第6話 やった、成功した!
月岬に急かされ、俺ん家の近くの神社――底津神社へとやってきた。
二人で小さな社――というか、『祠(ほこら)』というべきものの前に立つ。本殿とはかなり離れたひっそりとした場所。お参りする人もほとんどいないだろう。
「またここに入るのか?」
そうしたくないというニュアンスをふんだんに散りばめた言葉が俺の口から出ていく。月岬が――私服に着替えなおしていて、短パンから伸びる脚が相変わらずまぶしい――ゆっくりとうなずいた。
俺の生活はここから狂ってしまった。いまだに俺の身に起こったことが現実だったという風には思えないでいるが、この祠には恐怖しか感じない。
あれが現実だったと思い知らされる……
「手を」
月岬が右手を俺のほうへと差し出す。でも、それを握り返す勇気が出てこない。
「また、化け物たちに追いかけられるんじゃないのか?」
「中に入ったら、何が起こってもボクの傍からは絶対にはなれないで。降り立つ場所には結界が張られている。その中にいれば、安全だから」
前回――いきなり視界が暗転し、見知らぬ場所に投げ出された。不気味な奴らがこっちに来るのを見た瞬間、俺は逃げようとして走り出してしまったのだ。それがだめだったってことか……
「そういうことはだな」
「先に言っておくべきだったね。すまなかった」
何も知らないうちに俺を巻き込もうとしたくせに……などとは言わない。月岬が本当にすまなそうな顔をしていたから。
差し出された手を握り返す。少し冷たい。
「なあ、月岬」
「『
……なにそれ。どういう展開だよ。
「えっと、じゃあ、佳弥。具体的には、魂をどう取り返せばいいんだ? あんな化け物がうようよしてるんなら」
「それは中で話すよ、
……背筋をぞわわわっといった感覚が這い回る。
「いや、その呼び方は」
「……嫌、かな」
月岬、もとい、佳弥はどこか不安げな目で俺を見つめた。
「好きにしろ」
俺、絶対になんか間違ってる。
相手は男、男、男……なぜだろう、あの瞳で見つめられると、拒否できない体になってしまっている。
こいつが男だということを忘れるくらいにかわいいんだよな……
「じゃあ、行こうか、虎守くん」
佳弥はそういうと、まさに有無を言わさず、俺を力強く引っ張った。
揺さぶられるような感覚。次の瞬間、視界が暗転した。
思わず目をつむる。揺さぶられるような感覚が消えてから、俺はゆっくりと目を開けた。
辺りは薄暗い。
そう、『あの場所』だった。
やっぱり、現実だったのか……いや、もう何が現実で何が非現実なのかわからなくなってしまっているかもなのだが。
「化け物は……いないか。なあ、ここはどこなんだ」
徐々に目が慣れてくる。あたり一面枯草の草原。その中に枯草すら生えていない『道』が前と右に伸びていた。
少し小高い場所の頂上にいるようだ。だが、四方見渡しても下のほうは暗すぎて見えない。
つまり。視界の中に『光』と言えるものが存在していない。この場所以外は。
俺たちがいる場所だけが円形に光を放っている。それもあまり強い光ではない。仄かなものだ。
これが『結界』か。
「ここは『黄泉比良坂』。生と死の狭間、かな」
かな、じゃねーよ、かな、じゃ。
「俺を襲った化け物は何だったんだ?」
「あれは魂が消えて肉体だけが残ってしまった、生きることも死ぬこともできない存在、だね。ボクたちは『黄泉人(よみびと)』と呼んでる」
「ボクたち? 月岬の他に」
佳弥が俺をキッとにらむ。
……こわいよ。
「あー、佳弥の他に、こんなことしてるやつがいるってことか?」
「ボクの家は代々、ね」
「そうか……」
そんなこと、あるんだなぁ……マジかよ……ゲームかアニメの中だけにしといてほしかったなぁ……
「とりあえず、虎守くんの魂を取り戻しに行こうか」
「お、おう。で、どうやって?」
「虎守くんを殺したやつがその魂を持っているはず。そいつを倒せば取り返せる」
「なるほどね、んじゃ、頼んだ」
というか、俺、いらなくね?
「何を?」
佳弥が不思議そうな表情で俺を見る。
「何をって、佳弥があの化け物を倒してくれるんだろ?」
「いや、無理だよ」
佳弥がさらっと言い切る。途端に、シーン虫が大量発生した。
「なんて?」
「ボクにあいつらを倒すのは、無理、だね」
「は、はぁ? おま、『復活の儀式』ができるんだろ? なら、呪文を叫べば雷がドーン!とか、煌めく光の束が敵にズバーン!とか、そういうのは」
「ない」
なに分かりきったことを――佳弥はそんな表情で俺を見た。
いや、どういうことだよ。巫女巫女パワーで敵を蹂躙、じゃないのか!?
「んじゃ、あのバケモンども、誰が倒すんだよ!」
俺の質問に、佳弥は黙って俺を指さした。
その指をつかみ、横にそらす。
しかし俺が手を離すと、その指がまた俺の鼻先へと戻る。
俺、かよ……
「んなもん、無理に決まってるだろ! どうやって倒すんだよ。武器もない、飛び道具もない、もちろん呪文みたいなものも」
「使えるよ」
……
「は?」
「だから、キミは『呪文みたいなもの』を使うことができる」
「どうやって?」
そんな能力、俺にあったか?
いや、ない。うん、ゼッタイ。
「ボクの言うことをまねして言ってみてくれる、かな」
……こいつはまた、俺に何をさせるつもりだろう。
「お、おーけー」
「来たれ、来たれ」
……うわ、なんか呪文っぽい。
「来たれ、来たれ」
こうだろうか。
「鋼の剣」
「鋼の剣」
「我の手に」
「我の手に」
それが言い終わった瞬間、いきなり、俺の手の中にずっしりとした、それはそれはもうこれでもかというくらいにずっしりとした直剣が現れた。
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