第8話 ラ・バヤデール La Bayadère
バレエ『ラ・バヤデール』
La Bayadère
曲:レオン・ミンクス
振付:マリウス・プティパ
初演:ボリショイ・カーメンヌイ劇場 一八七七年
登場人物
ニキヤ(寺院の舞姫・バヤデール)
ソロル(王宮の戦士)
ガムザッティ(ラジャの娘)
ドゥグマンタ(ラジャ・王)
大僧正(寺院の権力者)
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はじめにお詫びです。
この作品は個人的に最も好きなバレエ作品の一つなので、どうしても少し気合が入ります。
最後にお勧めの動画も紹介させて頂きます。
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(物語~)
第一幕・第一場
舞台は古代のインドです。
寺院に仕える舞姫(バヤデール)ニキヤにはソロルという恋人がいます。
ソロルは王宮の戦士です。
ある日、森にある寺院で「火の祭り」が行われます。
舞姫たちは美しい踊りを奉納します。祭りを取り仕切る寺院の大僧正は舞姫の中で、ひときわ美しいニキヤに心を奪われます。
大僧正はニキヤに近づいてきますが、ニキヤはそれを拒みます。
祭りに参加していた僧侶の一人がニキヤにソロルが近くで待っていることを告げます。
祭りが終わるとニキヤはソロルのもとに向かいます。
そしてニキヤとソロルは寺院の前で愛を誓います。
このことを知った大僧正は怒り、ソロルへの復讐を企てます。
(※このあたりの演出は様々ですが、
ここでソロルが「寺院の前で愛を誓う」ということは、ヒンドゥー教の神である、ブラフマン(ブラフマー・創造神)とヴィシュヌ(保持神)に証人になってもらいニキヤに永遠の愛を誓うということになります。)
(※ヒンドゥー教の神の体系ではブラフマン(ブラフマー・創造神)、ヴィシュヌ(保持神)、シヴァ(破壊神)は三位一体ということです)
第一幕・第二場
宮殿では、王(ラジャ)が娘のガムザッティにソロルと結婚するように言います。
また、王はソロルにもガムザッティと結婚するよう命令します。
ニキヤと永遠の愛を誓っているソロルは動揺します。
ここでソロルは王から、幼いころから王女・ガムザッティの花婿になることは決められており、王宮の戦士として育てられたことを告げられます。
そして目の前に現れたガムザッティのあまりの美しさに心を打たれます。
ガムザッティはソロルが困惑している様子を見て一瞬でソロルが自分を愛していないことに気づきます。しかし、自分が王女であること、王(ラジャ)である父親の命令は絶対であることから、ソロルと結婚するという決意を貫かねばならない……という強い意志を固めます。
ソロルはラジャに対し、光栄な言葉であるがラジャの期待に沿うことはできないと言います。しかし、ラジャはそんな、ソロルの言葉は聞き入れません。
三日後に結婚式を挙げると告げられます。
その後、大僧正がやってきます。ニキヤに好意を持っている大僧正は、彼女と愛を誓っているソロルを憎々しく思っています。
ソロルが去った後、ラジャに「ソロルはバヤデールのニキヤを愛している」ということを告げます。
ラジャは怒りますが、その怒りの矛先はガムザッティの花婿になるソロルではなくニキヤに向きます。
ラジャはニキヤを殺害するよう企てます。
自分の言葉が思わぬ方向に向かった大僧正はあわてます。「寺院の舞姫(バヤデール)であるニキヤを殺すことは神(ヴィシュヌ)の怒りにふれ、天罰が下るであろう!」と進言しますがラジャは聞き入れようとしません。
その会話のすべてをガムザッティは物陰で聞いていました。
ガムザッティはソロルのことについてニキヤと話し合おうとします。侍女にニキヤを自分の部屋に呼んでくるように命じます。
ニキヤはこれまでの話を知りません。
ガムザッティに呼ばれたニキヤは初めて間近で王女を見ます。
うわさ通りの美しい王女にニキヤは敬意を払い深々とお辞儀をします。
ガムザッティは近々せまった結婚のことを語り、それにさきがけて婚約を披露する祝事がとり行われることを話します。
そして、その祝事でニキヤに踊ってほしいといいます。
ニキヤは名誉なことだと喜びます。
ガムザッティは自分の結婚相手をニキヤ知らせるため、部屋に飾ってある大きな肖像画を指さします。
ガムザッティの結婚相手がソロルであることを知ったニキヤはおどろきのあまり気が狂いそうになります。
ガムザッティはニキヤにソロルをあきらめるよう宝石や金を差し出しますが、ニキヤは説得に応じません。宝石や金をガムザッティの足元に投げつけ、なおも説得しようとするガムザッティに近くにあった短剣を振りかざそうとしますが、侍女に止められ部屋を去っていきます。
ガムザッティはニキヤを殺すことを心に決めます。
第一幕・第三場
婚約を披露する祝事
美しい花や木々が茂る庭園。大きなパゴダの塔がそびえ、青い空に届かんばかりの天頂に白い雪をかぶったヒマラヤの山々が見えています。
ガムザッティとソロルの婚約を披露する華やかな式典が催されています。
ラジャをはじめ王宮の侍女や従者たち、大僧正はじめ寺院の僧侶、舞姫(バヤデール)やさまざまな人が呼ばれています。
そして、その中にはニキヤもいます。
祝事の式典が始まります。
壺の踊り、太鼓の踊り、兵士たちの踊りなど様々な踊りが披露されます。
ソロルとガムザッティの踊りも披露されます。
(※ここで踊るソロルのヴァリエーションとガムザッティのヴァリエーションはコンクールやいろいろな発表会でよくおどられますね。)
華やかな式典の中に顔をヴェールで隠したバヤデールがいます。それはニキヤです。
王(ラジャ)はニキヤにも式典に参加するよう命じていました。
ソロルはニキヤに気付き愛おしい気持ちと申し訳ないと思う気持ちでいっぱいになります。
大僧正はソロルを憎々しい思いで見ています。
ガムザッティの心にはニキヤへの怒りがこみ上げてきます。
バヤデールのニキヤが踊るときがきます。美しく踊るニキヤ。
ガムザッティは侍女にニキヤに花かごを渡すよう命じます。
花かごを受け取り踊り続けるニキヤ。
突然、花かごから毒蛇が出てきてニキヤにかみつきます。
ニキヤはその場に倒れ、その場に居合わせた一同は騒然となります。
ニキヤを抱きかかえるソロル。ニキヤはソロルに、
「誓いを忘れないでください……」と言います。
大僧正もニキヤのそばに駆け寄り解毒剤を渡そうとしますが、
ニキヤは大僧正の手を払いのけ、
「きっと神様が裁きを下します」と言います。
そしてニキヤはソロルの腕の中で息絶えます。
王と王女ガムザッティはこれでよいのだと去っていき、式典は終わります。
第二幕・第一場
ソロルの部屋
ソロルは後悔の念で部屋の中をさまよいます。
(※この場面の曲は個人的に全幕通して一番好きです。発表会やガラ公演などでソロルとニキヤのパ・ド・ドゥを演じる際、この曲から入ることが多いと思います)
ソロルは疲れ果てて椅子に横たわります。
そして、それを見ていた従者が悲しみを紛らわすために阿片を吸うことを勧めます。
ソロルは言われるままに阿片を吸い、幻覚の世界に入っていきます。
第二幕・第二場
影の場(影の王国の場)
幻覚の世界
この場面はこのバレエ全幕を通して一番有名な場面と言えると思います。
バレエ・ブラン(白のバレエ)白一色の衣装で群舞が踊られます。
白い衣装一色の群舞は「白鳥の湖」「ジゼル」にもありますが、「白鳥」は湖、「ジゼル」は亡霊たちが集まる墓場での群舞に対し、「バヤデール」の群舞は幻影の世界。
バレリーナの白の衣装、白のヴェール。透き通るような青とも白ともつかない美しい照明。舞台の空気に、床に、白いバレリーナたちの幻影が映っていると思われるほどの透明感。そして美しい曲。
「美しい」の一言に尽きるコール・ド・バレエ(群舞)です。
ソロルは後悔の気持ちの中で、再びニキヤと出会います。
ニキヤとソロルが美しいパ・ド・ドゥを踊ります。
ソロルはニキヤに問います。私はどうすれば許してもらえるのかと……
ニキヤはいいます。
誓いを守ってくれれば、きっと黄泉の国で魂は安らぎを得るでしょう。
第二幕・第三場
ソロルの部屋
ソロルは幻覚の世界から目覚めます。
そこへ王の召使たちがやってきて王女との結婚の儀式の準備を始めます。
第三幕
神の怒り
王宮の大広間(結婚式)
王宮の大広間は厳かな雰囲気に包まれています。荘厳な広間は寺院の様相もあり中央にはブロンズの像も飾られています。
ここでブロンズの像の踊りが踊られます。
(※熊川哲也さんがロイヤルバレエで踊ったのがすごかったですね。
パリ・オペラ座などブロンズの踊りが第一幕・第三場の婚約の披露宴の場で踊られるものもありますね。
私的にはここで踊られる方が好きです。何か特別感があります。
第一幕・第三場で踊るとなんか他の踊りとまとめられているような感じ。)
大勢の客人が結婚の儀式に招かれています。
大僧正、僧侶、バヤデール、王宮の従者たち……
王女・ガムザッティは王と一緒にたくさんの従者を従えて現れます。
ソロルも現れます。
王・ラジャは祝宴を始めます。
大僧正が婚礼を挙行しようとしたとき、空に暗雲が立ちこめ、雷鳴がとどろきます。大地が揺れ動き、稲妻が走ったかと思うと寺院の建物が崩れ始めます。
慌て逃げ惑う参列者たちを覆いつくすように建物の瓦礫が崩れ落ちてきます。
それはブラフマン、ヴィシュヌへの誓いを破ったソロルや神への信仰を失った王宮の人々への天罰が下り、破壊神シヴァが世界を浄化するように……すべてが崩れ去っていきます。
すべてが崩れた王宮。
ニキヤとソロルの魂は天で結ばれます。
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「ラ・バヤデール」というバレエ
このバレエはいろいろな演出があるようです。「ブロンズの踊り」が第一幕・第三場で踊られ、「影の場」で終わる作品が多いようですが、私は個人的に第三幕で「ブロンズの踊り」。最後に寺院が崩れるという演出が好きです。
それと、ここまでずっと「バヤデール」、「ラ・バヤデール」と紹介してきましたが、私個人的には普段この作品のことを知り合いの方たちと話すときは「バヤデルカ」ということが多いです。私の周りの方も「バヤデール」より「バヤデルカ」という方が多いように思います。まして「ラ・バヤデール」と「ラ」までつけて言うことは、あまりないかな……
「ラ・バヤデール」……フランス語
「バヤデルカ」……ロシア語
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バレエ・ブランの極み
影の場~ バレエ・ブラン(白のバレエ)の極み。
私の思う、あらゆるバレエ作品の中で最も美しいコール・ド・バレエです。
美しすぎます。
三二人のバレリーナがそろったところで拍手がくるところがすごい。
ふつうコールドはそろってあたりまえ……みたいな見方をされるところ。
ソリスト踊りでも、プリマ、プリンシパルの踊りでもなく、コールドの踊り終わりでもない。
コールドの踊りの途中で、
並んだだけで自然に観客から拍手がくるほど感動させるのは「ラ・バヤデール」ぐらい。
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ブロンズの踊り
「ブロンズの踊り」で現存している映像の中でこれが最強だと思います。
映像だけでなく「ブロンズの踊り」ではバレエ史上最高ではないかと思います。
それは英国ロイヤルバレエ時代の熊川哲也さんです。
もし興味があったらYouTubeで (⇒以下を検索して)でご覧いただけます。
◇ブロンズの踊り ⇒
1991 Tetsuya Kumakawa Bronze Idol
◇ソロルの踊り ⇒
tetsuya kumakawa bayadere solor variation
◇バレエブランの極み バレエ作品の中で最も美しい群舞と言われる「影の場」をどうぞ (コールド(群舞)はそろってあたりまえなのに全員が整列したところで並んだだけで拍手がくる神的美しさです) ⇒
ラ・バヤデール~「影の王国」 壱 バヤデールの精霊たちの踊り
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