第4話:鍛冶屋の未亡人

「ごるあ゛あ゛あ゛っ!」


「お゛ん゛る゛ぁあ゛あ゛ぁっシャッ!」


「ごら゛ぁっ!」


「ゆ゛ゃな゛ばま゛ん゛がぁっら゛!」


 朝だ…


 私の転生5日目を祝福するかのように


「しゃら゛ぁあ゛んや゛ろ゛っ!」


「ぐる゛がり゛ゅあ゛っ!」


 お外ではヤカラかチンピラが元気にさえずっていた。

 そういえば、前世で読んだ作品の中には1日100地球時間あるのではと思えるほどの波乱万丈な作品があったな。その作品の主人公は4日か5日で現地貴族に謁見していたっけ…

 私は順調にスローライフで安心である。

 余談だが、1日を24分割したのが1時間なのでどんな惑星や異世界でも1日は24時間、どんな巨大な星でも高速自転する星でも1日は24時間だ。


 イメージしてほしい。「1日は何時間だ?」とたずねると現地人が「この惑星の1日は26.7364地球時間です」などと答えたら良くてSFヘタすりゃホラーだ。


 それはさておき、私が水瓶から水をすくい顔を洗っていると兄弟改めボルタンが器用にドアを開けて外に出ていく…ドアは開けっ放しで、つまり一緒に見に行こうという事だろう。

 私は顔の水滴をぬぐうと兄弟の後を追った。


「ゴブリンにコボルドごときぐる゛がぁっ!」


「ギギッ、人間ふぜいギガァッ!」


「ぐる゛る゛…マルカジリッシャー!」


 現場では人間半グレチームとゴブリンコボルド混成チームが争っていた。

 ゴブリンは定番の緑黄色野菜色の小鬼、コボルドは犬顔……ではなく、所々ウロコや羽毛のある猫背の二足歩行トカゲでやや犬より顔。

 どちらかと言われればポストアポカリプスなSFで荒野を徘徊してそうなフォルムであり…モフり要素や癒し要素は皆無だった。


 のどかな早朝の寒村で始まった人間半グレチーム4匹VSゴブコボ5匹によるチームバトル。


 内訳は人間半グレチーム、盾士、剣士、弓士、おそらく魔法使い。

 ゴブコボ混成チームが丸太ホブゴブ?、棍棒ゴブ、ゴブ剣士、竹槍コボ、スリングコボだ。む? 竹があるのか?

 ゴブリンコボルド混成チームは数こそ多いが、あ、竹槍コボルドが半グレ剣士に竹ごと斬られ、棍棒ゴブリンが弓矢でヘッドショットされた。


 人間が革鎧に鉄あるいは鋼の武器に対してゴブコボ混成チームは天然素材武器に腰みのである。劣勢はやむなしか。


 あ、そうでもないようだな。


 動きのいい剣士ゴブリンが折れてナタのようになった片手剣をふるい奮闘、そしてスリングコボルドがスリングを振り回して牽制に援護に活躍していた。

 丸太ホブゴブと半グレシールダーはお見合いだ。


 しかしすごいなコボルド、文明レベルはオークより上だ。


 スリングは、前世世界のフルチン英雄ダビデが巨人を倒す時に使った投石補助具である。

 革紐の真ん中に石を入れ、ぐるぐる回して遠心力を利用し飛ばす。速度は時速140キロだと何かで読んだ気がする。

 140キロの硬球でも当たればのたうち回る痛さだ、当たりどころが悪ければたまに死ぬ。それが石なのだから威力は推して知るべし。


 コボルドがチーム半グレの前衛と後衛を直線で結ぶ位置からスリングショット、半グレ前衛は後衛を守るために回避はせず左手の小盾で防御、一瞬半グレ前衛の視界が阻害された隙にナタゴブリンがヒットアンドアウェイ。


 創作物によくある『主人公以外全員バカ』いわゆる『白痴結界』などとよばれる異常行動世界では無いようだ。


 残念、イージーモードでは無いか。


 おや、チーム半グレがゴブコボ混合チームの連携に慣れてきたらしい。半グレ後衛の弓や魔法によるカウンターが决まりだした。ふむん…


「ボルタン、背後に回って退路を断ってくれ。私は横から行く」

 

「ブッ!」


 主語が曖昧な指示でも即座に的確に理解したわが相棒。さすがだ。

 猟犬のごとく走りだしたボルタンを横目に、私は現場の横位置にこそこそ移動しながら前世の少年少女が主役の物語を思い出していた。

 物語ではたいてい窮地に陥ったヒロインを主人公が助けるのだが、その際『うおおおっ!! ヒロインをはなせぇっ!!』などと叫びながら格上の敵に殴りかかるのだ。


 雄叫びをあげて、格上に、殴りかかる…

 

 それは違うだろ? 


 ヴォンッ…


 私の光の鞭が人間チーム半グレの首から上を切り飛ばした。胴体部分を狙うとゴブリンコボルド混合チームまで切り飛ばす可能性があったからだ。

 黙って不意打ちこそ正義、剣道の『メェーーン!』や柔道の『ヤーッ!』などのかけ声はスポーツだから推奨されるのだ。実戦なら静かに殺れ。

 これで半グレチームは壊め…あ、1人残った。低身長の後衛が1人残されていた。

 だがすでに戦意は喪失したようでその場にうずくまりブツブツ何かをつぶやいている。


 舐めプや油断で敵を自由にさせ、わざわざ自分から窮地に陥るのは稚拙なお話づくりだ。私はチビ後衛に素早く近づいて死なない程度にボディーブロー。後衛はグリンと白目をむいて昏倒した。ちょっとキモい。


 手早く装備をはぎ取り全裸にして拘束し、口には猿ぐつわ。指輪やイヤリングの1つすら残さない。本来なら毒やプラスチック爆弾を仕込んでいそうな歯を全て抜き取り、すべての穴に棒を刺して中身をチェックするのだが…


 ゴブリンコボルド混成チームの存在が素早い判断と行動を私に要求してくる。

 困ったな、オークとゴブリンコボルドの関係性、立ち位置が不明である。適当にまとめるしかない。


 パチパチパチ…と、私は微笑みつつゴブコボ混成チームに拍手を送る。


「みごとな連携でした。ですが、長引くようなので僭越ながらお手伝いさせていただきましたよ。

ああ、アナタたちの獲物を取るつもりはありません。これらはアナタたちが適切に処理なさって下さい。

ですが、この生存者はいただいていきますよ? オーク族長に報告しなければなりませんからね」


 なんとか威厳っぽいものを保とうとしたら、どこかの宇宙の帝王風になってしまった。

 私の戦闘力は53万もマダナイ……タブソ。

 ゴブコボたちはあっけにとられでフリーズしているようだ。逃げるなら今しかない!

 

「では皆さん、後は任せました。いきますよボルタンさん」


「ブオーン!」


 ボルタンはノリが良かった。

 

 私は念動力で人間を浮かすと(やれば、できた)うりぼうを従え、後ろも見ずに族長小屋を目指した。族長に丸投げしてしまおう。


「いいわ…私たちをァ❤️ お、おいてフぅ…っン❤️ 逃げたあんな人より、ずっと…ふぁア…❤️ あ゛っ…あ゛っ…あ゛っ……くぅっ❤️ こ、これが、オンナの幸せ……❤️ んくぅううっっ!❤️ んああっン!!❤️」


 族長ォ…


 カッカッカンと一応ノックを


「族長さん、いらっしゃいますね? 急ぎのお話があるのですが?」


「む? どうした?」


 族長、旧作銀河な英雄譚のどこかで耳にしたようなイケボだった。


「先ほど人間の小隊とゴブリンやコボルドが戦闘になりましてね

ソレは始末したのですが威力偵察の可能性もあるので報告にきました。

くわしくはソレに聞いて下さい」


 私は族長小屋にす巻きにした人間をおろした。ちょっと個人的な興味があったので念動力で猿ぐつわを外してみる。


「ほう、人間のメスか」


「あァァ、オークの上位種がいたなんて!

クッ、私は絶対に、ドリルなんかに屈したりはしないわ!」


 なんとなく先が見えた。


「では私は失礼します。しっかりと尋問してくださいね?」


 族長は尋問に忙しくなるだろうからしばらく放置だな。

 とりあえずオババえもんに聴いてみるか、この村のことやオークとゴブコボや人間の関係性などを。


「あ、忘れてた」


 ボルタンと並んでオババの小屋を目指して歩きながら重大な儀式を思い出す。


「ブゥ?」


「ああ、つまらない様式美なんだが、初めて人間を殺したらわざとらしく葛藤しないといけないんだよ」


 うりぼうなボルタンが「ハァ? コイツ何言ってんの?」な視線を向けてくる。


「つまりだな、人を殺したあとに激しく動揺して見せることで、ボクは見境なく人間を害しませんよ、ボクは既存の社会の、アナタ達のルールやモラルを遵守したいんです。

人道、道徳、自虐反省バンザーーイ!

でも今回はやむにやまれぬ事情で仕方なくSATSUGAIしたんです。本意ではないのでボクを仲間はずれにしないでくださいね…とねちっこくアピールしないと【自主規制】に【自主規制】んだ」


「ブゥ…ペッ!」


「うん、そうだね。それでそのお約束と言うか様式美で……

ボ、ボキュは、ボキュは人を殺してしまったぁ~

ボキュわぁ〜ボキュわぁ〜とりかえしのつかないことおぉ~

ボキュわ悪い子でしゅ〜、罰を〜、罰を与えてくだしゃいぃ〜」


「なに遊んでんだい…」


 ボルタンと話しているうちにオババのねぐらに着いていたようだ。

 お約束を踏襲するならウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂウヂ泣き言を垂れ流した後に、ヒロインによしよしアナタは悪くないわ〜と甘やかされなければならないが…

 ヒロインか…

 目の前には黄泉醜女ほどの美しさのオークオババが…うん? オババはオークか? 洋風ヤマンバ的な種族疑惑が…たしか


「なんだいマダナイ、その目は?」


「ナンデモナイヨ。ところで聞きたいことがあるんだが?」

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