第12話:聖神騎士修道会

「服を作りましょう!」


 そう、服を、麻か木綿あるいはシルク、そういえば中世の騎士の鎧下はたしかウールでしたね。

 放浪騎士が鎧下に入り込むノミに悩んでいた話を前世で読んだ覚えがあります。


「腰みのですかいオヤブン?」


「ケンゴブさん、心配しなくてもアナタ達には期待していませんよ! 鍛冶屋の未亡人、服を作りましょう!」


「え? ビ、ビキニアーマーですか?」


 こ、こやつら…


「麻か木綿、もしくはシルクかウールですよ!」


「麻布は…行商が売りに来ましたので、糸程度なら紡ぐ者もおりましたが今は。

木綿は…ぞんじません。シルクは貴族どもでないと入手は無理かと。ウールも、何かわかりません」


 麻はワンチャンありそうですね。


「ウールというのは、毛の長い羊の毛を…たしか脂抜きして糸に、糸から布にしたものですよ」


「あっ、毛糸ですか、ですが毛糸も行商が売りに来ましたので…」


 この世界、地味に分業化が進んでいるんですかね? 前世の日本の戦国時代も上杉謙信が芋麻? あの芋みたいな字の布の専売で戦費を賄っていましたし、作ってない地方では無いんでしょうね。


「分かりました、未亡人、アナタは麻を糸まででいいので再現してください。コボルドを何人か使ってもかまいません。

ケンゴブさん、毛糸です。毛糸にできる家畜っぽい動物を探しなさい」


 そういうことになった……のだが




「オヤブン、アレです!」


 ケンゴブが指し示す先には、長毛種の羊にも似た体毛をドレッドヘアのように垂らした……体長10メートルほどの、輝く単眼の牛っぽいクリーチャーがいた。


 GRAAAAAAA!!


「オヤブン! ホブとユミコボが石になりやした! アッシも足から──」


「このドレッドヘア、動くぞ! というか、ドリルよろしく突き刺ささって来ますよ! 避けなさい! マルコ! 石になったおバカさんたちを──」


 カトブレパス(仮名)のドレッドヘアは筋繊維なのか毛糸にはなりませんでした。




「オヤブン、アレです!」


 ケンゴブが指し示す先には、長毛種の……複眼っぽい輝く単眼? の、体長30メートルはありそうな……マンモス??


 PAOOOOOOOOOO!!


「オヤブン! ホブとユミコボが石になりやした! アッシも足から──」


「このロン毛、動くぞ! というか本体から離れて襲いかか──」


 ギリメカラ(仮名)の体毛はよくわからない謎の共生生物でした。




「……オヤブン? アレですかねェ?」


 ケンゴブが指し示す先には、長毛種の……長…毛?? 毛って何でしたっけ? モサモサの茶色の毛に覆われた体長150メートルほどの……1本脚のムッ◯???


 MUUUUUUUUUXX!!


「オヤブン! ホブとユミコボが石になりやした! アッシも足から──」


「フッ……アハハハハハハハハハ!!」





「アンタたち、何やってんだい」


 オババが怪しい薬品をひしゃくでゴブコボの石像にぶっかけながらたずねます。


「何やってたんでしょうねぇ……」


 私は戦利品であるカトブレパス(仮名)のツノに、今回の冒険の様子を爪先でゴリゴリ刻み込んでいきます。マダナイパーティー激闘の記録として。

 いつか工芸品としてプレミアがつくといいですねぇ……あ、角笛とか角杯とかもいいかも? ギリメカラ(仮名)の牙もありましたしね。象牙のハンコも作りますか(白目)。


「もう石化回復薬は無いよ。というか、よくもあんなゲテモノシリーズばかり狩ってきたね。族長もドン引きだったよ」


「その節は世話をかけましたね……」


 ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……と、私がツノを加工する音が無情に響きます。


「うっとおしいね! 何がしたかったんだい!」


「毛糸が欲しかったんですよ」


 ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ…


「なんだいソレなら──」


「マルコはいるか?」


 ふいに族長のイケボがマルコを指名しました。気配は感じなかったんですが、いつ来たんでしょう? 族長、意外と引き出しが多そうですねぇ。


「ここに」


 マルコさんですが、ワーム祭りのあとマルコさんもぺかーっとしたようで、魅惑の球体ボディからアンコ型横綱に進化しています。カプ◯からゾッ◯な進化でしたが進化して自信がついたのでしょう、人見知り? 豚見知りも改善したようです。

 元々知能特化型だったのがぺかーしてフィジカルもアップ、数の少ないメスオークからの人気もうなぎ登りですひつまぶし食べたいですね。


「傘下の獣人の村が人間どもの襲撃を受けた。救援に向ってくれ」


「かしこまりました」


 ん? 今、何と!? 傘下の村があるのか?! 布職人、マスタークロスが見つかるかもしれませんね…


「族長さん、マルコさん、私もお手伝いさせてもらいますよ」


「う、うむ、たのんだ」


 食い気味の私にちょっと引く族長さんでしたが、つまりはそういうことになったのだ……

 しかし族長さん、なぜかいつも私には遠慮ぎみなんですよね。村八分とかではありませんよ? たとえるならめんどくさい食客とか客将っぽいあつかいなんです。

 むしろ昔の中国の田舎の名家が自称赤龍の子や自称頼朝の弟とかの傾奇者を囲っている状態に近いのかも知れません。

 自由にやらせてもらえているので願ったりかなったりなんですが、私は傾奇者ポジですかぁ…




「いつもの川の対岸の下流に村があったんですねぇ」


「下流に、海に近づくほど人間の領域が増える感じですよマダナイ先生

くだんの獣人村は、族長様が人間の都市国家を攻める際の足がかりにしていました」


 獣人、そういうのもいたのですね。獣要素フルスクラッチ獣人なんでしょうか? それとも頭の悪すぎる4つ耳タイプなんでしょうか?

 4つ耳頭、真面目に頭蓋骨を想像するとかなりキモいですよね。


 しかし…獣人ですか、前世で読んだ作品では、わざわざ獣人ヒロインを貴族御用達のレストランなどに連れていき、貴族たちに獣臭いと言われると

「ぼ、ぼきゅのモフモフヒロインをシャベツすりゅなーーっ!」

などと逆ギレする稚拙なテンプレが氾濫していましたね。


 夏場の雑巾臭のする獣人を貴族御用達のレストランに連れて行くな抜毛マックスの獣人を公衆浴場に入れるな猫の爪にも毒の追加効果があるのに薬用石鹸もない世界で獣人にパンを作らせるな、いいですか? これは差別ではない区別ですよ!


 私は幻想被◯別作文コンクール応募作品を読みたいんじゃありません、ファンタジーが読みたかったんです! それなのにバカのひとつ覚えのようにシャベツシャベツシャベツシャベツシャベツシャベツシャベツシャベツシャベツシャベツ……

 あ、そういえば被差◯作文コンクール審査員だったN先生はご存命だろうか……67万の違和感しかなかったヅラはやめて正解だとおも──


「マダナイ先生、獣人の村です」


「あ、はい、あー、占拠されていますね」


 村の中央の広場には、巨大なクマが両手両足を鉄杭で大地に固定されて拘束されており、それを武装した人間たちが取り囲んでいます。


「マルコさん、あのクマが…獣人ですか? それともテイムされたクマ?」


「この村の代表ですね、もう少し近づきましょう」


 ヘビーケモナーワールドでしたか…


「これ以上はずかしめを受けるつもりはない、クッ…殺せ!」


 うーん……これは…………


「ヘッヘッヘ、お前には獣耳獣尻尾の複乳ぷりんぷりんな可愛い娘をたくさん産んでもらうぜェ〜」


「ゲスな人間め! 誰が貴様らの思い通りになるものか!」


 人間の兵士が熊獣人の前脚に刺さった杭にケリを入れます。


「ガァッ!」


「俺たち聖神騎士修道会にご奉仕できるんだ、ケダモノ風情には過ぎた温情だろう? オツユを流して感謝するんだなぁ?」


「う〜ん……嫌なツラですねぇ、アレはダメなツラです。それに気色悪い。とても気色悪い。

 ではマルコさん、オークたちで包囲して、私が突っ込むタイミングでスパーンとする感じで行きましょう。あ…」


「コレがわかるか? 大聖女様からいただいた素直になるポーションだ。これ1滴で──」


「どうなるんです?」


 精緻なガラス瓶に入れられたピンク色のポーションを太陽にかざしながら私は人間に問う。


「て、オーク!? いつの間に!」


 念動力は便利ですね。素早くポーションのフタを外し中の液体を1滴づつ分離、実験をかねて周囲の兵士たちのクチ、鼻、眼球、素肌などにそれぞれ付着させてみました。

 

 こうかはばつぐんだ!


 結果を見るに口腔内も皮膚も変わらないようです。皮膚に付着するだけでも効果アリとはかなり凶悪な3000倍ポーションですね、後でゴブコボやオークにも試してみましょう。


「んほおおおおぉっ❤️ ま、まさかはァん❤️ だ、ダメダダメダらめらめりゃめぇっ❤️ こしゅれるだけぇりぇ(ビュルビュルビュル!)❤️」


「こ、んな(デュル…) が、ま、ん、う゛ぉっ(デュルルッ…)デキナひィいぃッ(ビュビュビュ!)❤️」


「ァ…アニキぃ❤️ 俺…ずっとアニキのことがぁ〜❤️ ぅう゛お゛ぉっ!? ん゛……(ビュルルルルルッ!)❤️ あぁ…アニキぃ……❤️」


 ランキングが下がると唐突に淫紋ヒロインをぶっ込む永◯豪スタイルな作品もありましたね。アレ、萎えるんですよね。ああ、暴力なジャックさんやダンスさんにはお世話になりました。先生はわが青春、そこに異論はありませんが性癖は確実にこじれましたねぇ……


「お゛っ…お゛っ❤️ ん゛お゛お゛お゛お゛っっ❤️(デュ…デュ…デュルルル…)」


 しかし……思い出しますね。パリのシャンゼリゼ通り、連れだって歩く人々、流れてくるアコーディオンの音色……ほのかに漂う…マロニエの花の香り(現実逃避)


 うん? どうしたんです? マルコに村長さんにオークのみなさん。耳をペタリと伏せて、なぜ距離を? さあこちらに──

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