第2話 私の気持ち貴女の気持ち
その日の帰り道、私とニエベスさんは夕焼けを見ながら帰っていた。
「ニエベスさん! ジュースでも買って帰ろうよ!」
「うん」
私たちは近くにあったキッチンカーで飲み物を買い、近くのベンチに腰掛けた。
こうして楽しく学生生活を送るのはいつぶりかな?一人でぼんやりと空を眺めていると、ニエベスさんは飲みかけのジュースを見ながら話しかけてきた。
「……夏風さんはなんで戦闘学校なんか入ろうって思ったの?」
「空でいいよ!私は……私はね……」
胸が苦しい。この話をすると思い出してしまうから、あまり話したくない。けど、せっかく仲良くなれたんだから少しくらい……いいよね。
「昔……地魔争奪戦で、私のお父さんは羽の生えた人に殺されたんだ」
10年前に終戦した地魔争奪戦。私の父はその戦いで戦死した。私の目の前で羽の生えた人に……。
「……それって人なの? 羽なんて……モンスターの間違いじゃないの?」
「ううん。人だった。私たちと同じくらいの……でも羽が生えてる人なんて、見たことないし……」
大好きだったお父さんが亡くなる直前、私はある物を預かった。
目の前での死。夜な夜な夢に見るようになって、そのうち精神的に病んでしまい、小、中学校ともまともに行けなくなった。
ーーーーでも
「どうしても許せなくて、この手でそいつを殺したいと思った。でも手がかりもない……。ある時、この世界で有名になれば必ず世界を知れるって、お母さんに教えてもらった。だからまずは名門の新設校でトップになって、世界を目指して。一番になればきっと何か知れるんじゃないかって……」
少し呼吸を整えて続ける。
「中学で推薦をもらおうとしたんだけどさ、私学校行ってなくて。だから実力を見せつけてなんとか推薦もらって入学したって感じなんだ。私、学校行ってない間はひたすら修行してたからさ」
苦笑いしながら話す。手に持つジュースが震えていた。この話はいつしてもきつい。
何も話さないニエベスさん……。やっぱり引いちゃうよね。
「………私はね、誰かを殺されたとかそんなこともない。ただこの世界をもっと知りたいってだけ。空さんよりちっぽけな理由だよ」
ゆっくりと話し始めたニエベスさん。その顔は少し悲しそうだった。
「だけど私も強くなって、世界を知りたいって気持ちは同じなのかもしれないね」
ニエベスさんは頬をいじりながら話す。世界を知る……。すっごく難しい話だけど、この世界は強くなればなるほど色んなことが知れる! だからこそここに強くなりにきたんだ!
「えへへ! 教えてくれてありがとう! 私ね、ニエベスさんが隣の席で良かったな!」
ニエベスさんは温厚で静かな子だけど、ほんの少しだけでも気持ちを知れて嬉しかった。
「……ニエベスさん?」
何も喋らなくなったニエベスさんを横目から見ると、夕焼け以上に顔を真っ赤にしていた。
「照れてるの?」
私の声にびっくりしたのか、ニエベスさんはジュースを一口飲むと、落ち着きを取り戻すように息を吐いた。
「……なんか嬉しかったかも。隣の席が私なんかで、しかもこうやって一緒に帰ってジュースを飲んで……私こう言うことあんまりしてなかったから嬉しくって」
その言葉に私も赤面する。そうだ。まだ一日目なのにこんな仲良くなって……私もジュースを飲んで少し落ち着く。
「でも本当のことだから!」
「……ニエベスでいいよ……私のことも」
顔を隠しながら、ニエベスさんはひそひそと言ってくれた。その恥ずかしそうな顔がちょっと嬉しかった。あとかわいい。
「ありがと! でもニエベスって長いし……うーん。にっちゃんね!」
私はにっちゃんが、ジュースをベンチに置いた隙に両手を握り笑顔で話しかけた。
「これからよろしくね! にっちゃん!」
「うん……空ちゃん」
込み上げるものがあったのか、私はにっちゃんを抱きしめて笑った。新しい場所で新しい友達と新たな道を歩くんだ!
「あ……ジュース」
手前に置いてたジュースは抱きしめたはずみで、二つとも溢れていた。
「あはは……でもこう言うのも楽しいね!」
こぼれちゃったのは申し訳ないけど、それ以上に私の友情心が溢れ出ていた。
「そろそろ帰ろっか……」
「その前にお店の人に、謝らないとね」
しっかりしてるなぁ。私たちはこぼしたカップやストローを持って店員さんに謝った。たまたまこの話を目撃していた店員さんは笑顔で許してくれた、同時にSサイズだけど奢ってくれた。
「優しい店員さんで良かったね!」
私たちは小さなジュースを片手に歩き出す。
「尊いとか言ってたね」
よく分からなかったけど、結果オーライだしいっか!
「明日からは学戦のことで忙しいねぇ」
「その前にちゃんと座学も受けようね」
「ハイ……」
にっちゃんはクスッと笑う。座学は嫌いだけど、入学したからには頑張らなきゃ!
楽しく雑談しているとあっという間に、夜になってきた。
「私こっちだから」
にっちゃんが立ち止まり帰り道の方に指を刺す。そっか。もうそんなところか。
「それじゃまた明日ね、空ちゃん」
にっちゃんは小さく微笑み私に手を振る。
「うん! また明日!」
私は大きく手を振り、にっちゃんが見えなくなるまで背中を見ていた。
「また明日か……えへへ」
ニヤけが止まらなかった。こんなに楽しいんだ、学生生活って!
私はニヤニヤしながら駆け足で帰る。
「ただいま! お母さんあのね!」
靴を脱ぎ捨て家に入る。今日のこと沢山お母さんに話したかった。
「おかえり〜まずは靴を整えてね」
「はーい」
ふける夜。色んな思いを背負いながらも、夏風空の学園生活が幕を開けた。
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