第5話 嬉しくない成功
俺は目を覚ますと木造の寝室に寝かしつけられていた。どうやら荒波に襲われた後無事島に着いたようだ。しかも人が存在すると思われる。俺は一人じゃないんだよかった。
ところでガオガオはどこにいるのだろうか?気配も感じることができない。
「起きたのかい?」
部屋に60代後半くらいのおばあさんが入ってきた。彼女はパンと木のコップをお盆に乗せて持ってきた。
「事情は後で聞くからこれでも食べて」
そういうとおばあさんは部屋を出て行った。おばあさんの身なりは貧しさを漂わせる物だった。このパン、本当に俺が食べていいのか?これは彼女たちにとって貴重な食材だろ。
でも、正直腹は空いている。荒波に襲われて何日経ったかもわからない、俺はありがたくパンをいただくことにした。
しばらくしてまたおばあさんが部屋に来た。
「体調は大丈夫かい?」
「は、はい」
10年ぶりに人と話すため辿々しい返しとなるが仕方ないだろう。
「そうかい、じゃあお館様のところに行くから着いてきてな」
おばあさんに言われるがまま俺は彼女について行く。木造の寝室を出ると外だった。どうやら寝室じゃなくて小屋だったようだ。
ところでお館様ってなんだ?ここは貴族様の領地かなんかか?
見渡す限り木造の家が多い、人もちょくちょく見かけるがみんな貧相な感じだ。最初は人が住んでいて嬉しいと思ったがなんか嫌な予感がする。
「私の名前はゴルンゴ・ブランク。男爵だ」
やっぱり貴族家だ。しかも貧乏貴族だと思われる。ブランク男爵の家も貴族様らしくないボロい内装だった。
「それで少年の名前は?」
ブランク男爵は見た目50歳くらいで、目の下には隈ができていた。相当の苦労人なのか頬の方も痩けていた。
「はい、俺の名前は翔です」
ややこしくなりそうだから俺は名前だけ名乗り姓は名乗らなかった。これは俺が貴族でないということを示す行為だ。姓は貴族しか持てないものだ。
「シヨウか。さっそく聞くがシヨウはどうして浜辺に倒れていたんだ?」
俺は無人島から来たという話をしようと思ったが面倒なことが起こりそうな予感がしたので荒波に襲われ記憶喪失したことにした。
「そうか、記憶を失ったのか。では、何故名前を覚えているのだ?」
「唯一覚えていたのが名前だけでして…」
俺はガオガオの詳細を聞こうと思ったが、記憶喪失を装わなくてはいけなくなったため一旦諦めることにした。
ブランク男爵は俺のことをシヨウと言っているが、小書き文字と呼ばれる「しょ」とは発音はしないのかな?まあいいか。
「シヨウを放置するのもかわいそうなものだ。シヨウ、今日からお前はこのブランク男爵の領地の一時的な民とする。よいか?」
それはありがたい。帰る手段がないし、人と暮らせるのはやはり嬉しい。まあ、嫌な予感は拭えないが。
「それじゃあ、この領については私の娘に案内させる」
ブランク男爵が娘を呼んだ。
「アルエ・ブランクと申します!」
5歳の少女だった。日本人の顔つきで成長したら別嬪さんになるかもしれない逸材だ。
子供の案内は子供にか。暗に大人は暇じゃないという感じが取れるが気のせいだろう。
「アルエ様、案内よろしくお願いします」
一応貴族様の娘様ということで敬語を使うことにした。アルエも当たり前かというように「はい!」と元気よく返事を返してくれた。
アルエ様に領内を案内してもらっているがどこに行っても畑しかない、あと海。アルエ様の話によると海の魚は一切取れないとのこと。
だから、農作物だけでこの領地が成り立っている。この領地は完全に農貴族らしい。戦争が起こってもやられるがままらしい。しかも、少子高齢化している。どこに行っても子供はあまり見かけない。
これはいつブランク男爵家がなくなってもおかしくないな。
アルエ様には3人の兄がいる。長男は次期領主、次男はそのアシスト、三男は家を出て冒険者をしているらしい。
まあ、俺は貴族じゃないし他人事だからブランク男爵家の行く末を見届けるとするよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます