第6話 魔法はめずらしいもの

 俺はこのブランク男爵領地で畑仕事を手伝っている。この領地での仕事は狩猟、畑仕事の2種類で大人は狩猟、子供は畑仕事で分けられている。


 現在、俺は領内の子供たち10人程度と小麦を収穫していた。その中にもブランク男爵の娘、アルエ様がいた。


「アルエ様も畑仕事なさるんですか?」


「はい、いくら私が男爵様の娘だからと言っても男爵様以上か同等の方と結婚できないと私は平民になるかもしれないので」


 要するに、貴族様と結婚しないまま成人するとブランク男爵に捨てられるということらしい。これは貧乏貴族特有なのかもしれない。なんかかわいそうな気もするが貴族社会だから仕方ないのかもな。


「父上が婚約者を探しているのですがなかなか見つからないので、私は平民になるしかないですね。でも、畑仕事は嫌いじゃないので」


 逞しい少女だ。もしアルエ様が結婚できそうじゃなかったら俺がもらっちゃおうかな?アルエ様が嫌じゃなかったら駆け落ちもいいかも。


「そうですか。なら良かったです。貴族社会も疲れますしね」


 俺たちは小麦を収穫後ブランク男爵に小麦を渡して帰る。ここで収穫された小麦は外部で販売されるがあまり売れていない様子。


 俺は新たな領民として小屋を改築した家を無料で与えられた。とてもありがたい。


 家の中には世話係としてあの時のおばあさんがいた。名前はサン、68歳。これからは彼女が俺の母親の代わりだ。ただ、10歳の息子が彼女を母親と言うのはおかしいが、実際は38歳だ別におかしくない…と思う。


 今日の夕飯はパン。毎日パン。そもそもパンしか小麦が使えないらしい。朝晩パン。ストレス溜まりまくり。狩猟で取った肉はどこに行った!てか、この領地の男性のほとんどが狩に行ったのにこのザマ。良くて猪1匹、笑えるよな。この猪を誰が狩ってもは領主様に持っていかれるんだけどね。褒美くらい欲しいよな。


「ごめんねぇ…狩猟はあまりうまくいってなくて一日に取れないか取れるかのどっちかなの」


取れたとしてもお館様の家に渡さなきゃ行けないらしい。肉は領主が先らしい。確かに領主優先だよな、何もおかしくない。


「じゃあいっぱい取れたら肉が食べられるようになりますか?」


「そうだねぇ…あっ、ダメだよ!シヨウはまだ10歳なんだべ?魔法が使えれば別なんじゃが」


「え?魔法使えますけど」


 俺がそう言うとサンのおばあさんは笑い出した。


「嘘つくのは良くないよー」


 なんか腹立つな。俺は人差し指を突き出し小さな火の玉を作り出した。サンのおばあさんは腰を抜かし椅子から落っこちた。


 魔法というのは1万人に1人しか使えない代物らしい。魔法が使えると王国でなに不自由なく暮らせるとのこと。


 ただ、使える魔法によるらしい。攻撃系魔法が使えるなら王国で重宝され、回復系も同じ。だが、魔力量が少なく強化魔法しか使えない者はあまり稼げないらしい。


「シヨウは火の魔法が使えるから王国で稼げるかもね」


 火の魔法言っても威力がほとんど使えないから意味ないと思うが。それでも稼げるのか。


「これはお館様に言わなきゃなー」


 サンのおばあさんは颯爽とブランク男爵の元に行くのだった。なんか面倒なことになりそうだが稼げるならそれでいい。


 後日、俺はブランク男爵に呼び出された。


「シヨウよ、お前をこの領地の騎士にならないか?」


 10歳の子供に何を言っている。どうやらこの世界では魔法が使えるだけで面倒なことになるようだ。


「ようやくこの領地に魔法使いが誕生したぞ!」


 俺はこの場の空気に呑み込まれこの領地唯一の魔法使い兼騎士になった。


「よし、そうと決まれば特訓だ!シルムンを呼べ!」


 シルムン様は次期ブランク男爵を受け継ぐ長男で剣の達人らしい(この領地内で)。次男のボーロ様は…名前が幼い子が大好きなおやつの名前だが、弓な達人らしい(もちろん領地内で)。最後の三男のバイオン様は剣、弓、槍が得意で数日前までは冒険者をしていて最近王国随一の騎士団長になったらしい。なんか、三男だけ優秀じゃね?


 できれば三男のバイオン様に特訓に付き合ってほしいが今は王国にいる。果たして長男と次男の特訓は役に立つのだろうか。


 言われるがまま今日は長男、シルムン様に剣を教えてもらうことになったが。意外と教え方が上手く基本的な剣の扱い方は教えてもらえた。


 流石は王国騎士団長の兄さん。次期領主だからといって偉そうじゃないし。俺は彼のこと好きになった。ただ、筋トレがきつかった。


「シヨウ君!君はこの領地を守るために俺より力をつけてもらうよ!」


 なかやまき◯にくんの筋肉に松永◯造の暑苦しさを兼ね備えたお兄さんだ。年齢は25歳。俺より若い。


 次の日は次男、ボーロ様に弓を教えてもらうことになった。これまた教え方が上手く基本的なことは完全に習得できた。


「いゃ〜、シヨウ君は教え甲斐があるよ〜」


 ボーロ様は爽やか系イケメンで髪も長くとても綺麗だ、これでも水洗いだけらしい。シルムン様とは真逆のタイプだ。年齢は20歳、来年結婚するらしい。


 この特訓は1年間続いた。特訓は良かったが平凡過ぎて応用技術とかがなかったから最後の方は暇だった。

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