第16話:傾城の王妃と傾国の王女…の予定でした『僕は悪くない』

 おかしいですね? 人間の都市国家を占領した族長さんが、傾城の王妃と傾国の王女を同時にアッハン❤️ するパートのはずだったんですが……


 人間統治用に族長さんがコマシた女騎士団長さんや女官僚さんが無駄になってしまいますよ。


 ぐつらぐつら燃え上がるマグマの海を見渡しながら今後の予定を聞いてみるも、聞こえるのボゴンッボゴンッという煮えたぎる溶岩の旋律のみ。


「えーと、近くに別の人間の都市国家はないんですか?」


「……この川沿いに……元・川沿いに人間の都市は3つあったんだがね、ボーヤがはっちゃけてね……このありさまさ。まあ、一応、目的は達したんだがねぇ」


 2回目の川沿いに『元』をつけましたね? なるほどかなり不本意なんでしょうか。

 目的は達したとオババは断言しましたが、敵の鹵獲でも全滅でもステージクリア的な何かなんですかね? そもそも誰が──まあ、うん。


 イメチェンした族長をじっと見ます。体躯は大きくなり、腕が1対追加で計4本、よく見ると額にサードアイ、族長の自慢の双角もひと回り大きくなり火のついた備長炭のように内部から紅く発光ちう……

 炎か…太陽っぽい加護か権能? それでマグマの海の説明はつきそうですが、族長の『ぺかー』が目的だった? 二段階か三段階は存在進化してませんコレ??

 何があったんでしょうか? おっと、私はスローライフを目指すので深入りは禁物です。


「近くには人間の領域は無いと?」


「海まで行かないと、無いね」


 人間の街、ちょっと楽しみにしていたんですが、残念ですねえ。

 とりあえず荷を軽くしますか。ポニーガールのオペラに補給物資のワームジャーキーを配らせます。

 私達、族長オババマルコオペラ一般オークにゴブリンコボルドの皆と私は、地平線まで続く紅々と煮えたぎるマグマの海をながめながら、くっちゃくっちゃとワームジャーキーを無言で咀嚼しました。これか恵方巻きのような季節の行事にならないか心配です。椎茸やかんぴょうの入った巻きずしが恋しい。


「帰りましょうか…」


「ウム…」


 あれ? 気のせいか? 何か忘れてる気が……まあ、いいや(笑)。


 テントや荷物をまとめてとりあえず獣人村まで帰ってきました。道中に問題無し。村に着くとクマ村長が族長さん改2に駆け寄ります。


「族長様、少々問題が…」


 クマ村長、変わり果てた族長をよく見分けられ…ああ、臭いですか。


「む? どうした?」


 クマ村長に連れられて村の広場に行くと、そこには勇者(鉄砲玉)と100人ばかりの小汚い、いやかなり汚らしい痩せ細った人間の群がいました。あー、こんなやついましたね。


 鉄砲玉君を先頭に人間たちが座りこみスモウのソンキョ的なポーズをとっています。


「ワイらを保護してもらいたい。奴婢扱いで文句は無い。たのむ!」


 ちな、奴隷と奴婢は微妙に別物です。奴隷は暗黒大陸や新大陸から拉致られガレー船の船倉で糞尿まみれになりつつ、衰弱死した同胞の死体の上で寝起きして出荷されたクンタ・キ◯テ。

 奴婢は取り引きされて労働力として共有財産扱いな村の共有トラクターです。脱走しようとすると猟銃で射殺された昭和のタコ部屋の労務者(←当時の表現です)より少しマシなポジションですね。


「自分が何を言っているのかわかっているのか?」


 まあ、仕方ありません。この手段以外は脆弱な人間だと十中八九死にます。というのも


      大樹海


      オーク村

トロール        オーガ

の領域   獣人村   の領域


 樹海   マグマ   樹海

     マグママグマ

   マグママグママグマ

 マグママグママグママグママグマ


 このあたり、今こうなっています。鉄砲玉君単体なら樹海を抜けてワンチャン…といったところなんですよね。

 こうして見ると、族長さん、弱小勢力の土豪ポジだったんですねぇ…それで『ぺかー』で一発逆転を狙っていたようです。


「ワイの首を差し出してもエエ、たのむ!」


「フム、マダナイ、使い道はあるか?」


 む!? いきなりなキラーパス?!


「職人がいれば役に立つんですが、この人間たちはおそらくスラムの住民です。たいした技能も持ち合わせてはいないでしょう」


「では不要か?」


 鉄砲玉君の肩がビクンと震えました。


「農奴としてならなんとか使えますね。オーク村の放置された畑を活用できます。

鉄砲玉君とお仲間は人間の都市に紛れ込ませることが出来ますので次の、人間との戦いで役に立つかと。

残りの彼らを農奴としてオーク村と獣人村に分散して働かせれば人質になります。

ああ、あと人質は生きていてこそ価値がありますので周知させる必要がありますね」


 そう、1人ならワンチャン樹海を越えて逃げられた鉄砲玉君が首を賭けたのです、人質の価値はあるでしょう。


 族長、しばし思案。人間たちは生きた心地はしないでしょう。族長がイラナイと言えばそこで試合終了ですから。


「この俺に忠誠を誓うなら生存をゆるそう」


『忠誠を誓います!』


 族長の勢力に人間(スラム民)が加わった。

 内訳は鉄砲玉君と大人26人子供61人の計87人……子供多いな! しかも大人は鉄砲玉君以外は全員女性でした。うん? そういえばオークは何人いるんでしょうか? 今更ながら気になりました。


「鉄砲玉君? 男がいないのはなぜです?」


 なんとなく察してはいますが、一応聞いてみます。


「……領主が、男は外に出て戦え、国を守れ、逃げることはゆるさんとスラムの男を防壁の外で肉盾にして

男どもが逃げないように都市内部の重要な施設にスラムの女子供を詰め込んだんや

普段は都市に入ることもゆるさなかったくせにな!」


 スラム民は都市国家の防壁の外に掘っ立て小屋を建てて、勝手に住み着いていた貧民階級ですか。

 樹海からモンスターが来れば真っ先にオトリ兼生き餌兼警報装置。大規模な魔物の襲撃があれば女子供の避難名目で都市内部の重要施設に監禁し、その施設をスラム民に命がけで守らせる…ですかね。


 私が領主ならやはり同じ事をしたでしょうが、客観的に見るとかなりゲスいですね。こんなゲスでもマスゴミで大絶賛すれば光のゆ…いやなんでもないです。


「生き残った男もいたんやが、樹海を抜けたほーがマシやゆーて沿岸の都市を目指して行きよったんや

たぶん今ごろ…くたばっとるやろーな……」


 そして人間の配置ですがあっさり決まりました。若い大人の女性と男のガキがオーク村へ、バ…ごほん、年配の女性と幼女が獣人村という振り分けです。理由は、わかりますね?


 オーク村の豚畜生どもを啓蒙しておいて本当に良かった。


 嬉しい誤算は鉄砲玉君のお仲間の信仰系魔術師の女性の存在です。いわゆる神官とか司祭のようなジョブですね。

 今はなぜか信仰系魔術が使えなくなっているそうですが、そんな神に愛想をつかして棄教、族長の信仰する神に転向するとのこと。やったねオーク神官が増える…よ?

 やばい淫祠邪教にならなければいいんですが……いやいや、ヒーラーが増えるのはいい事です。ちな私の宗派は真言密教立川流ですあみだあみゅでゅらへぶんずほーる。


「族長さん?」


「ウム?」


「そういえば、オーク村に神様っています?」


 豚に神はいないッ!! とか言われないかドキドキです。

 あれ? 返答がきませんね、族長さん、オババと目で会話していますよ。


「う、ウム、まず星神様だ。この星の人間以外はすべ……」


 一瞬族長さんがフリーズ即座に再起動。


「人間以外はだいたいすべて星神様の子、オークなら後は獣神様や……あー……豚神様、あと何柱かの神々が見守って下さっている」


 歯切れが悪いですね。ふーむ、族長さんは戦闘や政治担当で祭祀はくわしくないのでしょうか。祭祀担当はオババなのですかね?


「なるほど、ではオババさん、女神官さんが宗旨変えするそうなので、そのついでにオーク神官とかも増やしませんか?」


 ヒーラーは大事です。オークは勝手に再生しますし欠けた手指や目玉ぐらいいつの間にか生えてるそうですが、獣人や人間もいますからね。


「そ、そうだねマダナイ。女神官なら神との交信やら契約やらくわしいだろうし、手伝わせれば神官も見つかるかも知れないねぇ」


 いい感じに戦力の強化が進みます。


 フルアーマーオーク、そして意外に有効だった静音性強化型のペニスケースオークNINJA、魔術師の女冒険者に育成させているオークマジシャン、オババのオークシャーマン、地味に編成中の魔猪ライダー、そして今回のオークプリエスト? 


 おや? アーチャーがいませんね。コボルドの弓兵を強化しますか。たしか和弓は竹をニカワとウルシで張り合わせ、ほら、アレです、技術室やらにあったはさんで固定するアレ(笑)で挟んで蒸気で……うん、無理。

 素直にエルフかダークエルフの集落を襲撃しましょう。


 暴力はすべてを解決するのですよ!

 


 
















 あ、思い出した……『万力』だ……

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