第34話 ボクの魅力を分からせてやる

「キミには『わからせ』る必要があるようだね」


 ビミョーな空気の中、佳弥はそう言って立ち上がると、「今日は、ボクの部屋に泊まっていくといい」と、冷ややかな物言いでそう言った。


「へ? な、なんで?」

「明日、早い時間から『向こう』へ行く」

「それはいいけど、親が」

「電話するといい」

「晩御飯、まだ食ってないし」

「出前でも頼もうか」


 有無を言わさぬ圧力。


「で、でもな」


 なおも何かを言おうとしたが、佳弥の視線の洒落のなさに言葉を飲み込んだ。


「ボクと一緒にいれて、うれしいよね?」


 わざわざ俺の耳元まで顔を寄せ、佳弥がささやく。その言葉に、俺はぶんぶんと首を縦に振った。


「じゃあ、決まり、かな」


 佳弥に言われるまま親に電話し――電話がつながるや否や、案の定母親にどやされたが、佳弥が電話を替わり色々説明すると、母親はころっと、手のひらをグルんぐるんと回転させるかの如く、ご機嫌な声に変わり「あんたほんとにいい友達ができたわねぇ。しばらく帰ってこなくてもいいわよ」という言葉で電話を切った。


 本当に親かよとつっこみたくなる。


 佳弥に連れられ――不機嫌というよりは、なんだろう、この世に敵などいないって感じの表情。なんか怖い――社務所へと行く。


 ファーストフードの出前で晩御飯を済ませると、佳弥の部屋へと案内された。


 初めて入る佳弥の部屋。しかしそこはずいぶんと殺風景な場所だった。ベッドと勉強机とクローゼット。全体が白と灰色のモノトーンであふれている。


「シャワー、キミが先に浴びてきて」

「しゃ、しゃわー?」

「うん。案内するよ」


 佳弥の部屋は社務所の二階にあったのだが、シャワー室も二階にあるようだ。


「替えの服を持ってないな」

「ジャージを貸してあげるよ。下着は、そうだな」

「いい、それはいい」


 まさか佳弥に借りるわけにもいかないからそうなるだろう。というか、佳弥はきっと女もんをはいているはずだから、そんなの貸されてもどうしようもないのだが。


 シャワーを浴び、佳弥の部屋に戻る。佳弥は部屋でベッドに腰かけ待っていた。俺を見るなり、「じゃあ、ボクもシャワーを浴びてくるから、待ってて」と言って立ち上がった。


 佳弥が座っていた場所が少しへこんだベッド。

 俺の部屋にあるシングルよりかは大き目の、セミダブルだろうか。


 ……枕が二つ並べられている。


「あの、さ。それ」


 俺は枕を指さし、佳弥を見た。


「ベッドが一つしかないから。でも、別に、いいよね」


 ……なんだろ、明らかに何かが変わっている。

 いや、枕の位置とかそうじゃなくて、佳弥の態度が、だ。


 男同士と言っても、これじゃ……


「先に寝ていてもいいよ」


 そんな言葉を残し、佳弥は部屋を出ていった。

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