第3話:助けて! 転生タグが息をしていないのっ!?
新しい朝が来た、希望はマダナイ
結局あの後、私たちは鍛冶屋跡を住居と定めた。
鍛冶屋は村はずれに建っていたので、族長小屋や繁殖部屋から遠い鍛冶屋は放置されていたようだ。
立地や設備はかなり良好で、近くには水路が走り水車小屋の水車がゆっくりと回っていた。
理想的なスローライフかと思われたが、おそらく近々血で血を洗い生命を投げ捨てるスロウライフが手ぐすね引いて待ち構えている。
私は鍛冶場の隅に置かれた水がめから水を汲むと頭からかぶった。
手で顔をブギュルブギュル拭っていると隣に兄弟が来て目でうったえたので兄弟にも水をかける。
兄弟は濡れた犬のように身体をふるわせて水気を飛ばしていた。
「……兄弟?」
「ブフッ?」
「朝飯を食ったら、出来ることをさがそうな」
「フゴッ」
とりあえずメシだ。私はカマドに火をつけ…火をつけ…………火打ち石? フリント?? わからん!
「……兄弟来てくれ、そして火をたのむ」
我が兄弟がカマドにシュゴーと炎を吐き出す。魔法、便利だな。
兄弟の力を借りてマキに火をつけると、食糧庫からちょろまかした肉を焼いていく。
黒い煤まみれの鉄のフライパンには油をしかなかったが、肉からにじみ出る脂でなんとかなった。
焼き上がった肉に軽く塩を振って食べると、微妙にクセのあるその肉の味は豚肉に似ていた。
私がひと塊り食べる間に兄弟は3倍ほど貪っている。やはり食料の確保が急務か…
食料の確保と、私たちの修行を最優先にしつつオーク生活を楽しもう。
「狩りをするならやはり弓だろうか?」
兄弟と共に開けた場所に出た私は、推定魔力(電気)呼び起こす。
身体にめぐらせ、手刀に集め、シュっと振り抜く…
「南○聖拳の真似事はできるようだ、いや、手刀が光るから元○皇拳か…」
斬撃を飛ばし、紅鶴のフンドシ男と同じ事ができれば武器庫から弓をちょろまかさずにすむ。
そもそも弓は矢にカネがかかりすぎるのが問題だ。オーク村に来てくれる行商など望むべくも無い。なるだけ自力で解決するしかない、めざせ地産地消だ。
ふーむ、魔力を…身体にめぐらせ…手刀に集め……振り抜くと共に……伸ばす?
「シッッ!!」
伸びた…びよーーんと伸びた……光の……ゴム? ムチ??
体感5メートルほど先の岩が滑らかにカットされて滑り落ちた。うーーむ、ま、まあ、いいか…
「…………遠距離攻撃問題は一応解決かな? 兄弟は遠くの獲物に有効な技はないか?」
兄弟はコクリと頷いて炎の魔力を活性化させると…
シュゴオオオッ…ボッボッボッ……と
火を吹いた…
あー、なんか見たことあるな。あれだ、WW2などの記録映像でヴィエットゲリラの塹壕や、うみんちゅ島の洞窟をにこやかに笑いながら焼き払っていた某国兵士の携帯兵器──M2火炎放射器!
この火力なら洞窟にこもったゴブリンも一掃……うん? ゴブリンは敵対的種族ではない可能性が?
それはともかく、火を吹けるのは知っていたが…
飛距離にして感じ20~30メートル程だろうか? 兄弟の魔法の才は私より上だな。ちょっとくやしい。
「さすが兄弟だな」
兄弟は自慢気にブイブイ鳴いた。
私も負けていられない、魔力をかき集め…練り…身体をめぐらせ…さらに練り…丹田から脊椎、脊椎から腕へ…一気に加速し、徹す
「電刃魔導拳!」
いいんだ…本当は最初からわかっていた……
コレがたぶん、魔力じゃないってこと……
「ぬおおぉっ!!」
脊椎から腕にかけての骨が、気(電気)の通過とともにガツンガツンきしんでちょっとイヤな音を脳髄に響かせる。
実際に気を徹してみないと体験出来ないが、脊椎の骨のひとつひとつや間接がガッツンガッツンとぶつかり叫び骨伝導で脳髄にイヤな音を直送するのだ。ちょっと、きもちわるい…
飛距離は、10メートルぐらいは稼げたと思う。ふぅ…
ちなみにカメ○メ波のように両掌に魔りょ…気を集めて撃ち出そうとすると、飛ばない事が確認出来た。
いや、飛ばすのは可能だが、両掌に作った気の玉を体から放つ放水のような気流で押し出す感じになり、二度手間であまり意味がないのだ。
マゴゴソラさんはどうやっていたのだろうか?
とりま、これで飛び道具問題が解決したので、私は兄弟と狩りに出ることにした。とにかく肉を手に入れなければ。
ネックはエンゲル係数、そして最も狩りやすい肉は…うーむ、ナルホド。
狩りやすい上に年中無休で発情期で繁殖力と適応力の高い獲物はやはりアレだよなぁ…私は考えるのをやめた。
まあ、うむ、とりあえず狩りだな。
私はカゴを背負って村のそばを流れる川にやって来た。
川幅は100メートルほどで、川辺には大ぶりな岩や石が散乱している。水は澄んでおり人間種でもそのまま飲めそうだった。
私は川の流れが緩やかな所に入るとひと抱えほどの石をひっくり返す。
「うわぁ…」
30センチほどの細長い川虫、素早く逃げ去った小魚はよしとしよう、しかしだ…しかしだ……
「泳ぐ…生レバー?」
小豆色のツヤツヤした20センチ四方ぐらいの生レバー状のナニカが、水底をすべるように逃げていく。
パシャリと水が跳ねる音がしたのでそちらを確認すると、兄弟が逃げた生レバーを貪っていた。美味いのだろうか?
シャリシャリと音を立てて、暴れる生レバーを咀嚼するマイブラザー…
「兄弟…美味いのか?」
ブンブンと頭を振って肯定するマイブラザーなうりぼう。本当に美味いらしい、いつもより上機嫌だ。
「兄弟、ちょっと分けてくれないか? お、ありがとう」
兄弟からもらったクリーピング生レバーを齧る。
シャリシャリとした歯触り、溢れ出る旨味滋味と生命のエキス…それらがじんわりと五臓六腑に染み渡る。
アタリだ!
そこからは作業だった。
川底の石をどかす、はいずる生レバーを確保、川虫はカゴに投げ込み、生レバー実食。
ビチビチ暴れる生レバーに塩をふりかけ齧りつきながら、レモンかスダチがあればと残念に思う。
シャリシャリシャリシャリ美味しい。
シャリシャリシャリシャリ美味しい。
シャリシャリシャリシャリ美味しい。
はっ?! 気がつけば私たちに荒らされた川岸は数十メートルにわたって掘り起こされ、静謐だった流れは巻き上げられた土砂で茶色に濁っていた。
「…………やりすぎたか。まあ、やむなし」
「ブフゥ…」
「そうだ兄弟、石を焼いてく…いやなんでもない」
私は川べりに穴を掘り、水を誘導した後にせきとめた。この後ここに焼いた石を入れて湯を沸かすつもりだったのだが…
「兄弟、この水を湯にしてくれるか?」
直接頼んだ方が早いと気づいたのだ。
依頼を受けて轟々と火を吐くうりぼう。瞬間に沸き立つ水。
私はそこに、集めた巨大な川虫たちを投入した。浜茹でである。
本当なら塩茹でにしたいところだが、塩は貴重で断念するしかない。いつか川を下り海を目指すのもいいかも知れないな。
茹で上がった30センチほどの川虫、暫定ジャイアントザザ虫たちを回収してカゴにもどす。
兄弟と1匹づつつまみ食いしながら集落に戻った。
身は昆虫でありながら脂っぽく、口の中に後味が糸を引くような食感。ねっとりと栄養価は高そうではあるがとりたてて美味しいとは言えない程度の食材だった。
「はいずる生レバーの方が美味いな…」
「ブフゥッ」
ジャイアントザザ虫を手土産にオババの小屋──元は村の薬師の小屋だった──を訪問、かねてからの疑問をぶつけた。
「アンタにゃ魔法は使えないよ」
魔法が使えないか気になり、シャーマンオババにたずねた結果がコレだ。
賄(まいない)に美味しいはいずる生レバーを1枚提供したというのになんたる仕打ち。
「アンタには魔力が無いからね、そっちの子は魔力持ちだけど」
ぐぬぬ…ファンタジー世界に転生したというのに魔力が無いのはおかしいだろう!
転生と言いながら元の人格が赤子や3歳児で、転生タグが無意味どころか邪魔でしか無いのに近い状況だ。ていうか転生者が記憶をロストしているやつなんなの?! 転生者には現地人には本来無い知識やアドバンテージがある→だがその記憶はロストしていて現状ただの現地人である→それじゃあ読み手に余計なストレスが発生するだけだろーーっ!
うーむ、なんとかならぬものか?
「オババ、コレは魔力じゃないのか?」
私は気を腕に集めてオババに見せる。
オババは残念な子を見る目で私を見ながら首を振った。
「ソレは強い戦士がたまに使うやつだねぇ、あ、そっちの子のは炎の属性魔力だよ」
「…………ステータス、メニュー、ステータスオープン、オープンメニュー、鑑定、config.sys、void main《void》、たっからぷとぽっぽるんがぷぴりっとぱろ」
「なんだいこの子は藪から棒に!?」
「すまないオババ、取り乱した。そうか無いのか、あー…そうだオババ、兄弟に魔法を教えてやってくれないか? 礼ならするが」
「それも無理だねぇ、アタシのは呪術だからねぇ」
聞けば兄弟のは火を吹く魔獣の本能のようなもので、オババの呪術は触媒を用いた類感呪術のたぐいらしい。
私が呪術を習えないかたずねたが、私には呪力も精霊力も無いのでダメなんだそうな。
精霊力…精霊、いるんだな……
「そうか、邪魔をしたなオババ、そのはいずる生レバーと川虫の浜茹では礼だ、食ってくれ」
「生レバー? プラナルじゃないか、コレ、食べたのかい?」
「ああ、塩をひとふりすると美味かったぞ」
「ブフンッ!」
トボトボとオババの小屋から立ち去ろうとした私に声がかけられる。
「アンタ、名前は?」
「名前はまだない」
「ふーん、そっちの子は?」
はて、兄弟の名前はなんだろう? まだついていないよな? 私が名づけてもいいのだろうか?
兄弟はキラキラした目で私を見つめている。私が名づけていいらしい。
ふむ、牡丹鍋、ポッポルンガ、フレイム、ブレイズ、ボルケーノ、ぼたん…
「兄弟の名前は、ボルタンだ」
兄弟はブフンッと笑った。
「またおいでよ、マダナイにボルタン」
「ああ、また…………うん?」
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