第9話:やはり創作に気のせいは間違っているのか?!

「ケンゴブ! マルコ! 走りなさい! 必要ならその辺のオークを使いなさい! 時間との勝負になりますよ!」


「ボルタン! 火を! ユミコボは──」




 ……話はすこーし遡る。ってヤツどーなの? 地味にめんどくさい。あとプロローグを回収するのに1000話かかるとかメインヒロイン登場に書籍化4巻目までかか────では続きを




 ケンゴブの救援要請を受けて現場に急行した私は、山のふもとにあるぽっかりと穿たれた大穴に突入した。

 大穴は天然の洞窟や鍾乳洞などではなく単なるむきだしの土壁で、はりめぐらされた森の木の根が所々垂れ下がるシンプルな土の穴だった。

 何の補強もされていない無造作に掘っただけの大穴、崩落の危険がアタマをよぎるが森の木の根の土砂把握力に期待するしかない。

 そんな光のささぬ大穴の奥底で、私はオークのポテンシャルを再確認することになった。


「わずかな光すら無いガチな闇なのに、見えますね」


 赤外線カメラやスターライトスコープなんてチャチなもんじゃねえ、一筋の光もささぬその闇をオークの目は当たり前に見透していたのだ。

 なんか見えるのである。他に言いようもないが、なぜか視えるのである。色彩だけはわからないが、なぜか「私にも敵が観えるぞ!」なあんばいである。

 そんな真の闇の中、音もなく飛来したコウモリ状飛翔体が私のオークボディのうぶ毛に接触した瞬間にソレを察知、直後、デコピン一閃、ミンチになり爆散する飛翔体を謎ビジョンでながめつつハダカNINJAオーク最硬説を再確認する。


「うぶ毛すら肉体チートの一部ですか、まさかうぶ毛に猫のヒゲのような機能があるとは…」


 鎧は『領主のガーブ』や『金剛石の騎士の鎧』のレベル未満は無意味に近いですねぇ。完全武装オーク軍団とか見てみたかったんですが…


 穴を下って行くといきなり道が途切れ十数メートルほどの切り立った断崖になっており、その先には広大な地下空間が広がっていた。

 広すぎる地下空間に落盤を危惧するも、その地下空間の壁や天井は普通の洞窟のような岩っぽい質感で、いきなり崩れ落ちることは無さそうである。

 私は道の端から崖下を見下ろした。


「おお、コレは、糸ミミズ玉を思い出しますねえ」


 穴の底をびっしりと埋め尽くすようにソレが蠢いていた。

 ソレはウネウネズルズルと蠕動し蠢動しからまりあいながら糸ミミズ玉? を形成して天井を目指していた。

 

「ミミズ? ワーム? でもなぜ天井?」


「オヤブン、アレ! アレです!」


「アレ?」


 えぇ…

 見上げた洞窟の天井に、一匹のゴブリンが張り付いていた。

 えぇ…

 オーバーハングどころじゃありませんよ、ソコ、天井ですよ?

 オークだけではなく、この世界のゴブリンもなかなか優秀ですね。

 

「助けてやってくだせえっ!」


 なんだか巨大糸ミミズは天井にはりついたゴブリンにご執心のようですが…ふむ、とにかくアレの習性を探りましょう。

 私は足下から岩を拾うと糸ミミズ玉…巨大糸ミミズコロニー? の向こう側に投擲した。


 バンッ!


「…………音には反応しませんね、線虫にも聴覚はあったはずですが

うーむ、一匹釣ってみますか」


 ふんっ!

 

 念動力で手頃な3メートルサイズを1匹、引っ張り上げる。

 

 ふむ、1匹離しても追いかけできたりはしないようですね。しかし、最近は思考までフ◯ーザっぽくなっている気が…ま、まあ、後で悩みましょう。いまはコレを…

 私はソレを通路まで引き寄せる。


 ギシャシャギャリギャリ…ギガギギ…


 鳴き声かと思いきや、ヤツメウナギのクチのようにびっしりと生えた牙が、電気シェーバーのようにギャリギャリ蠢いて音を立てていただけでした。

 私は口の部分を切り落とし、サクッと胴体を縦割りにする。

 外皮はぶ厚く、質感は大型トラックのタイヤのようで所々硬質なスパイクがついており、その外皮をはがすと中からはしっとりとした筋肉の層、縦割りにした中心部は口から肛門まで一直線の消化器官が──


「……これは」


 予感に背を押され暫定ワームの肉を薄切りにしてひとくち。


「コリ…お? コリコリ…お〜〜〜!」


 コレ、ナマコですやん。三杯酢が欲しい。

 ナマコ酢をアテにぬる燗をちびちび…

 いやいやまとう、ナマコなら干しナマコとして保存食にもなる。海水で茹でてそのまま天日干しだったか? ガラパゴス諸島でナマコを密漁していた連中はそうしていたな。

 ならば河川敷の浜茹でプールで処理できますね。


 あとは、手のひらサイズにカットした肉片を両掌で包み込み…


「私の掌が真っ赤に燃える〜…」


 私の掌でローストされていく肉片、炎とか電気変換は格闘ゲームキャラのたしなみですね、ボルタンがいれば楽なんですが…

 ほどよく焼けたローストワームに塩をひとふり、ガブリ…


「焼くとミノからテッチャンほどの歯ごたえ、それでいて咀嚼すれば圧力鍋で煮込んだ肉のようにほどよくクチに溶け、線虫っぽいのに動物性タンパク質の旨味がまったりとそれでいてしつこく無い絶妙なハーモニーで私の味覚と脳髄を──」


「お、オヤブン?!」


 ワーム肉、恐ろしい子……


「あ、私は大丈夫ですよ。ケンゴブさん、マルコとボルタンを、あと、手すきのゴブリンとコボルドも集めて下さい」


「へ、へい!」

 

 それからは作業である。


 念動力で釣る、アタマを落として縦割り、ゴブリン達に外に運ばせ外皮をむき塩ゆでにした後干す。これが干しワーム。


 念動力で釣る、アタマを落として縦割り、ゴブリン達に外に運ばせ外皮をむき塩水に漬ける。こちらが塩漬けワーム。

 塩漬けワームは後で天日干しにして、ワームジャーキーにする予定だ。


 なお塩漬けの際に使用したのは巨大な竹を輪切りにした竹筒というか竹樽である。

 あらゆる生物が巨大化するこの世界ならではの天然資源に脱帽だ。


 何か忘れているような気もしたが作業は順調に進み、地下空間の床が見えるようになったころソレが現れた。


 ギャリギャリギャリギャリギャギャギャギャギャギャギャギャギシャーーッ!


 でかいのがキタ…


 直径 ≒ 洞窟入口の幅

 全長 ……とても長い


 この時、無造作に掘ったかのような洞窟の穴がいかにして作られたかを理解しました。コイツですね。


「みなさん、洞窟から逃げなさい」





……そして冒頭である


 戦闘? わざわざキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン無駄な描写が必要ですかね?


 私が勝つのが確定的に明らかでしょう?


 ある意味webラクガキ漫画『1拳打男』は最適解だったのかも知れませんねぇ……


 はぁ、現実逃避はよしましょう。この巨大ワーム、でかかったです。

 あー、うん、でかかった…

 そして、美味かったんですよ……


 この美味すぎる食材を無駄にするわけにはいきません。

 豚の手も借り、総動員して処理すべき案件です。豚足食べたい。

 村でブラブラしてる豚畜生の口に炙りワームを一片ぶち込み、もっと食いたければ動けとブタのケツを蹴り飛ばし徹夜でひたすらワーム肉加工を続け、今はすでに翌日の黄昏時。


 コリ…コリコリ……キュ…コリコリ…


 ナマコ酢、けっこう好きだったなぁ…


「先生〜……もうひと息です、端切れを食べてないで働きましょう〜」


「わ、私は族長さんに報告に行きますので、後の差配はマルコさんにまかせます」


「先生ェ〜…」


 球体オークマルコのすがりつくような声をBGMに、ポニーにまたがりポックリポックリ族長小屋を目指してふぁーらうぇい。

 干しワームの方は微妙ですが、ワームジャーキーはオークの糧秣にちょうどよさげですねぇ。


 うん? やはり何か忘れているような…………?

 気のせいで────

 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る