第3話 準備運動

それから何日か経つにつれて、学園最強決定戦、通称「学戦」の準備が少しずつ始まっていた。


「今日は、ダミーと練習してもらうよ!」


 野々原先生は今日も元気がいっぱいだ。でも今日ダミーと練習したら……。


「それって、自分の手の内を晒すよね?」


 クラスメイトの男子が手を挙げて言う。確かに学戦に向けて、手の内を隠しておきたい所だけど。


「能力はさておき、誰がどんな武器を使うかくらいは知りたいでしょう? それにまだ小さい子もいるんだから、先生もしっかり把握しとかないと、何か起きた時が大変だからよ」


「えー! それは先生の都合じゃん!」


 クラスメイトたちが先生にブーイングする。だけど仕方ないことでもあるのかな。


 戦闘学校は、基本的に十歳から入学試験に合格すれば入学できる。


 だが入学出来たとは言え、幼い子も混じっている。ここで学戦に挑めるかどうかを確認するのだろう。そう考えると先生の言葉にも確かに一理ある。それに……。


「にっちゃんの武器、やっと見れるんだぁ〜」


 なんだかんだ、にっちゃんがどんな武器を使うのかまだ知らなかったし。いい機会なのかも!


「私は、そんな強いって感じでもないよ」


 にっちゃんは笑いながら誤魔化す。あの帰り道から打ち解けてきたみたいで、すごく嬉しい。


「それじゃあ、着替えたら体育館集合ね」


 先生の話が終わると、みんな席を立ち更衣室へと向かう。


「行こう、空ちゃん」


「うん!」


 緊張するけど、逆に私の強さをみんなに見せつけるチャンスだ!


 更衣室から出ると、周りを白い壁に囲まれた部屋の中だった。


「では対戦闘訓練ホログラムとの試合を始めます! 一撃でも当てられれば機能を停止するよ。まだ優しい設定にしているからね」


 ホログラムは茶葉学園が作り上げた世界最高峰の技術で、地魔グランデ争奪戦時の魔界の人間を想定して作られている。


「それでは、順々に始めていこうか」


 先生が一人の少年の名前を呼ぶと、少年は武器を持ちホログラムの前に立った。


「それでは、はじめ!」


「はぁああ!」


 クラスメイトの男の子が槍を手に、ホログラムと対戦している。


 ……見ている感じ少し苦戦しているようだけど、この学園に入っただけあって実力はかなり、高い。


 しばらくすると私の名前が呼ばれる。


「次! 夏風さん!」


「……はい!」


 私の番が来た。一つ息を整えるとホログラムの前に一歩踏み出す。


「それでは訓練開始!」


 私は両腰に装備してた、短剣を二本取り出し構える!


「いくよ!」


 ホログラム相手に思いっきり飛び出し、まずは右の剣を振りかざす! 


 ……がホログラムがきっちり避け反撃してくる。


 私はすかさず両手の剣で防ぎ、攻撃を弾き飛ばす!


「流石に一撃は難しい……か……でも!」


 勝てない相手ではない! もう一度ホログラムの懐に入ると、同じように右の剣を振りかざす。


「そこ!」


 ホログラムの思考する前に、すかさず左の剣を右肩付近に突き刺す! するとホログラムは起動を停止した。


「おぉ!」


「すごいな、あいつが1番目か。ホログラムを止めたの」


 周りから称賛の声が聞こえる。まだ手を抜いてるけどね。


「そこまで! 夏風さんお疲れ様。次ニエベスさん!」


「はい」


 次はにっちゃんだ。私は短剣を戻し振り返ると、にっちゃんが歩いてきていた。


「頑張ってね!」


 肩を軽くポンと叩く。にっちゃんは肩に触れた私の手を優しく触ると。


「うん」


 一言、言って再びホログラムの前へと歩き出した。


「ではニエベスさん。訓練開始!」


 先生の合図と共に静寂が広がる。


「あれ……?」


 にっちゃん一歩も動かない……緊張してるのかな?


「にっちゃん頑張れー!」


 私は大きな声で応援するが、にっちゃんは立ちっぱなしだ。


『ハイジョハイジョ』


 何もしてこないことを見越したホログラムが、にっちゃんめがけて襲いかかってくる。


 ……が次の瞬間。


『ドサ……』


 一瞬だった。何が起きたかも分からなかった。でも目の前をホログラムの首が飛んでいく。


 ドサっとホログラムの頭が落ちると、ゆっくりと消滅しホログラムも消える。


「……なにが起こったの……?」


 私はすぐさまにっちゃんに目を向けるすると、そこには凛々しい目をしたにっちゃんが、ホログラム相手に銃口をかざしていた。 


 銃を取り出す瞬間さえ見えなかった。気づいたら終わってた、そんな感じだった。


「はい! そこまで!」


 静寂のままに終わり、瞬く間に歓喜に変わる。


「うぉおおすげぇ!」


「何も見えなかった!」


「ニエベスさんってすごいのね!」


 周りがにっちゃんを称賛する。にっちゃんは太もも横にあった銃入れに銃をしまい、戻ってくる。 


「にっちゃん……」


 あまりの強さに言葉が詰まる。ここまですごい人だったなんて。でも!


「私! 絶対学戦でにっちゃんに勝つから!」


 びっくりしたけど、こんなに強い人がまだまだ他のクラスにもいるかもしれない! ワクワクが止まらなかった。


「うふふ。私だって負けないよ?」


 にっちゃんは、いつも通りの優しい目で笑ってくれた。それと同時に私も全力でしないと、と覚悟する。


 こうして戦闘訓練をおこなった各クラスは、それぞれ武器や魔法の調整などの手入れに励み、第一回紅葉学園最強決定戦の朝を迎えようとしていた。

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