第23話 「歪んだ森」
魔王の城を発って半月が過ぎようとしていた。スライムの身体は以前ほどではないが、ある程度の大きさにまで戻る事が出来た。スライムのビッグな身体の執念には些か恐怖を感じる。
それと、サクラの諜報活動により、一つ目の鍵の場所が分かった。魔界のとある深い森の中に佇む洋館の中に、それはあるそうだ。
それは、エスカレータ家が代々治める血染めの屋敷であり、永遠に幼き吸血鬼の住まう場所…。
「ダラク・カルメシ・エスカレータ……」
「ダラク・エスカレータ。魔界の南にある歪んだの森の主……。その森は、訪れた者の生気を喰らい、自らの幹の中に取り込むめるという言い伝えから、誰もその森に足を踏み入れないと言われているらしい。ヒトはもちろん、ゴブリンやコボルトでさえも一度足を踏み入れたらタダでは済まない。マルクルでは支配の及ばない地域を多数支配している、魔界では名の知れた豪族らしいよ」
そうサクラは語る。
俺たちはこれからそんな森に住まうエスカレータの令嬢に会いに行くのだ。魔王に会いに行くのとは違うベクトルの緊張を感じている。
そうしてしばらく歩いているうちに、俺たちはサクラの言う歪んだ森に着いた。枯れ木にどす黒く変色したかのような血にも似た色合いの葉がさざめいていて気味が悪い。
「すごく気味が悪いよ……」
今にも泣きだしそうな調子でモエカが呟く。
「この森のどこかにあるんだよな……。どうやって探す?」
「エスカレータ家はたくさんの配下を抱えているからね。エスカレータに貢物するための道ができてるはずよ。ほら、この道とか……」
コルネーが指さした先には、踏まれて禿げあがった木の根や獣道らしきものが確かにできている。この道を辿って行けばいいのだろうか。
「よーし、行くか!」
「ちょっと待って!やっぱりこの森ちょっと変だよ…!」
「変…?」
モエカはこの森が変だという。異界の森で変なのは当たり前だとは思うけど、モエカはこの森から並々ならぬ雰囲気を感じるという。
「んー。モエカちゃんもやっぱり奇妙に感じる?」
「うん……。森が生きてるっていうか、異様な雰囲気がするっていうか……」
「だよね。この森って来る度に形が変わるらしいよ」
「えぇ!?」
「じゃあ、この獣道も辿って行ったら途中で道がなくなるかもしれないってことなのか!?」
「かもね~」
コルネーがへらへらと笑いながら答える。コイツさり気なく恐ろしい提案をしていたのか。
「……あたしに任せるにゃ。あたしが探し出してやるにゃ」
「探すってどうやって探すんだよ?」
「まぁ、見てるにゃ」
スライムは森の前に身を構えると、森の中へと体を伸ばし始めた。さながら草木の根っこのような感じだ。
「あたしはいわゆる意思を持った粘菌みたいなものだにゃ。体を伸ばしたら伸ばした分だけ周りの状況が分かるにゃ」
「はぇ~……」
やっぱりスライムは不思議な生き物だ。ザコ敵のイメージが強いスライムだけど、こうして体を網目のように広げて外敵や地形を探ったり情報を集めたりすることもできるのだ。こうして見ると、器用な生き物であるとも思わされる。
「う~ん、確かに森が動いてるにゃ……。死体も至る所にあるにゃあ……」
小さくなった体に顔だけが浮かんでいる。そこから伸びるうねうねとうごめくスライムの体。まるで本当に粘菌のようだ。
そうして、俺たちはスライムの報告を待つのだった。
☆
どれだけ時間が経ったのだろうか。スライムが館を探している間すっかり暇になった俺たちも、すっかりと言葉をなくして各々好き勝手に暇を潰している。スライムもアメーバのような何かとしか言えない体をビクビクと動かしているだけだ。
「──────ッ!!!」
突如スライムが激しく動き始めた。言葉にならない変な音がスライムから発せられている。
スライムが俺の足に身体を伸ばして纏わりついてくる。どうやら何かを見つけたようで、ひどく興奮しているのが分かる。
体の一部を切り離したスライムは俺の首筋まで登ってくると、とても小さい声で俺に囁いた。
(見つけたにゃ!見つけたにゃ!森の中にデッカイ屋敷があったにゃ!!!)
「本当か!!?」
突如大声をあげた俺に周りのみんながビクッと身を跳ねさせた。
「バッカ、いきなり大声出さないでよ!」
サクラが怒る。
「ス、スマン。でも聞いてくれ!スライムがエスカレータ家の屋敷を見つけたってよ!」
「本当っ!?それじゃあ、さっそく出発しよう!」
そう言って、コルネーは伸び切ったスライムの体を辿って飛んでいった。
「大丈夫かなぁ……。わたし怖いよ……」
「大丈夫だって。ヒールで癒しながら進めば平気なはずだよ」
「簡単に言うなぁ、サクラさん……」
モエカがサクラにぶつぶつと文句言っている。俺はそんな二人を尻目に歪んだ
森の中へと入っていった。
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