第7話:ほうれん草wwwwwh

 河川敷に造成された銭湯の大浴槽のごとき石組みのプールの中で、大量の白モツと臭み誤魔化しのための何かの葉っぱがぐつらぐつらと茹だっていた。

 前世世界なら数分茹でて臭みを消し、その後で焼くなり煮込むなりするのだがこれらは魔物ジビエホルモンである。

 かなりアクを抜かないと今の私にはきついだろうと、ゴブコボたちに集めさせた香りのキツイ食べられる草と煮込み中だ。

 しかし獣臭い、むしろケダモノ臭い、戦犯は熊とオオアリクイか? 魔物ジビエ、ナメてたよ。香草を、ハーブを、いやむしろ鉄釘や糠? 灰と煮込むべきか?


「はあ、せめて塩がたくさんあれば良かったんですがねぇ…」


「へ? 塩ならありますぜ?」


「あ゛?」


「ヒィッ!」


 あ゛? 塩がある? 私は朝方、岩塩を見せて聞きましたよね? ああ! まさかコレは、コミュニケーション不足によるわざとらしいすれ違いイベント!?


 創作によくあるんですよね、本人にひと言確認すればいいだけなのにそれを怠り力技すぎる不自然なスレ違い、そしてインテリクール設定なのに「ぼきゅがー、ぼっくんが悪いんだー!」と突発的に白痴化、自虐発狂して失恋傷心旅行に飛び出すよ──いまは塩でしたね。


「どういう事ですかケンゴブさん? 私は今朝方、岩塩は無いかとたずねましたよね? まさか、岩塩は無いが塩ならある…ということでしょうか?」


 返答しだいでは沸騰する白モツプールに沈んでいただきますよ?


「へ、へい、イシ塩はありやせんが、塩ならありやすです!」


 ダラダラと冷や汗や脂汗を流しながら答弁するケンゴブ


 なんだと…テメェ…やってくれたな…


「…………どのぐらいあるんですか?」


「た、たくさんです」


 いちーにーさーん、たくさーーん!(ビクンッビクンッ!)

 

「ケンゴブさん、いますぐ、樽1つ分もってきなさい」


「ぇ?」


「2度は言いませんよ…」


「は、はい、ただちに!」


 白モツをプールから引き上げ、ボルタンに火炎の息で加熱してもらっている岡山県石舞台なみの巨石を見上げる。

 コレで焼いたら、焦げついて取れない? いや、微妙に斜めになってるしいけるか?

 いったんボルタンに加熱を止めてもらい、石舞台の上に解体時に出たひと抱えはある獣脂の塊をぶん投げると──


 ジュッ…ボンッ!


 燃えた…むしろ爆発した……


 私は加熱担当のボルタンをチベットスナギツネの目で見つめた。ボルタンはスッと目をそらした。


「オヤブン! 塩を持ってきやした!」


 ま、まあいいでしょう…


 ケンゴブが持って来た塩は、パウダースノーのようなきめの細かい乾燥した良質の塩だった。

 なぜ?? なんとなく塩湖とか地下塩湖とかの再結晶した湿った塩を想定していたので少し悩む。

 ひとつまみ舌の上に乗せてみる。


 ぺろり……うむ、普通に塩だな……いやむしろ藻塩にも似たミネラル大盛り感な深みのあるテイスト。

 

 考えるのは後だ、とりま加熱しすぎた石舞台に念動力で球状に持ち上げた川の水をぶっかけ──


 ボムッ!


『グギャアアアアッ!!』


 水蒸気爆発で吹き飛ばされたゴブリンやコボルドが泣き叫びながら川に飛び込む。

 ああ、ナルホド、熱かったんだね、すまぬ。私とボルタンは平気だったよ。(知ってた)

 それでも川に飛び込むだけでリカバリーできるこの世界のゴブリンとコボルド、丈夫だな。表皮ぐらい火傷でベロンとむけそうなものだが…


 水を打ち、ほどほどに石舞台の温度を下げ、再び獣脂を投入。脂がにじみ出したあたりで白モツを投下した。


 ジュワッと肉の焼ける音と香ばしい臭い。ほどよく焼いて念動力でひっくり返し、相撲の土俵入りのように塩を打つ。


 むろん最初に口にするのはこの群のボスである私とボルタンだ。


 ザリリッ…ガツミノの弾力ある歯ごたえと噛みしめるほどに流れでる内蔵肉の旨味。


 アタリだ!


 ザリリッ、ザリッ、モグモグ…あっ…


 石舞台の上の白モツを、ボルタンと2人で半分ぐらい喰らった後にゴブリンとコボルドを思い出した。

 何事もなかったかのように焼き上がった残りの白モツを近くの岩の上に取り分け、新たな白モツを石舞台を覆い隠すほど大量に投下し、力士の土俵入りのごとく豪快に塩をふる。食欲を刺激する香ばしい焼肉の臭いが河川敷を蹂躙した。


「アナタたち、食べたいですよね?」


 答えは肯定である。


「ならば、食べる前に私が教える言葉を復唱しなさい、いいですね?」


 ヨダレを垂れ流しながらコクコクと首肯するゴブコボども。


「覚えなさい…」


「報告! 連絡! 相談!」


「さあ、繰り返しなさい!」


『報告! 連絡! 相談!』


「まだですよ! 次です!」


「いつ! どこで! だれが! どうした!」


「ハイ、復唱!」


『いつ! どこで! だれが! どうした!』


 あれ? 5W1H? when、where、who、……do??

 …………ナニカ足りない? ……まあ、いいでしょう。これ以上細かくしてもコイツラ記憶しそうにありませんし。


「もう1度!」


『報告! 連絡! 相談! いつ! どこで! だれが! どうした!』


「ヨシ! さあ、お食べなさい!」


『ウオオオッッ!!』


 ゴブリンとコボルドがいっせいに石舞台にむらがる。


 ジュ…


「グギャアアアアッ!」


 うん、絶対にやると思っていた。何匹かが焼けた石舞台に直接さわり手や足を焦がして川にダイブしていく。

 その様子をながめながら、私とボルタンは横に分けて置いた塩焼きホルモンをモシャる。


 ザリリッ…モグモグ…モギュ…モギュ…


「あ、あの?」


「うん?」


 唐突に私に話しかけてきたのは真っ赤な球体だった。いや、球体に近い福々しい体型のオークだった。

 このカラーリング、記憶にありますね。

 『赤い』と謳いながら実はアニメ制作会社で余っていたピンク色。

 小学生だった私が初めて制作したガン◯ラ、100分の1スケールMSー◯6Sのピンク色!

 そのピンキーな球体オークが私の前に畏まっています。


「なんでしょう? ふむ、はじめましてですかね? 私はマダナイ、相棒のうりぼうはボルタンです。あなたは?」


「お、オイラは、あ、あの、その──」


 コミュ障のオークもいるんだな。


「とりあえずアナタもアレに参加なさい、後で話はうかがいますよ」


「は、はいっ! ありがとうございますっ!」


 球体オークは焼肉(になる)パーティーに吶喊していった。


 ジュッ…


「ブギィイイイィィッッ!」


 うむ、やるだろうと(以下略)


 私は石舞台にホルモンを追加しながら、ボルタンと2人でこっそりハラミを焼く。ハラミは、横隔膜を動かす筋肉でなぜかホルモン扱いの赤身肉だ。

 クソGHQが植民地間接統治のエサとして中間管理奴隷頭ポジの外人やら特定少数部族に与えた肉利権、その微妙なかけひ──ごほん、まあ今はそれは置いておきましょう。


「ハラミも美味いなボルタン」


「ブヒブヒ」


 足が早い内臓を欠食ゴブリンコボルドで処理しつつ、私は生レバーに塩をふる。

 レモンがあれば良かったのだが、それはおいおい探すとしよう。

 ひとくちサイズにカットされたレバーをひとくち…


「うぐっ、血なまぐさい、内臓ケダモノ臭い…えもいえぬエグみががが」


 失敗だ、たしかひと晩水にさらして血抜きするとかひと晩ごま油に漬けて血抜きするはずだったな。

 しかしなつかしいな、年末の忘年会で焼肉王子で食べた生レバーを思い出す。

 クリティカルヒットで正月休みの間ずっと、布団と便所を這いずりながら往復してすごしたっけぇ…

 正月休みなのに口にしたのはポカ◯スウェットとアク◯リアスだけだったなぁ…。焼肉王子と鳥華族だけは死んで転生してもゆるさん。


 しょーがない、私は残りの生レバーを石舞台にぶん投げた。

 

 白モツ祭りが終わり、ハラミやツラミやハツにテールあたりが投入されるころ、球体オークが私たちの前に戻ってきた。

 どうやら白モツから焼きレバーにいたるまで、ひと通り食べ尽くしたらしい。


「あ、あの…」


 球体オークがもぢもぢと話しかけてくる。


「私はマダナイ、連れのうりぼうはボルタン、要件を、重要なことがら、緊急を要する案件を優先し、簡潔に述べなさい」


「…………美味い肉が食べたいですマダナイ先生!」


 私はこの日、精肉担当の手下を得た。

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