第6話:冒険者の魔女

 手下が3人増えると言ったな?

 アレは嘘だ。


 今、私の目の前には50人ほどのゴブリンコボルド混合集団が胡座&相撲のソンキョ的なポーズで控えていた。

 内訳はゴブリン30人、コボルド20人ほどだろうか?

 転生6日目にして小集団のボス豚である。まあ、平均的ななろーしゅと言えるだろう。


「ブヒッ?」


 ボルタンがコレどーするの? とうったえてくる。


「ああ、そうだね。あー…ー……アナタ、昨日のケンゴブさん、これはどういう事ですか?」


 集団の先頭にいたナタゴブリン改めケンゴブリンに尋ねる。


「昨日頂戴した魚を分けたらついてきやして…」


 野生動物に人間の食物を与えてはいけない定期


 ふと思ったのだが、異世界の現地人に地球グルメ無双ってようするにアレですよね? 

 昭和のクソバラエティ番組で、暗黒大陸の原住民を東京の繁華街に連れ出してカルチャーショックに驚くさまをブラウン管の向こうでせせら笑う、あの品性下劣な企画と同じ属性の何かではないかと──おっと、いまは目の前に集中しなければ。


「まぁいいでしょう、少し待ってもらえますか?」


 私は鍛冶屋小屋に戻り用意していたサンプルをテーブルごとコブコボ達の前に出した。あって良かった念動力。

 テーブルの上には、黄銅鉱、たぶん鉄鉱石、おそらく石炭、味は岩塩、あとよく分からない謎の鉱石のサンプルが並べられた。


 繰り返すが私は酪農家でも畜産業者でも鉱物学者でもない、カンとトライアンドエラーでやるしかないのだ。

 ちなみに鉱石サンプルは鍛冶屋小屋の持ち主の物だ、弟子の教育にでも使用していたのだろう。


 正直、このBANZOKUの隣人たちに期待してはいない。無ければ野菜人のごとく人間から奪い取るか定番のドワーフ、あるいは山奥の鍛冶屋マスターサイクロプスでも殴り倒せばいい。


 暴力は全てを解決するのだ。


「私は金属を生産したいんですよ。それでこういった原材料を探しているんです。ああ、岩塩はついでですね」


 ゴブリンとコボルドはテーブルを囲んでなにやら意見交換をしていたが、なじみの剣ゴブリンと弓コボルドが私の目の前に立ち手にした物を掲げて


「ダンナ、この黒い石なら見たことがありますぜ!」


 石炭クリア


「こ、これならシッてるっシャ!」


 そう言って弓コボルドが掲げたのは、謎鉱石だった。黄銅鉱でも鉄鉱石でもない謎鉱石だった。


 ほう、そう…来た…かぁ……


 黄銅鉱ならわかりやすい。web小説に馴染みが深いなら鉄鉱石の画像チェックぐらいはする。

 だがしかし、亜鉛やスズやクロムなどは専門家しか判別は無理だろう。ボーキサイト? 知らない子ですね。

 謎鉱石かぁ…

 む? ゴブコボどもを待機させたままではまずい。


「おお、石炭と(謎)鉱石ですか、素晴らしい。それらを、アナタたちの負担にならない程度でいいので集めてもらいたいのですよ。お願い出来ますか?」


「まかしてくだせぇっ!!」


「え、ええ、たのみましたよ」


 と、送り出したものの不安しかない。

 謎鉱石がボーキサイトだとしたら火力発電所2〜3基ぐらいの電力で電気分解するのだったか? うむ、わからん。


 ゾロゾロと村を出ていくゴブコボ集団を見送りながら本日の予定を狩りに定めつつ馬小屋へ。ポニーの飼葉と水を…あれ? 思っていたより忙しくないか? 私のスローライフが遠のいていく…


 ところで、創作物によくありがちだが、ベガーや被差別種族やぬんぢゃなどに禄や食べ物を与え、1人の人格として平等に(苦笑)相対すると、いきなりソイツの忠誠心がMAXになるご都合お花畑展開がわりとよくある。

 

 無いな


 結局、ダーウィンのフィンチだ。ドブドロ環境ドブドロ人生で歪んだ性根、歪んだ魂はDNAレベル種族レベルで定着している。

 本人が望んだものでも選んだものでもないだろうが、そういうものだ。わかれ。ソースは私だ。

 裏切らないぬんぢゃは居ないし、忠誠心パラメータを実装したマスゴミも居ない。

 奴らは息をするように嘘を吐き、デジタルに裏切る。

 

 下種どもは利でしか動かぬと、かの太公のぞむ師叔も言っておられただろう?

 

 なので、ゴブリンやコボルドに過剰に期待はしない、話半分ほどほどに…




 かっぽんかっぽんかっぽんかっぽん…


 ポニーの蹄の音をBGMに森側の狩場をめざす。あー、蹄鉄も作らないとな、鍛冶場を占拠しておいてよかった。

 後はあの謎鉱石がなにかの素材に使えることを祈ろう。




 狩りについては特筆すべきことは無い。ゴブコボどもへの報酬に余分に狩る必要があるので見敵必殺である。

 私、ボルタン、ポニーの3匹で狩った獲物を引きずり森をぬけ、族長小屋の横を通り──


「ドリルドリルゥ❤️ ヒッヒャア…アッ❤️ ドリルクリュドリルクリュドリルクリュドリドリドリモギュゥッ❤️ つ、仕えましゅっ! おドリルしゃまにおお゛お゛…ン゛❤️ お仕えしましゅぅっ❤️ ん゛あ゛あ゛あ゛っ!❤️」


 族長は忙しいヨーダ……狩りの成果のいくらかをおすそわけするのは、別の機会にしよう。あ、アレ、昨日鹵獲した魔女かぁ…

 たしかあの魔女、族長のことをオーク亜種? 上位種? って言っていたか?

 なんだかんだハーレムを増やしているし、族長、オーク物語とかの主人公なのでは? 旧作銀河の英雄伝説並みのイケボだしなぁ。


 すると、オババがストーリーテラーで、私はなんだ? 真田さんポジションか?

 一応、皮と麻と金属器は再現したいと考えてはいる。オークども、いまだに腰みので、私に至っては実はずっとフル・フロンタルだしな。


 うむ、まずは皮だな。いや、チ◯◯ンの皮の事じゃないぞ革のことだ。


 私は川沿いの鍛冶屋小屋のさらに下流にある村の肉屋と皮革屋コーナーに向かう。

 重金属や危険な触媒を使用する鍛冶屋の下流に食肉処理施設はまずくないか?

 まだ公害病などの情報が無いのだろうな。


 食肉処理は確かに血なまぐさいし、皮革処理はとにかく臭い。中東の伝統皮なめしなどは鳥糞汁に腰まで浸かってザブザブなめしていたな。とにかく皮革関連はやたら臭いのだ。

 嫌われるのも仕方ないが、社会に絶対に必要な職種を臭いからといって毛嫌いし、賤業などと貶すのは違うだろう。

 だが高校の近くの皮革加工場、キミ、本当に臭かった。夏場は教室までスメルが押し寄せて来て控えめに言って悶絶級。村外れに追いやられるの、是非もなしよ。

 

 それはさておき、今、処理されるべき獲物は鹿っぽいやつ2頭、熊っぽいやつ、そしてオオアリクイっぽいやつだ。

 獲物たちはこの世界の法則? に従いかなり大きい、そしてオオアリクイっぽいやつが1番大きい。いや大きすぎるのだが…

 こいつらはすべて私が真っ直ぐ突っ込んでぶん殴り殺した。オークは、いや私はかなり強者らしい。


 さて、思い出せ私! 食肉系反社のIさんと見物に行ったみなみ港の食肉処理場を、その流れを!


 ぬ゛う゛ぅ〜〜ん゛!


 念動力で4頭を逆さ吊りにし、血抜き。

 たしか先に皮をはいでいたはずだ。

 排泄器官まわりの皮をぐるりと切り、首までカット。手足の先端を落として中心からそこまで切り込みを入れ、皮をはがしにかかる。


 ぐぬぬぬ…

 メリメリと音を立てて剥がれる皮。


 そして次は…と考えたそのとき「ハラを割って先に白モンを出すんですわ」と、Iさんのしゃがれ声が聞こえた気がした。


 ミノやマルチョウ、シマチョウですねわかります。中身を傷つけないようにサクッと入刀。

 ぶぢゅるる…と、湯気を立てたほかほかの白モツがこぼれ落ちPiiiii(…しばらくお待ちください)


 ゆーかいーなー仲魔がーぽっぽっぽ…


 あなろー熊♪ あなろー熊〜♪


 念動力が無かったらどうなっていた事か、ありがとう念動力、ありがとうチート。

 あの後残りのモツを掻き出し、ハツ、ハラミ、レバーを選り分け、肺や気管支などは好みではないので処分。

 ここまでやってから肉を冷やしていなかった事に気づいた。


「私としたことがしくじりましたね…」


「ブフゥ?」


「あ、いや、うむ、まあ、次に活かそう」


「ブッ!」


 冷凍庫が無いから、先に川などに浸けて冷やさないとダメじゃないか。解体する前に言ってくれよIさん。

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