第10話:女騎士団長独身34歳

「しゅきぃ…❤️ らいしゅきぃ〜❤️」

 

 早っ! 族長ェ……


「私の父は上辺だけ、虚栄心だけの中身の無いハリボテ…娘の私に向き合うこともなく、勝手な思惑を力まかせになすくりつけてくるだけの、クソアル中DVちんぴらヒモ男クソだったわ」


「母はそんな上辺だけの、顔とケンカとドリルだけが自慢のマダヲしか眼中に無く、娘なんかヒリだしたクソ程度の扱いで意識もしなかった」


「私はそんな毒親の、虚栄の装飾の1つとして騎士団長になりはしたけれど、このまま誰にも顧みられること無く消えて逝くのだと…ずっと、そう思っていた」


 重い…アナタ地味に重いですよ女騎士団長……


「でも、アナタがいた! 私のクソ薄暗いドブドロのような人生の道程に、光り輝くアナタがいた! いてくれた!❤️❤️❤️」


 いやいや、それ、アル中DVちんぴらヒモ男を己が唯一のトロフィーとしたアナタの母親の人生のリメイクですよね?! 

 不幸の再生産にしかなっていませんよ!?

 ま、まあ族長さんはいいひ…いいオークでくらべるべきではありませんが…


「しゅきぃ❤️ らいしゅきぃ❤️ 私のォ…アナタぁ……❤️」


 ……あー……私、何しに来たんですかね? 

 族長、重すぎる女すらひとコマで折伏するまさに性人

 あー……何か用事があったはずですがぁ……うん、後で考えましょう……


 茜色の空をながめながらポニーにまたがりぽっくりぽっくりぽっくりぽっくり…


 何か、2つ3つ忘れているような気がしますが、まあ…いいでしょう。問題があればその都度ぶん殴ればいいんですよ。

 

 オレンジ色から藍色に変わっていく空をながめながらぽっくりぽっくりぽっくりぽっくり…


 そういえばこのポニーとの付き合いも長くなりましたねぇ…

 栗毛で額に白いワンポイント。

 競馬的には何て言いましたっけ?

 

 前世、ソシャゲのホースガールはやらなかったので馬用語とかわかりませんねぇ…


 ああでも、この馬ヅラは前世で見ましたね、アレは…G1で何度も勝利していたにもかかわらず、私がかなり大口で賭けた途端に名将ドトール号に負けた…


「ポニーさん、アナタの名前はオペラです。いいですね?」


「ブヒヒンッ!」


 名付けをしたが『ぺかー』と存在進化することもなく、そのままぽっくりぽっくりと村の厩舎に向かう。

 あの『ぺかー』だけで美少女や美女になる展開、どうなんでしょう? 話のテンポは早くなり、素早く読み飛ばすweb小説時代には合っていたとは思いますが…

 もっとこう、切断したイモリの四肢が再生するように有機的にジュルっと変体したほうが…あ、厩舎につきましたか。


「さすがに明日は休みにします、アナタもゆっくり休みなさいオペラ」


「ブルルッ!」


 村の厩舎からねぐらの鍛冶屋小屋へは歩きです。夕日に照らされた集落の景色はあたかもジャン・フランソワ・ミレーの絵画のようで、寂寥感や孤独感を…ふむ、私が寂寥を感じているのでしょうか?


 ああなるほど、女騎士団長の独白を耳にして前世の幼年期を思い出してしまったのかも知れませんね。

 盆休みや正月休みになり酒が切れると、いきなり暴れ出し借家の大黒柱をノコギリで挽きだしたり床に穴を開けるアル中DVちんぴ────ごほごほ。

 ……はい、背伸びをするのはいい、自分を大きく見せるのも時には必要でしょう。

 だけど、虚栄心に振り回されてはいけません。自分がついた嘘に、自分自身が騙されるようになるともうダメです。あの人たちは最期までそれを理解してくれませんでしたが……


 鍛冶屋小屋につきました。ところで、鍛冶屋小屋でいいのでしょうか? ひょっとして鍛冶小屋?


「おかえりなさいませマダナイ様」


 私を出迎えてくれたのは族長ハーレムの1人『鍛冶屋の未亡人』です。

 すっかり族長ドリルに洗の…ほだされた未亡人は、族長のために鍛冶業務を担当するようになりました。今のところ裏切る気配は微塵もありません、さす族長。


 未亡人は死んだ亭主より鍛冶の腕は上だったそうで、今ではオーク村の鍛冶屋担当です。

 族長曰く「ハンマーで俺に殴りかかってきた胆力に魅せられた」そうですね。

 族長が取り押さえるまでに一般オークが2体倒されたと聞かされました。一般オークとはいえ勝利した鍛冶屋の未亡人は弱肉強食のオークからも一目置かれ──あ、倒されたオークは死んでないですよ? 打撃でオークを殺すのは至難ですから。


「マダナイ様のおかげを持ちまして金属不足が解消いたしました」


「…………はい?」


「巨大メタルワームの装甲、アレです」


「アレですか…」


 私が最後に仕留めた巨大ワームは全身を金属質の外皮で覆っていました。硬く、しなやかで強靭な巨大ワームの装甲は、並みの武器では立ち打ち出来ないでしょう。


「入手が、人種ならば壊滅的に困難ですが、加工が比較的容易な優良素材です。

ワームのタイプにより、レッドメタル、ブルーメタル、黒鉄と分類されレッドメタルは柔軟性と弾性に優れ刃物向き

今回のブルーメタルは硬さと粘り強さをあわせ持つ鎧向きの素材です。

黒鉄は硬いですが脆いので微妙な素材になります、矢じりには使えますね」


「ふむ…ではアナタはソレで族長さんの武器防具一式を制作してください

デッチ、クーリー、メタルワームの装甲を持って来なさい。忙しくなりますよ」


 デッチとクーリーは未亡人に倒された2体のオークで、弱肉強食の掟に従い族長の妻の1人である鍛冶屋の未亡人の配下におさまり目下鍛冶屋修行中だったりする。

 まあ、あまり物覚えは良くないですが、所詮は一般オークですので長い目で見るしかないですね。

 実は手伝いに来ているゴブリンやコボルドの方が、鍛冶屋の仕事の手順や段取りを理解していたりするんですよ。


「燃料は大丈夫なんですか?」


 よく物語では辺境の貧村に迷い込んだなろーしゅが、たっぷりとした油で揚げた唐揚げや1晩じっくりコトコト煮込んだシチューで現代食無双をしますが、餓死者がでそうな貧村であの油や大量のマキはどこから来たのかと小一時間問い詰め──


「ゴブリンさんたちが石炭を運んでくれますので」


「石炭はありましたか、たしか混じっている硫黄で鉄がもろくなるのでは?」

 

「よくごぞんじで、なので石炭を蒸し焼きにするんですよ」


 そうでした、人間ども、普通にコークスを使っていましたね。この分ならアレも既知でしょうか?


「ところで、灰吹法という手法に心当たりは?」


 戦国時代モノの代表的な金策灰吹法は、前世で軽く調べましたがとにかく面倒くさい作業でしたね。丸投げされた職人はストレスでズルリとアタマが禿げ上がり、さらに燃料として材木を伐採された近隣の山も禿げ上がった事でしょう。


「ひと昔前の、銅から金や銀を分離するやり方ですか。今は錬金術師が便利な触媒を作るのでソレが主流です」


 ふむ、魔法文明がきちんと仕事をしていますか。


「明日滅びそうな国で武器にもならない金や銀が、国や商人たちがとなえるほどの価値があるのか…はなはだ疑問ではあるのですが、国や社会がその価値を保証していますので…」


 鍛冶屋の未亡人よ、さりげなくダークな話題を挿入しないでください。


「そうですね、黒鉄の矢じりの方が黄金よりもはるかに役に立ちそうですしねぇ…」


 鍛冶屋の未亡人と話しているうちにデッチとクーリーが巨大ワームの外殻を引き摺って戻って来たようです。


「では族長の装備をお願いしますよ?」


「おまかせください」


 さて、私はワームメタルで捕鯨にでも使いそうなモリや鎖、鉤爪のついた鎖等を作るとしましょう。

 道具さえ準備しておけば後はオーク達で巨大メタルワームを狩り、素材の入手も容易です。なるだけ現地人だけで回るようにしなければなりません。

 万能の天才なろーしゅが消えたら崩壊する文明なんてお笑いぐさですしね。


 皮革と金属、塩漬け肉、干し肉などの保存食、ニカワもクリア。

 残すは布に綿に干ししいたけでしょうか? もうスローライフしてもいいよね?



「布ですよね、どこかに気立てのいいアルケニーでもいませんかねぇ…」


 弓の弦は麻の糸でしたね。いやまて、たしか鳥の小腸を使う流派もあったはずですね。試行錯誤はマルコやコボルドに丸投げしますか。

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