良さそうに話せるんだ……。


「……空……さん」


「!! 氷華ちゃん!」


 氷華ちゃんの目がゆっくりと開く。良かった無事で……。


「にっちゃんも大丈夫?」


「……うん。大丈夫だよ。」


にっちゃんは二人をじっと見つめていた。


「あの……月城さんは何故ここに」


 氷華ちゃんをさすりながら、ゆっくりと月城さんに話しかける。


「近くにいたからね。命令されて様子を見に来たんだ」


 そうなのか……。良かった。もし月城さんが来てなかったら私たち宮里さんに……。


「雪は早く帰りな。バレたらまずいだろう」


「はーい。それじゃ由未と合流して帰るかなぁ」


 宮里さんはゆっくりと伸びをすると、翼を広げる。


「……じゃあまたね。空。ニエ」


 翼を羽ばたかせ、宮里さんはものすごい勢いで雨降る青空へ飛んでいった。


「……なんで、名前……」


「まぁ見られてるからね」


月城さんは私たちに向かって話す。……見られてるって?


「どういうことですか?」


「こことうの六大都市は雪と、もう一人、由未。この二人で守られているのさ、言うなら『神様』みたいな感じかな。」


 大天使って言ってた。その表現を地界で表すと神様か……。確かに納得いくかも。


「なぜ月城さんは大天使と知り合いなんですか?」


 あんな風に大天使って近づけるものなの?


「うーん。それは君がもっと強くなり、この世界を知ってからかな」


 月城さんは優しく私とにっちゃんの頭を撫でる。


「だが……。雪にあそこまで力を使わせるなんていいコンビなのかもな」


 そうだ。私とにっちゃんは、勝敗さえつかなかったけど、あそこまで善戦できたんだ!


「さぁ帰ろう。学生にしてはよくやった。あとは……」


その時私の背筋がゾワっとする。


「み、美羽ちゃん!!!」


 そうだ! 戦いに集中しすぎてた! 美羽ちゃんは前線にいて、魔物はここまで来た……!


「……っ!」


 私は急いで村の方へ走る!


「なっちゃん!!」


 にっちゃんの声に止まることなく私は村へと走った。


ーーーー


「……なに……これ」


 村に着くとそこは村ではなく、荒れ果てた地になっていた。


「美羽ちゃん! 美羽ちゃん!」


私は大声で美羽ちゃんの名を叫ぶ……。周りを見ると死んでる兵隊さんがたくさん……吐きそう。


「……っ!美羽ちゃん!」


木の下で倒れている美羽ちゃんを見つけ私は急いで駆け寄る。


「美羽ちゃん……!ひどい怪我!」


 爪で引き裂かせたような跡……。私は急いで手を繋ぎ残り少ない体内プリズマを注ぐ。


(今は私のプリズマが尽きてもいい! 美羽ちゃん!!)


注いでも返事がない……プリズマを注ぐスピードが遅いのかな。


(……今は気にしてる場合じゃない!)


私は美羽ちゃんの顔に近く。


(キスなら、より注ぐスピードは速い……!)


ファーストキスとか関係ない! 友達が死にそうなんだ!


(ごめんね。後で謝るから)


お互いの唇が近づきそうな……その時!


「バカやってんじゃないわよ!!」


美羽ちゃんの手で唇を塞がれる。


「……み、美羽……ちゃん!」


私は泣きながら美羽ちゃんの胸に頭を乗せる。


「空の唇は大切な人にとっておくんでしょ」


見透かされてたなぁ。でもなんで無事なの。


「俺が助けたのさ。魔物に襲われそうだったからね」


月城さんがゆっくりと歩いてくる。後ろには氷華ちゃんをおんぶしたにっちゃんがいた。


「その後も、モンスターの群れがきて、全滅させてからこっちに来たから時間かかった。すまないね」


 良かった…本当に。


「無事で良かった……美羽」


 私の言葉に美羽もうるっとなるも……。


「美羽ちゃんー!よがっだ! ぶじで!」


大泣きしながら駆け寄ってきた氷華ちゃんと私を抱きしめていた。


「これで全員ですか」


にっちゃんが月城さんと話すのが聞こえる。


「……だな。残酷な結末だ」


周りを見渡すと確かに生きている人がいない……ということは。


「四人だけ」


美羽の言葉に絶望する。あんな大掛かりな作戦をしてここまでやられるとは……。


「さぁ帰ろう。紅葉学園に」


月城さんは私たちに向かって優しく話す。



こうしてシリウス区防衛作戦は終わった。


生還者たったの四人という絶望の結果で。


ーーーー


「ねぇ! 聞いてよ! 咲!」


雪が私に抱きついてくる。甘えん坊なところは変わらないや。


「知ってるよ。強かったね。空とーー」


雪の頭を優しく撫でる。


「これからが楽しみな四人だ」




世界を見守る少女は一体何者なのか。


それはきみが見届けよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る