伝説の剣

第34話 「エメラルド・ソード」

 谷々を渡り、荒れる荒野を超え、俺たちは彼の剣が封じられている門の前に立った。


 門を開き、光芒差す祭壇を見上げる。今より遥か昔の魔王との戦いで、魔王を打ち倒した、伝説の勇者が神々から授かった、伝説の剣だ。


「あれが……エメラルドソード……」

「きれい……」


 エメラルドの原石を掘って作られたであろう伝説の剣が、そこに在った。


 祭壇を登り、剣の柄に触れる。ひんやりとした冷たい感触が手に伝わってくる。


「神々と地上の大賢者たちが作り出した……魔王を倒した伝説の剣……」


 埃が舞う。力を失えども、埃と光芒に照らされるそれは、しっかりと自身の偉業を讃えるかのように、俺たちに威厳を感じさせた。


「朽ちてるみたいだね……。ボロボロだよ……」


 モエカの言う通り、作りこそ厳かで威厳を感じるものではあったけど、俺の目に映るものは過去の遺物という印象を受けた。


「魔力を感じない……。バアルの言ってた通りだよ。この剣は力を失っている。この剣を手にしたところで、ただの大きな石の剣を手に入れただけだよ。これではネメアの獅子は倒せないかもね。剣の力を取り戻さない限りは……」


 コルネーが言う。確かにこの剣からは何の力も感じない。これでは俺の持つ鉄の剣の方が軽くて扱いやすい分、そっちの方がマシかもしれない。


 一歩前に踏み出し、柄を掴む手に力を入れ、めいっぱい引っ張る。


「わぁ……」


 引き抜かれた剣を見てモエカが感嘆の声をあげる。


 思いのほか剣は簡単に引き抜けた。光芒に照らされた剣が光を反射して翡翠色に鈍く輝く。


「どうする?アズマ。力を失っているんじゃアレには勝てないよ」

「ここまで来て無駄足っていうのは……ちょっといただけないよね……」


 苦虫を噛み潰したよう顔でモエカが言う。確かにこのままでは骨折り損のくたびれ儲けも良い所だ。サクラも険しい顔をして俺を見ている。


 何か方法があるはずだ。もし知っている人物がいるとすれば……。


「魔王……。マルクルなら何か知っているかもしれないな」


 そう呟いた俺にサキュバスが語りかける。


「なるほどね~~……?神々に敵対してた魔王の娘が知っているとは思えないけど……。まぁ、知っているとすればマルクル様かバアル様くらいなものかしら……?」


 小首をかしげてコルネーが呟く。俺としても、マルクルが知っているとは思えないのだが、頼れるとしたらマルクルくらいしか考えられない。知っていなくとも、何かしら調べてくれているかもしれない。甘えかもしれないが、俺はマルクルに頼ってみる事にした。


「バアルさんが知っているならバアルさんを頼った方が良いんじゃないかな?」

「バアル様が協力してくれるとは限らないだろ?バアル様はネメアの獅子が傷つくことを嫌がっている。鍵は渡してくれても、剣の力を復活させる方法を教えてくれるとは、考えにくいかな」

「そ、そっかぁ……」


 しょげるモエカを脇に俺は祭壇を後にした。聖剣の力は失われている。これから俺たちは、この剣の力を取り戻すための旅に出ることになるのだ。果たして俺たちはネメアの獅子を倒すことができるだろうか?まだまだ獅子を倒すための道は遠い。

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落ちこぼれ異世界転生勇者の魔王討伐の旅 ぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺし @Compecci

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