第9話 槍の師匠の結婚

 ボーロ様とタルク様の子供、スカイラ様が産まれて3ヶ月が経った。次は三男のバイオン様の結婚式だ、こっちはバイオン様が王国騎士団長ということでボーロ様の結婚式より豪華だ。


 さっき知ったことだがバイオン様は騎士爵になっていたらしい。この人はなろう系の主人公なのか?


 しかも、バイオン様の嫁様は3人もいる。正妻としてアマゾン侯爵様の次女、アルフ様(18歳)に加えて側室としてゼオジー辺境伯の長女ジオルー様(16歳)、ここまでが政略結婚だろう。


 バイオン様が本当に愛しているのは2番目の側室、冒険者のデアンヌさん(18歳)だろうな。俺は絶対政略結婚はしないぞ。


 それにしても、魔法を持たず己の武力で侯爵様や辺境伯様の娘様を嫁に迎えるとはかなり優秀な証拠。そう遠くないうちに父の男爵を通り越してしまうかもな。この国はどれだけ国に対して貢献しているかで爵位が上がるからな。


 俺は平凡に暮らせればそれでいい、魔法使いということは隠しておこう。


「実は私の弟子が魔法使いなんですよ、名前はシヨウです」


 余計なことを…なんと、バイオン様がアマゾン侯爵様とゼオジー辺境伯様に俺が魔法使いであることをちくったのである。


「なんと、それは結構なことじゃ」


 アマゾン侯爵様の厳つい顔が崩れて嫌な笑い方をする。かなり怪しく感じるが、バイオン様が言うには見た目が恐いだけで性格は優しいらしい。


「弟子さんはどのような魔法が使えるのですか?」


 ゼオジー辺境伯様が期待するような眼差しで俺を見てくる。ここが見せ場だ、ここでレベルの低い魔法を使えば面倒なことにはならないはずだ。


「火の魔法を指先で出すくらいですね」


 アマゾン侯爵様とゼオジー辺境伯様の反応が薄い。成功だ。だが、またしてもバイオン様が俺の足を引っ張る。


「シヨウ君、出し惜しみは良くないよ」


 バイオン様が剣を俺に渡す。


「前は槍だけど、剣も同じこと。魔法付与をしてみてよ」


 槍では分かりづらかったが、魔法付与にもレベルが存在して剣先に火をつける程度が初級、剣全体に火を纏わせるのが中級、中級でもかなりすごい方だ。


 上級になると剣の強度と威力を上げ、加えて火や氷などの属性魔法を剣全体に纏わせることができる。


 実はその上級魔法付与を使っていたことをバイオン様が見抜いていたらしい。


 ちなみに俺が上級魔法付与を使えるようになったのはいつか分からない。シルムン様とボーロ様に特訓してもらっているうちに自然に身についたのだ。


 俺は諦めて剣に魔法を付与した。剣は火を纏い、加え強度と威力が上がった。


 するとアマゾン侯爵様とゼオジー辺境伯様は俺の手を引きバイオン屋敷に連れていかれた。ちなみに結婚式場は辺境伯から上の人しか使えないらしい。


 そんで、なんで俺が屋敷に連れていかれたかと言うと。簡潔に言えば魔法の技術がすごかったからだ。魔法の技術がすごいと貴族内で取り合いになる。至って普通の理由だな。


「ということでワシの家臣にならないか?」


 早速アマゾン侯爵様が俺を家臣にしようと企む、横にいるゼオジー辺境伯様も俺を家臣にしたそうな顔をしているが爵位が上のアマゾン侯爵様に逆らえないみたいだ。当たり前だな。


 だが、俺はアマゾン侯爵様の勧誘を断る。ブランク男爵様みたいに奴隷みたいに働かされたくないし。聞く話によると上級の魔法使いはドラゴンや魔獣退治をさせられるらしい。そんなのお断りである。


「すいません、来年魔法学校に通う予定でして…」


「そうじゃな、学校も大事じゃ。2年後に返事を聞かせてもらうとするか」


 恨むぞバイオン。2年後俺の人生は大きく変わるかもしれない。来年の学生生活を目一杯楽しまなきゃいけないな。


 ようやく俺はむさ苦しい貴族2人から解放され華やかな新郎新婦の元に戻る。こんなに面倒なことになるんだったら魔法の練習しなければよかった。


 嘆いても仕方ない。戻ると結婚式パーティーとなり俺はその場に置かれた豪華な食事に集中するのであった。


「義兄様、お行儀が悪いですよ」


 アルエ様に注意されるが、食わずにいられない。

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