第16話 森へ

「美羽ちゃん……」


 ザーザーと雨が強くなってきた音がする……


作戦上、美羽ちゃんとは一緒に行動しない……。私とにっちゃん、氷華ちゃんは最後尾で漏れたモンスターを倒す役割を受けた。


「なによ? そんなうちが今から死ぬみたいな表情しちゃって!」


「そんなこと! 絶対思ってない!」


「本当かしら?」


 美羽ちゃんの実力は私が一番知っている……。そうだ、だからこそ元気よく見送らないと!


『ガバッ!』


 私は美羽ちゃんに抱きつく。


「必ずまた会おうね。」


 美羽ちゃんに抱きつくと、美羽ちゃんはゆっくりと私の背中に腕を伸ばし抱きつく。


「当たり前でしょ! 空もニエベスも氷華も無事でいなさい。」


 ハグが終わると見つめ合って二人で笑顔になる。そうだ! 死を感じたら終わり……ポジティブでいろ! 私!


「それじゃ行ってくるね!」


「み、美羽ちゃん……うぅ……が、頑張ってね」


 すでに泣いていた氷華ちゃんが美羽ちゃんに抱きつく。同じクラスメイト……辛いだろうね。


「んもぉー泣かないの氷華! 氷華だって絶対に後で会うわよ!」


 抱きつきながら氷華ちゃんの頭を撫でる……。この二人なんだかんだ、いいコンビなんだなぁ。


「頼んだわよ…」


 氷華ちゃんを抱きながら美羽ちゃんは、にっちゃんの方を見る……。にっちゃんはコクリと頷くと。


「大丈夫……。絶対に守ってみせる。」


 にっちゃんはさっきから険しい表情している……。でもその言葉一つ一つが頼もしかった。


「それじゃあ行ってくる! また後で!」


『行ってらっしゃい!』


 美羽ちゃんの笑顔で手を振る姿に、私は笑顔で、氷華ちゃんは泣きながら、にっちゃんは真剣な表情で手を振った。


「私たちも行こうか……」


 美羽ちゃんを見送り、私たちも任された班のところへ向かう……。


「きみたちが……そうか……。最後尾とはいえ、すまないな。」


 班長さんは女の人だった。硬く強そうな盾を持っていた。


「聞いてると思うが、我々の使命は前衛、中衛から漏れたモンスターを倒すこと!我々の作戦チームは強いから、モンスターがくることは無いと思うが……万が一の時は頼む!」


『はい!』


 私たち三人はしっかりとした声で返事をする! 何がなんでも守ってやる!


「では! 出発する!」


ーーーー


 シリウス区にある大きな森……。ここでモンスターが大量に出没して……。


『ドカァアアアン!!』


 ものすごい音が森の中で聞こえた、そうだ私たちより先に戦ってる人たちがいるんだ…!


 ドクン! ドクン!


治らない緊張……。破裂しそうな心臓……。私は……私は……ここで……


「大丈夫だよ、なっちゃん……。それに氷華ちゃん」


 私と氷華の後ろを歩いていたにっちゃんは傘を捨て、ギュッと私たち二人を後ろから抱きしめる。


「地界の人たちは強い……。そうでしょ?貴女たちもそうだよ。」


 そうだ……。私はこの大人たちに憧れて戦うことを選んだ!

 

「そうだね……! ありがとう、にっちゃん!」


 本当に支えられるなぁ……。私は氷華ちゃんの手を握り……。


「氷華ちゃんも私が守るからね!」


 さっきから落ち着かない様子の氷華ちゃん……。この子だけは絶対に守る!


「この先森の中へ入る! 村で戦ってるとはいえ、どこからくるかわからない! 背後や横の警戒を忘れずに!」


 班長の言葉に私たちは頷く。


『モンスター』それは……動物がプリズマ粒子を過剰に摂取したことで自我のコントロールができなくなった動物……?大きくなったり、牙が生えたりしているなど様々……ただ。


「で、でも、な、なんでモンスターが大量に……」


 氷華ちゃんと傘を一つにして手を繋いで歩く私……。確かにモンスターは自我を無くし、人間や動物を襲ってくる……が、数は少ないし、そもそも地界のエリートたち……いやもっと弱い人でも勝てるような強さだ……。それなのに全滅って……やっぱりおかしい……!


「……っ! 右真横モンスターが!」


 他の人の声で私と氷華ちゃんは右真横を向くと、ライオンのような牙が長いモンスターが飛び出して来た!


「……く!」


 私は氷華ちゃんを後ろにすると、武器を取り出そうとした……。


『バン!!』


 真横での銃声音……初めて聞いた……すごく大きな音……。じゃなくて!


「にっちゃん!」


 私より早く反応した、にっちゃんは一瞬で引き金を引き、モンスターに一発当てていた。


「がるぅ……ぅ……」


 まだ死んでないようだけど……動けないみたいだ。


「もう大丈夫です……モンスターは動けないです。」


 私たちの班全員がにっちゃんを見つめる……。いや……強すぎだし、冷静すぎるでしょ…


「なんで、動けないの?」


 確かにさっきから死ぬ直前みたいな感じでビクビクと横たわってるけど……。全然致命傷って感じじゃない……。


「私は体内魔力で銃弾に麻痺を付与することができるのよ。そう言えばまだ、なっちゃんと氷華ちゃんには見せてなかったわね。」


 ポカーンとなる……麻痺弾なにそれ……強すぎでしょ……。なんでその強さで美羽ちゃんに負けたの…? 不思議でならない。


「……ハハハッ! 流石紅葉学園の生徒だな! これは今回の作戦に引き入れて正解だったな。」


 班長さんは、にっちゃんの強さに笑う。……そうだ!私たちは強いんだ!


「よし! それでは先に進むぞ!」


 班長さんの掛け声と共に私たちは森の奥深くへと侵入していった。

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