第5話:タイトル、面倒くさいず

 ガッチン漁、さすが漁協に禁術指定されるだけはある。


 こうかはばつぐんだ!


 この世界の生物はとにかく大きい。鮎っぽい草食魚がハマチ(40センチ)ほどに育っている。メートル超えの肉食魚もプカリプカリと浮かび上がる。食物連鎖は破綻していないのだろうか? 少し不安だ。


 いや、30センチのジャイアントザザ虫を喰らう魚ならメートル超えは当然か。

 まだ見ていないが、30センチ超えのジャイアントタガメやジャイアントタイコウチ、ジャイアントミズカマキリ等がいれば水場は地雷ゾーンだろう。子オークならまだしも、人間の子供なら普通に死ねるな。


 いないよな? ジャイアントタガメ……東南アジアなら唐揚げだったか、いてもいいぞ、タガメよ。ああ、油を、食用油をさがさないとなぁ…


 まだ見ぬ水生昆虫にビビリながらのガッチン漁だったが、大漁旗を掲げてもいいぐらいの水揚げだった。

 

 そして、浜焼きである。


 焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いては食い焼いてはむさぼり喰らった。


「ボルタン、美味いな!」


「ブギッ!」

 

「ボルタン、魚のアタマの、ほらここだ…目玉やその周辺を食べると頭が良くなるらしいぞ」


 あまりアタマに自信の無い私は、進んで目玉やその奥の脳みそを喰らう。DHAだ。

 今のうちから食育すれば、村一番の秀才オークになれるかも知れぬ。

 だが、コレ、医食同源の理屈で脳みそを喰らえばいいだけなのでは? 脳みそかぁ…味は白子に似ているそうだが、うーむ……

 そんな食育だが、うりぼうな兄弟は最初から骨も残さずにむさぼっていたので、目玉うんぬんは関係無かった。


 たらふく喰らった後は残った魚も浜焼きにしてツルで数珠繫ぎに。

 見た目は新巻き鮭の塩分少なめである。

 そんな状態の浜焼き魚をたきぎのようにまとめて背負いねぐらの鍛冶屋小屋に向かうと、来客が玄関前でまちぼうけていた。


「おやおや、朝方の皆さんではありませんか。どうしたのです?」


 咄嗟に出た宇宙の帝王ロール。なぜだ?


 荷馬車を引いたゴブリン剣士、ホブゴブリン肉盾、スリングコボルドの3人が地面にあぐらをかいて座り、両の拳を相撲の仕切りのように大地に押し当て頭を下げる。

 オークやゴブリンコボルドの作法なのだろうか? うむ、わからん。


「楽にしてください。それで、どういったご用件ですか?」


「い、言われたとおり、人間、ブツ、処理した」


 なぜか緊張気味に報告をしたのはゴブリン剣士だ。彼が示した荷馬車には武器防具や何かの道具に物資が積まれている。

 しかし、この馬車? いや、小さいな。馬は子馬、ポニーか? 荷馬車もコンパクトで深夜早朝の卸売市場を走るターレットほどの大きさしかない。

 んー、狭い林道や獣道を進むためにこの大きさになったのだろうか?


「この馬車は?」


「村外れに隠してあった、見つけた。

人間たちの馬車。

倒した奴のモノ、持って来た」


 答えたのは剣士ゴブリン。ホブゴブリンではなく彼がリーダーのようだ。


「あなた方が使って良かったんですよ?」


「ダメ」


 ふーむ、何かBANZOKUルールのようなものがあるらしい。エビ春巻きとカニ玉が食いたい。

 あの後オババに聞いたが、一応オークとゴブリンやコボルドなどの種族はゆるい同盟っぽい関係らしいのだが、弱肉強食の世界ゆえかオークの地位が高いように見える。


 私は荷台のブツとゴブコボ3人を交互に見やり


「それではこうしましょう」


ゴブリン剣士:鋼の小剣(グラディウス)、魔女のショートブーツ、魔女の腹巻き(コルセット)

 ゴブリン剣士、なんというか、腹巻きとドスを装備した893のサンシタに見えなくもない。

 ぽっこりお腹矯正コルセットがゴブリン893の腹巻きになるとは魔女も浮かばれまいて…


ホブゴブ肉壁:剣士の革鎧、シールダーの鋼の盾、あまった短剣、物置きで見つけた脱穀用フレイル

 地味に堅実な仕上がり。


スリングコボルド:弓士の弓矢&矢筒、誰かの短剣、魔女のローブ

 うーむ、コボルドのほうがスタイリッシュなんだよなぁ…


「まあ、こんなところでしょう」


 ゲームでザコメンバーに装備を分配する気分で試行錯誤サイズ合わせを繰り返し、こんな感じで配布した。

 戦闘力を上げて頑張ってくれ。

 肉盾ホブゴブリンにも何か良い武器を与えたかったが、丁度いいサイズの物も見つからず物置きで見つけた脱穀用フレイルになったのはご愛嬌だ。

 結果、身長の関係で装備できなかったモノが私の手元に残った。フルプレートアーマーなどの鉄や鋼は後で再利用しようと思う。


 もちろん、彼らを装備で懐柔しようとしたのには理由がある。

 馬車、いいですね。さあ鳴くのはお吉妖精犬〜♪

 スローライフには必須の馬車。なんなら馬車をキャンピングカーにしてもヨシ。これを双方不満なく円滑に最優先で確保するためだ。


 さて交渉を…と思ったの、だが…


「イ、イイノカ?」


「うりぼうの私が使うより、アナタ方が使ったほうが役に立ちますよ」


 私なら殴ったほうが早いですしね…と口の中でつぶやく。


「ウッヒョー! 話がわかるぜ子オークのダンナ!」


 これがゴブリン剣士の地のようだが、子オークのダンナ…なんて頭の悪い言葉の暴力だろう…


「ウオッ! ウオッ! ウオッ!」


 ホブゴブリンが鋼の盾にほおずりをしている。盾表面の鋲でほほに赤い切り傷が刻まれていく。やめなさい。


「弓! 弓! ネライウツッシュ!」


 コボルドは弓の弦をかき鳴らしながらトカゲっぽい尻尾をびたんびたん振り回している。


 よし、計画どおり(新生世界の神の微笑)


「気に入っていただけてなによりです」


 褒賞はケチってはいけない。さらに倍プッシュだ!


「まちぼうけでお腹も空いたでしょう。これはさっき獲った魚です。みなさんで召し上がって下さい」


 丸焼きにしたキワダマグロ大の魚の束をゴブリン剣士の前に押し出す。

 実は魚の中心まで火を通すのに少し苦労した。おかげでボルタンと私の小技が増えたのは嬉しい誤算だ。


「イ、イイノカ?!」


 イイノカ2回目、普段はオークどもに搾取されているのだろうか?  

 豚畜生ども、遊び半分で無邪気にゴブリンやコボルドを蹴り飛ばしたりはしていそうだな。


「あなた方とは共に戦った、いわば戦友です。戦友と戦利品や食料を分け合うのは当然ではありませんか

人間に倒されたゴブリンさんやコボルドさんの分まで、ごはんを食べて強くなってください」


 うーむ、どちらかと言えばフ◯スト? 偽善者臭が酷い。ゴブリンやコボルドがスレてないことを祈ろう。


「……わかった」


 ゴブリン剣士はホブゴブリンとコボルドに目配せ、ホブゴブリンとコボルドはうんうんとうなづいた。


「俺たちはアンタの配下にならせてもらうぜ!」


「ウオッ! ウオッ! ウオッ!」


「シャッシャッーーッ!」


 うむ、わからん! 物心がついて5日目のうりぼうにどうしろと言うのだ?

 ボ、ボルタン? クッ、またどこからか手に入れた蛇を貪っていて聞いてないじゃないか…

 BANZOKUの慣習的なナニカだろうか?

 部下か、まあ──


「まあいいでしょう。今日は魚でも食べて休んで下さい。

明日、ええ、少しお願いがあるので、明日また来てもらえますか?」


「わかったぜ、子オークのダンナ! いや、オヤブン!」


 3人は焼魚の束をかついで意気揚々と村を出ていった。住処はこの村ではないのか。

 望んで手に入れたが、ポニー、どうしたものだろう? 馬屋、厩舎? いや、村にはあるにはあるが、そこに入れておくと豚畜生共が勝手に馬刺しにする可能性ガガガ…

 いやまったくどうしたものか…


「ブフッ!」


 む!? ボルタン? 

 ふ、ふむ? 厩舎でポニーと一緒に寝るから大丈夫? ……さすが私の兄弟、男前だ。


 古事記でも警告されているが、単独で宿屋にとまると肉まんや奴隷にされる危険な世界もある。わざわざ敵地でふた部屋とって


「お、おんにゃにょこがボキュとい、いっしょの部屋はイヤだよね?」


などと、息子を大きくしながら気色悪く紳士ヅラする連中の気がしれない。

 宿屋でまずすることはカギのチェック、隠し通路の調査、天井裏や床下の確認。

 就寝時はドアの前にバリケードを築き寝台にダミーを作り自身はベッドの下で眠る。ダミーの上か下に鉄の盾を仕込めればなお良し、これが基本だ。


 なのに、バカなのか? なにが


「ふたへやおねがいしましゅ! おとこのことおにゃのこがいっしょのへやはまずいとおもいましゅ!」だ、この面倒くさいやり取りを何度──


「ブギッ?」


「すまん、意識がそれていた。その案でたのんだボルタン」


「ブッフー!」


 ちなみに馬小屋はうりぼう小屋のとなりだった。

 馬小屋で発見した馬手入れセットのブラシでポニーの背中をブラッシングしていると、ボルタンがじっと見つめてくる。

 わかった、しばしまて兄弟。

 はからずも扶養家族(馬)が増えてしまったが、手下も3人増えた。ポニーのブラッシングを終え、待っていた兄弟の剛毛と戦いつつ1日を振り返る。


 狩りを重視しつつ食料の確保、できれば畑をなんとかしたいものだ。冬場のポニーの飼葉をどうしたものか。


 その日の夜は食糧庫からちょろまかした新鮮な両脚羊の肉を焼いて食った。さばいたばかりで熟成が足りないその肉は、羊なのに味は豚肉に似ていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る