第21話 「決断」
「何をそんなに悩んでるんだ?」
サクラが俺に訊ねてきた。サクラは既に答えが出ているようだった。けど、俺にはどうしてもはっきりとした答えが出せずにいた。
「わたしはイヤだなぁ……。小さいスライムとか妖精さんとかだったらいいけど、コボルトとかオークが町中にいたら怖いもん……。人間は人間、モンスターはモンスターで暮らす方が絶対に良いよ……」
「よくもあたしの前でそんな事が言えたにゃ」
「あ、いや、そんなつもりは……」
すっかり体が小さくなったスライムが言う。モエカも悪気があって言った訳ではないようだ。確かに個々の力では人間は魔族やモンスターには遠く及ばない。だからこそ人間は集団で生活し、脅威に立ち向かっていくのだ。
だが、そのコミュニティの中に異物、即ち人間以外のイレギュラーが混ざってしまっては、人間はそれを排除しようと行動するだろう。しかし、それは極自然な反応なのだ。モエカの反応は正しいと言えるだろう。
だが、それも乗り越えて他と迎合していく力が人間にはあっても良いのではないだろうか?人間にはそれができるはずだ。俺はそう信じたいと思う。
「どうすっかなぁ……」
干し草の山に寝そべって空を眺める。魔界の空は実に禍々しい。青い空を見れば気分も貼れただろうが、ここにいてはそれも叶わないのだろう。俺たちは改めて魔界にいるんだと感じた。
「魔族と人間が共存する社会……」
俺は上の空のように呟いた。
魔族と人間の共存する社会。魔王を討伐するための旅。ネメアの獅子を討伐。そして、その魔王から出された和解の提案……。様々な思考が俺を惑わす。
「よし……」
俺は意を決して立ち上がった。
「どうやら腹の中は決まったようだね」
「ああ。俺は……魔王の提案を飲むことにする」
☆
「おお、勇者よ。私の前に来たという事は、答えは決まったという事でよろしいか?」
「ああ。魔王マルクル……。……俺はお前の提案を飲むことにする」
「……うむ。その答えを待っていたぞ」
マルクルは満足そうに大きく頷くと、玉座にドカッと座り込んだ。
「これで私は大きく前進することができる……。勇者というネームバリューを得たことはとても大きい……。……小夜、私はやることがある。勇者たちにこれまで得たネメアの人食い獅子に関する情報とデータをすべてくれてやれ」
「かしこまりました」
「うむ。それと、獅子に関する監督権はすべてお前に譲渡する。私からも可能な限り最大限の支援はするが、お前の家……エスカレータ家からは何も手出しはするな。いいな?」
「はい」
「よろしい……。行って良いぞ」
こうして俺たちはマルクルの支援を受けれるようになった。しかし、マルクルの言っていたことが気になる。小夜の家?エスカレータ家?一体何のことだ?
「なあ、小夜?マルクルの言っていた事ってどういう事だ?」
「気にする必要はありません。さあ、会議室へと向かいなさい。私は資料の準備をしますので」
小夜は至って事務的にそう言うと、さっさと行ってしまった。冷たい女だ。
俺たちは言われるがままに会議室へ向かい、そこでしばらく小夜を待つことにした。
しばらく待っていると、紙やら魔導石の入った袋を抱えたメイドと、小夜が部屋に入ってきた。随分と量があるが、これらすべてがネメアの獅子に関する資料とでも言うのだろうか。
「では、失礼します」
メイドが部屋を去る。小夜は俺たちを一瞥すると、面倒だというように口を開いた。
「本来ならばマルクル様お一人で成される事業でしたが、あなた方が成されると聞いてがっかりしました。しかし、これも命令です。私が貴方たちの上官になった以上、私が貴方たちをサポートします。足を引っ張らないようになさい」
「わ、分かったよ……。そう突っかからなくてもいいだろ……」
随分と高圧的な女人だ。魔王直属のメイドという事で思いあがっているのだろうか?
「まずはこれを御覧なさい」
そう言って小夜は一枚の資料を見せてきた。
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