第13話:ハーレムは地獄ぞ?

「騎士衆道会とやらはどうでもいいんです、大事なのは毛糸や布ですよ」


「あ、ハイ」と同時に返事をしたマルコとクマ村長。


 救出されたクマ村長はさすが獣人のまとめ役です。鉄杭を引き抜いたらすぐにジワジワと回復しはじめました。やはりチカラこそパワーですね。

 しかし、たかが人間の兵士になぜ倒されていたのでしょうか?


「村長さん、人質でも取られましたか? 人間、そんなに強くありませんでしたよね?」


「面目次第もございませんオーク様」


 マルコが「人間に寄生する堕神の神兵はそこそこ強いのですが…」などとブツブツつぶやいていましたがスルーしておきましょう。まずは服、これは譲れません。

 毛織物で鎧下をクリアすれば、鎧下、鎧、武器と装備が整います。武装が同等ならフィジカルで勝る獣人が惰弱な毛無し猿ごときに遅れを取ることはないでしょう。


「それで、この村には布や毛織物の職人はいますか?」


「獣人の村ですので毛織物は基本、職人はおります」


 う、うん? 不穏な言い回しですね?


「……職人を、よんでいただけますか?」




「村を救っていただき、お礼申し上げますオーク様。私、毛織物職人のカシミヤと申します」


 前世で見た悪魔のバフォメットの容姿のヤギ獣人が、よく訓練した執事のように礼をしました。カシミヤ? ヤギ? しつじ? 属性過多ですよ!


「村を助けてくださって、感謝しますオーク様! あ、メリー、職人です!」


 アタマにプードルを思い浮かべてください。

 ソレを二足歩行にし、身長を人間サイズに。

 頭部は羊の巻き角を生やした少女……


 ちなみに大事な部分は羊毛がカバーしています。こちらも属性盛ってますねぇ……


「メリーさんは、人間とのハーフですか?」


 サッとメリーさんの顔色が変わりました。


「も、も、申し訳ございませんオーク様! わ、わたし、邪悪な人間の血、穢れた血が混じって──」


 あー、ウザいネタですね。


「黙りなさい! はあ、そういうのはいいんですよ。私は区別はしますが差別はしません。わざわざ話題にしたくもないのでソレ、やめてもらえますか?

あと私、同じ話を二度三度と言わされるの、虫酸が走るんですよ。理解したならオマエの自虐や卑屈を廃して

重要な事柄、優先されるべき返答を簡潔にのべなさい」


「も、もう──」


「あ゛あ゛っ!」


 素がでた私のオンドゥル語の威嚇にビキッっと一瞬フリーズしたメリーさんですが、再起動すると引き攣った笑顔を浮かべたどたどしく話し始めました。


「け、毛織物職人のメ、メリー、……は、ハ、ハーフ羊人で〜す。村一番の織り手ですぅ♪ きゃ、キャハ☆彡」


 あ、あれ? 配線がちょっとズレたかしら?


「…………ええ、それでいいんですよ(よくない)。それでですね、オーク村に毛織物の職人を招きたいんです。どなたか来て──」


「私が行きたいです!」とメリー


 こうして、毛織物職人の誘致は解決しました。

 え? 衆道会? 神兵? あの汚物達なら隔離小屋でまだサカッていますよ。大性女の3000倍ポーション、あなどれませんね。


「ところでマルコさん?」


「なんでしょうか先生」


「あの汚物どもについて説明を……と思いましたが、まあ、いいです。私はスローライフを追求しますので…

この村での、私の助力はまだ必要ですか?」


「私やオークたちが居ますので、先生の手を煩わせる事もないでしょう」


「あと私が知っておいたほうがいい情報はありますか?」


 マルコはたぷんとしたアゴに手をあててしばし熟考すると話し始めました。


「族長様は堕神が守護する人間の都市国家を落とそうとしています。

敵は堕神の加護を受けた人間と、淫魔族や吸血鬼族の一部です。

淫魔族は嗜好品として、吸血鬼族は食料として『人間讃歌』などとタワゴトをほざきながら人間保護の立場をとっています。

淫魔や吸血鬼を見つけたら、とりあえず全力で殴っておけばいいかと」


 なるほど、大雑把に理解しました。

 人間も人間以外も一枚岩ではないということですか。

 3000倍ポーションを用意したのはサキュバスか何かですね、淫魔ごときは性帝な族長さんの敵ではないでしょうし私はスローライフで問題なさそうです。


「では、私は職人と道具一式をオーク村に輸送しましょう。

ああそうだそこのオークさん?」


「ブヒッ?」


「確認したいので人間どもの隔離小屋に案内していただけますか?」


「ブヒッ! こちらですミコ様」


 …………う、うん?


 私はオークに案内されて村外れの小屋に向かいます。背後でマルコが「先生まさか…」などとつぶやいていましたが気にしません。


「ここです」

 

 案内のオークがドアを開けると秘密の薔薇園が拡がっていました。薔薇園が拡がっていました。びろーーんと拡がっていました。


 ちょっと内臓モツ汁うんこイカ臭いですが、まあこんなものでしょう。これが、生きるということですよ。


 私は案内のオークの背をそっと押すと、大性女の3000倍ポーションをオークに1滴垂らしてドアを閉めます。


「ブヒッ、ブッフォオオオッ!!❤️」


「ア゛ーーーーーーーーーーッ!!❤️」




 オーク村への帰路について特に話すことはありません。



 

「こんどは何をやらかしたんだい?」


「ひどい中傷誹謗はやめてもらえますかオババさん」


 オババの信頼がひどいですね。今回は普通に働いたはずなのですが……


「獣人村から毛織物職人を連れてきました。空いている民家の振り分けとか、お願いできませんかね?」


「ふうむ……しかたないね、アタシがやっておくよ」


「たすかります、では」


 ………………………………えーと、これは?


 鍛冶小屋に向かう私に追随するモコモコが1人。


「な、なにか?」


「私はぁ、オーク様のォ、魂の下僕ですぅ☆彡」


 妙な手下は発情ポニーガールで間に合っているのですが……


「私について来られても困りますよ? 毛織物と、出来れば鎧下を作っていただけると嬉しいのですが?」


 ハーフ羊人のメリーは、すぼめたクチビルに人差し指を当て、私を上目遣いに見つめます。

 卑屈の極みからあざとさの極地に至るとは、コイツ、私をナメているのでしょうか?


「わたしぃ〜、オーク様だけの職人になりたいんですぅ〜☆彡」


 専属契約ですねわかりません。いやまあ、なにか魂の殻をぶち割られるような経験を経て一皮むけたんでしょうが、微妙な行動力が突出していませんか?


 あー、私のせいですかね。

 

「好きになさい」


「はい!」


 この手のキャラには説得は無意味ですし。

 

「そういえば自己紹介もまだでしたね。私の名はマダナイです。

メリーさん、鍛冶屋の未亡人と協力して鎧下を作って下さい」


「うけたまわりましたマダナイ様ァ☆彡」


 返事はいいんですが…


「それで、いつごろ仕上がります?」


「メリーがぁ〜すっごく頑張ってぇ〜2ヶ月はかかるカナ? カナ?☆彡」


 なんかウザい、地味にウザいですね……


「家内制手工業では仕方ありませんか」


「と、その前に、私の兄弟を紹介しておきましょう」


 私達は村の厩舎の前にやって来ました。ガラガラとはめ込み式の引き戸を開けると、現れたのは巨大なイノシシの頭部。

 体感、体長8メートルほどに成長したわが兄弟ボルタンが厩舎の天井を気遣いながら寝そべっています。


「兄弟、コイツが新しい子分ですよ」


「ブフフンッ」


「メリーさん、こちらは私の兄弟のボルタン。ついでにアレがポニーガールのオペラです」


「俺がポニーガールのオペラだ! よろしくな後輩!」


「メリーですぅ♪ よろしくお願いしますぅ☆彡」


 これでマダナイパーティーは私、巨大イノシシ、うまむ…ポニーガール、ハーフ羊人の4人パーティーになりました。

 マルコさんは族長さんの手下からの出向、ケンゴブさん達は別動隊ですので私の仲魔は実質この3人になりますね。

 何気に半分がメスですね。

 前世の娯楽作品にタグ:ハーレムとかよく見かけましたが…


 正気か?!


 と言わざるを得ません。

 嫁などたった1体でもよくわからない地雷や思い出し時限爆弾で平和な団らんが一瞬にして『夜の女王のアリア』状態になるんですよ?

 あの曲、幼きモーツァルトが薄ら寒い冬の夜、毛布にくるまり震えながら聞いた母親の絶叫がモデルになってるんじゃないでしょうか…きっとそうです間違いなくトラウマものですよ。

 そんな魔獣が5体10体と、狂気の──


「ブ、ブヒッ?」


「あ、ああ、大丈夫だボルタン。私は大丈夫だ。とりあえずメシにしよう。みんな来てくれ」


 厩舎を壊さないようズリズリと匍匐前進で這い出すボルタン達を伴い広場に移動。

 そこには私が獣人村からの帰り道に採集した全長3メートルほどのカブトムシの幼虫が4匹。

 前世を思い出した直後にボルタンと食べた思い出の幼虫はカブトムシではなくカナブンの幼虫だったようです。

 腐葉土や朽ち木を食べるのがカナブンやカブトムシの幼虫、野菜の根を食い荒らす害虫がコガネムシの幼虫。農家さんはコガネムシを見つけると条件反射で叩き潰します。タマムシの羽で玉虫の厨子を作りたいですねぇ。


「ボルタン、本物のカブトムシの幼虫ですよ! さあ皆さん、食べましょう!」


 バチュン! と幼虫の分厚い皮を噛み破ってボルタンが舌鼓を打ちます。私には少し大きいですね、ひとかたまり食べて残りはボルタンにあげましょう。

 おお、クリーミー、濃厚なエビのビスクに匹敵するコクと奥行きのある味わい、ズルッ…カブトムシの幼虫は飲みも──


「痛えーーーーーー!」

「食べないで下さいーーー!☆彡」


 おー、返り討ちですね、馬刺しとジンギスカンが食べたくなってきました。

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