第17話 さすがにこれで分かる……よね……
「なっ、たっ、そ、そんな訳ないだろ! 男同士なんだから!」
慌てて俺は、佳弥の腕を振り払った。
「なぜ?」
「なぜも何も、おかしいだろ!」
……いや、理由なんかない。
好き嫌いに性別もへったくれもないだろうが、俺は佳弥の言葉を否定しなければならない。
……否定しなければ、それを認めてしまいそうだから。
別に世の中のそういうもの……男同士ってやつを否定するつもりはないが、俺はそうじゃない。
そうじゃないはず。
そうじゃないと思う。
そうだ、よな?
「ふぅん」
佳弥がジト目で俺を見る。
……ちょっと言葉がきつすぎただろうか?
佳弥の機嫌を損ねてしまったようだ。
「いや、別にだから佳弥が嫌いってことじゃなくてな。そ、そうだ、ほら、あれだ。友達だな。アナタ、ワタシ、トモダチ、トモダチ……」
怪しい外国人風に佳弥と俺を交互に指し示す。
でも、佳弥のジト目は変わらない。
「
突然、佳弥が意味不明な言葉をつぶやいた。
「な、なんて言った?」
「別に。さあ、行こうか」
な、なんだよ……
佳弥は冷たい視線のまま、そう言って俺を促した。
まったく……佳弥はその見た目はクールだが、実はかなりの気分屋のようだ。
「お、おう。行こう行こう。で、どっちへ行くんだ?」
「その前に、馬を出してくれる、かな」
「馬? 出してどうする。俺、乗れないぞ」
「ボクは乗れるよ。乗馬をやっていたからね」
「マジか?」
佳弥の話では、歩いて回るにはこの世界は広すぎるらしい。交通手段をということだが、もちろん、電車もバスも車もない。
でも佳弥が馬に乗れるとは意外だった。
「子どものころから、この時のために色々なことをさせられてきたから」
なるほど……この世界を旅するのは、幼少のころから課せられた義務だったというわけか。
フツーの子どもとは違う育てられ方をしてきたのだろうな。
佳弥のアドバイスを受け、馬を出す。
「来たれ、来たれ、人間の言うことを素直に聞く、人間を運ぶための馬具の付いた馬、我の前に」
そこまで『注文』を付けても大丈夫なのかと思ったが、俺たちの前に、サラブレッドよりは少し小さいが筋肉ががっしりとついた馬がポンと現れた。
鞍や手綱、そして足を置くためのもの―
でも俺はまだ剣と籠手を出したままだ。
つまり……
「これで『一つのアイテム』なのか。反則だな」
「便利だね」
佳弥は他人事のようにそういうと、鐙に足をかけ、さっさと馬に乗ってしまった。馬が少し身震いするのを、なだめ鎮める。
「すごいな」
「虎守くんだけに全部させるわけにはいかないからね」
戦うのは俺の仕事。それ以外は佳弥の仕事――というわけか。
「さあ、乗って」
そういって佳弥が手を差し伸べる。佳弥に手ほどきされ、俺も馬に乗った。
視線がかなり高い。
一つの鞍に二人またがると、否応なく体が密着してしまう。
……や、やばいかもしれない。
なにがやばいかって……おこちゃまには聞かせられないくらい、とにかくヤバすぎる。
「しっかり、ボクにつかまってて」
「つかまる? こうか?」
佳弥の肩をつかんでみる。とても華奢だ。
「それじゃダメだよ。振り落とされてしまう。ボクの体に腕を回して」
……はひ?
「え、いや、その、じゃ、じゃあ、失礼して」
佳弥を後ろから抱くように……いや、もはや『ように』じゃない。抱きしめている。
「こ、これでいいのか」
「うん」
密着。
佳弥の頭に俺の顔。佳弥の背中に俺の体。佳弥の胸に俺の腕……なんだろ、柔らかい。あれか、ちちぱっどか!?
そして佳弥のお尻に俺の……
ムリっす、絶対ムリっす。
「ちょ、ちょっと待て。これじゃ俺の」
理性が……
「行くよ」
佳弥が馬をけしかけと、馬が二人を乗せて走り出す。
俺の制止の言葉は、言葉にならない悲鳴へと変わり、宙へと溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます