第21話 ビックベアの脅威

「あれは…」


 俺がアキに魔法を指導していた最中の出来事、俺とアキの目の前に約2メートル超えの体長の熊が立っていた。


「熊だな」


「熊ってなんですか!?初めて聞く魔獣の名前ですけど!」


 この無人島になる実、魔獣全てが外部の人にとっては初めて見る物であった。


「よし、今だけは馬鹿力使ってもいいぞ」


「嫌です!私、力の加減がてぎないんですよ!」


 確かに力加減がうまくできず無人島が崩壊するのも怖い、言い過ぎでない事を祈りたい。


「ちょっと拳で熊パンチしてみて」


「嫌ですよ!あんな黒い奴に触れたくありません」


 まったく、こいつは嫌としか言わないな。それでも、クーカーの弟子が?クーカーなら喜んで突進するぞ。


「私と師匠を一緒にしないでください!」


「うるさい!つべこべ言わず行って来い!」


 俺はアキを抱えて熊の方に投げ飛ばした。


「ぎぇー!?」


「拳を突き出せ!」


 言われるがままアキは拳を突き出し見事に腹を貫いた。そんなアキは熊の血で身体を汚していた。


「シヨウさん、魔法の指導をしてるんだよね?魔法を使って倒さなきゃダメじゃない?」


「なあ、知ってるか?あの熊の血は特別で血の臭いがなかなか取れないんだぜ」


 いつの間にかいたクーカーに正論を言われるが知ったこっちゃない。


「地震の件、まだ怒ってるんだ…」


 まるで器の小さい男と言いたそうな顔をしているが、あの整地に何日かかったと思ってる。魔法を使わず土を掘り返して整地にしたんだぞ!


「アキが素手で整地した方が早いと思うけど」


 確かにアキは魔法の才能よりか馬鹿力の方が目立つし、土を掘り起こすのも難なくこなしそうだ。


 見た目はそこまで筋肉質じゃないのにどうしてここまで力があるんだろうか?


「それより、この熊ってやつ食べれるの?」


「んー血生臭いし獣臭いぞ?」


 クーカーって意外と食い意地を張っているんだな。


「そこは私に任せてください!」


 そう言えばアキは料理が得意だったっけ?


「まずはしっかり血抜きをしましょう!血抜きが甘いと生臭さが取れません、よく揉み洗いしてください」


「うん、その前に捌こうか」


 俺は氷の刃で手を使わず熊を捌く、そうして捌いた熊の肉の血をアキが洗い落とす。


「次は、氷でシメちゃいましょう。お館様、お願いします」


「了解」


 氷の魔法を使い熊の肉を凍らせる。


「さぁ!調理場に行きましょう!」


 場所が変わってモリヤマ伯爵邸の調理場、俺、オイナー、クーカー、タイン、シグ、アキ、ナインが集まった。


「随分と分厚い肉だな…ステーキか?」


 オイナーが言うようなステーキは熊の肉には合わないと思う、違う食材と煮込んだりした方が熊肉は食べやすい。


「よし、カレーを作りましょう!」


「カレーって何でしょうか?」


「なんだカレーを知ってんのか!」


 アキはカレーを知っている容姿だが、それ以外のみんなは初めて聞く名前に首を傾げていた。


「まずはルーから作ります」


 そうだ、この世界にはスーパーなんてものがないからカレールーを一から作らなきゃいけないんだ。


「これは長くなるぞ…」


 カレーを一から作るとはなかなか根性があるじゃねぇか。


「これで不味かったら、一人で整地な」


「…ま、任せてください!」


「おいおいあんまり脅してやるなよ…」


「なんだ、お前も整地を手伝うか?」


「まったく…いい加減機嫌なおしなよ…」


 脅迫するシヨウ、萎縮するアキ、そんなアキを庇うオイナー、呆れるクーカーの様子を見て楽しそうに笑うシグ。


「いつ見ても飽きない光景だな!」


 シグの隣に立っているタインも心なしか笑顔だ。

 

 さて、そろそろ調理を始めよう。俺は先に熊肉を茹でた。熊肉が白くなるまで1時間くらいかかったが、その間にアキがルーを作り終え野菜を切っていた。


 じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、茹でた熊肉を入れて弱火で炒める。じゃがいもに焦げが付いたら水、ルーを入れて1時間煮込むだけ。


「意外と時間がかかりますね」


「時間がかかるからこそ上手いんだよ」


 ナインの仕事ぶりを見るに時間がかかることは避けたいタイプの人間なのだろう。


「仕事が早いのはいいけど、急ぐ必要はないんだぞ?」


「承知しました」


 まあ言っても効果がかなそうな気がするけど、きっちりしたタイプは苦手なんだよな…


「もう!ナイン、ご主人様に無愛想な態度を取らないの!」


「そんなことは…」


 ナインの態度にキレたクーカーぎ自室にナインを連れて行き説教を始めた。


 しばらくして物凄く落ち込んだ表情をしたナインが調理場に戻ってきた。


「コッテリ絞られたな、カレーできてるぞ。元気出せや」


「ご主人様、すいません。ありがとうございます」


 俺は熊肉カレーを米にかけてナインに渡す。


「お米…こんな高価な物いただけません!」


「…アキは遠慮なく食べてるから、ナインも遠慮すんな」


 アキくらい素直な方が接しやすい、俺を嫌うならとことん嫌って欲しいな。何で俺を嫌ってんだろう、後でクーカーに聞いてみよ。


「いい匂いね」


「おう、クーカーお疲れ様。あんまり叱ってやるなよ」


「…ショウさんに言われたくないかな」


 遅れながらもクーカーとナインも席につきカレーを食べる。


「美味しい!」


 クーカーが大声で叫ぶ、アキとまったく同じ反応をする。


 血生臭さはいくら洗っても臭いは落ち切らない、だからカレーのスパイスで気にならなくさせたのだ。


「はい、これだけで商売できそうですね」


「ちょっとナイン!またガメツイこと考えて、今はそんなこと考えない!分かった?」


 どうやら奴隷だったのに金を稼ぐのが大好きなようだ、でも俺を嫌ってんなら無人島で店を任せるのもいいな。


「どうした、ベータ姉さん」


「スパイスが…鼻を」


「あーなんかアレルギーあったのかな?」


 ベータの目から涙、鼻から鼻水が出て止まらないらしい。


「でも、美味しいです…」


 ふとベータと似ているタインを見ると同じような状況になっていた。クーカーとアキ、タインとベータは少し似ているな。

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